えー、世の中には、NO MUSIC, NO LIFEなどいう乙なフレーズがあるそうで。NO MONEY, NO WIFEなわたしのような無粋者にとってさえ、音楽とはまことに結構なものですな。

 じつは来月、音楽の起源に迫るという科学系の翻訳書を刊行させていただく予定になっております。『〈脳と文明〉の暗号』と、たいそう立派なタイトルの読み物ですが、これがわたしとしちゃ今年の訳書の出し納め。「へえ、もう納めちまうのかぃ。よっ、この納め上手!」って、んなこたぁ、ほっといて頂いてですね、この本の中に、Google絡みでちょいと面白い考察が出て参ります。

“音符”というキーワードで画像検索をしたら、どんな画像がヒットすると思うか、と。

「そりゃまぁ、真面目な楽譜とかじゃないの?」って気がしませんか? 実際の検索結果はここをクリックしてみてください。

 ははぁ。音符って、確かに、くねくね曲がって描かれる場合が多いよねぇ。……って、いや、そこが問題なんです。五線譜は本来、直線のはず。音波だって、聞き手に向かって直進してる。音量の大小はあっても、曲がりゃしません。音楽以外の音をイラストにするときは、くねらせたりしない。なのにどうして、音楽を視覚化するときだけ、曲がりくねった楽譜を描きたくなるんでしょうな?

 さあさあ、どうです? 不思議に思えてきましたね? 答えが知りたくなってきましたね?……おおっと、しかし残念! ここから先は、流石に申し上げられません。本のお代を払って頂いてからのお楽しみ。

 ってのは冗談ですが、なんと「音楽とは、人間の歩行音を模倣したものである」という大胆な仮説へ繋がっていきまして。到底ここじゃ根拠を説明しきれませんから、このへんでさておき、今はGoogle検索の話題のほうを広げたいと思います。

3)

 Google検索の基本技といえば、「いくつかの語を並べて関連情報を検索する」「いくつかの語を” “(半角の二重引用符)でくくって、そのフレーズを検索する」「適当な語を指定して、関連する画像を探す」あたりでしょうか。

 しかし、それだけじゃあ勿体ない。皆さんは * (半角のアスタリスク)の活用はなさってますか?

 この * とは「任意の語」を表わします。たとえば、冒頭に挙げたNO MUSIC, NO LIFEは、いろんなフレーズにパロディー化されてましてね。どんなのがあるか調べたければ、”NO * NO LIFE”と、 * を交えて” “でくくって検索すればOK。 * の部分にいろんな語が入ったフレーズをまとめて検索できるってわけです。結果はこちらで、いやはや皆さん、いろんな物がないと生きていけないようですな。

 まぁこれはあまり役に立たない例でしたが、もっとまともなケース——英文メールを書くときなど——にも非常に役立ちます。

 で、さらに重大な情報として、この * は日本語検索でも使えるってことをご存知でしたか?

 たとえば、何かの文章の中で「記者の態度が」と書きかけて、いや待てよ、「記者の○○な態度が」とひとこと挟みたいな、と思ったとしましょう。ここで、 * の出番です。”記者の*な態度”と検索すれば、この検索結果のように、「無礼な」「横柄な」「高飛車な」「意地っ張りな」「不誠実な」といった悪い形容のほか、「真摯な」「冷静な」「正当な」「あからさまな」「得意げな」など、いろんな方向性の修飾語句を一望できるって寸法です。

 この種の活用法は、もちろん、 * を使わないケースも考えられますな。たとえば訳文の途中、「予想外の展開に」まで書いて、うーん、「驚いた」で締めくくるのは平凡すぎていかんなぁと思ったら、”予想外の展開に”を検索すればいいわけで。すると、「立ちすくんだ」「慌てふためいた」「肝を冷やした」「不覚にも涙した」「もう笑うしかなかった」などなどの繋がりが見つかります。

 早い話、Googleはコロケーション辞典みたいなものとして活用できるわけです。しっかりした辞典と違って、ゆるーい括りであるところが、かえって発想の転換に役立ったり……。もちろん、Googleには素人の間違った用法も含まれていますから、そこは自分で判断しなきゃいけませんがね。

 さて、「ここまでの情報なんてみんな知ってらぁ」とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、まだまだあります。ただ、このあとご紹介する便利機能のいくつかは、Googleの表示を「英語」に設定していないと使えません。Googleページの右上の歯車をクリックして、もし下図のように日本語が表示されるようなら、英語表示に変えといたほうが、翻訳作業には便利ですよ、きっと。

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 切り替えるのは簡単で、検索の設定→言語→英語→保存ボタン。

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 でもって、英語表示に変えるとどんな素敵な魔法が働いてくれるのかといえば、まず、単位の換算がやたら便利になります。海外小説にはよく「5フィート8インチの男」なんて人物が登場しますな。……あんた、いったい何センチやねん。計算めんどくさっ。

 そんなときだって、なぁに、単位換算の専用ソフトなんて要りません。Googleの検索欄に5 feet 8 inchesと入れるだけ。するとこうなります。

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 面積や体積も変換できますし、わたしの頭では永遠に暗算不可能な、温度の換算(華氏→摂氏)だって楽々です。いやいや、Fahrenheitの綴りを忘れたって大丈夫。Faくらいまで入れれば推測候補を出してくれるはずですから、問題ありゃしません。

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 この調子で、四則計算だって、通貨の換算だって、お手の物。

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 冒頭で取り上げた画像検索にしてもですね、なかなか佐伯さんの元旦那が深い……いやつまり、奥が深いですな。辞書と現実のギャップみたいなものを感じることもしばしばです。

 たとえばですよ、”sandy hair”は本当に「砂色の髪」なのか?(検索結果はこちら砂色よりずっと濃いsandy brownsandy blondeが主流を占めているように見えませんか?)。”pursed lips”は辞書どおり「唇をすぼめる/尖らす」と訳して大丈夫か?(検索結果はこちら。「への字に結んでいる」に近い写真が目立ちませんか? 実際、こんなのもありますね)。

 ……とまぁ、謎はどこまでも尽きません。

4)

 謎が尽きないのは楽しくてよろしいんですが、困ったことに、あれこれ検索をしていると、本筋とは関係のない、でもすごく面白そうなページが次々に見つかってしまいますな。翻訳者はたいがい、好奇心なら人百倍、新しい知識を仕入れるのが三度の飯プラス間食より好きって人種でしょうから、検索中に心惹かれるサイトなんぞに遭遇すると、つい立ち寄りたくなりがちです。

 ふうむ、こいつぁ興味深い。いつ読むか?……今でしょ!

 ってわけには参りません。ひょいひょい寄り道ばかりしてちゃ、仕事がいっこうに捗りませんから。

 そこで役立つのが、読みたいページをとりあえず登録しておいて、あとでまとめて読めるようにしてくれるサービスです。パソコンマニアの間では、略して「あとで読むサービス」などと呼ばれてるそうで。ま、たいして短くなってない気もしますが。

 わたしはしばらく、「そんなの使わなくたって、ブックマークしといて、あとで読みゃあ、同じでしょ」と思って無視してました。ところが、違うんですな。

 まず、この手のサービスは、広告などをなるべく省いて、統一感のあるきれいなレイアウトにしてくれます(スッキリこのとおり)。

 そのうえ、複数ページにまたがる記事を、なるべく1ページにまとめてくれる。

 さらには、読み捨てておしまいの記事と、しばらく取っておきたい記事との仕分けも簡単にできるんです。

 ときには、ホームページの構造をうまく解析できず、正しく表示してくれないケースもありますが、その場合はオリジナルのページへジャンプ可能。

 この手のサービスはいくつかありますが、お勧めは、いちばん老舗のPocket(旧称Read It Later)です。

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 詳しい設定方法は、ここあたりをご覧あれ。

 iPad用などのPocketアプリでは、一度読み込んでおくとオフラインでも閲覧できて便利。わたしはiPad向け防水ケースなんてのを買って、たいがいお風呂の中でPocketを読んでおります。

 そういや、iPadの話ももっとしたいですなぁ……とは思うものの、次回はひとまず類語辞典をテーマにしようかと考えております。では。

中山 宥(なかやま ゆう)。1964年、東京生まれ。訳書は、ドン・ウィンズロウ「夜明けのパトロール」「紳士の黙約」、マイケル・ルイス「マネー・ボール[完全版]」など。

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