第48回 美しいカントリー・ミュージックにのせて、どろどろの愛憎劇を展開する歌謡メロドラマ『ナッシュビル』

 あけましておめでとうございます。皆さん、よいお正月は過ごせたでしょうか? 私はずーっと〆切地獄に苦しめられております。とほほ。

 さて、新年一発目のご紹介は掟破りの非ミステリドラマでいこうかと思います。その名も『ナッシュビル』

 ナッシュビルは、アメリカ南部のテネシー州の中部にある都市です。州都であり、南北戦争の激戦地としても知られていますが、現在はなんといってもカントリー・ミュージックと呼ばれるジャンルの、音楽産業の中心地として有名な街です。

 カントリーというと、アメリカ南部発祥の音楽で、保守的な白人が好む、西部劇なんかに出てくる、アコースティックギターやバンジョーといった楽器を使った、いかにも田舎くさい音楽といったイメージをお持ちの方もおられると思います。ですが、近年ではロックの影響を強く受けた楽曲が増えて、若い世代にも浸透しており、特にポップな曲調の女性シンガーはカントリーファンだけでなく、あらゆる層から絶大な支持を得ているのです(最近だと、キャリー・アンダーウッドやテイラー・スウィフトあたりが代表例)。

 ドラマ『ナッシュビル』は、まさにそんなナッシュビルの街と、その地のカントリー・ミュージック業界を舞台に、ドロドロとした愛憎劇が繰り広げられるという、アメリカテレビ界お得意の多人数メロドラマなのでした(アメリカ人はホントにこういうの好きですよね)。

 主役を張るのは、『アメリカン・ホラー・ストーリー』のコニー・ブリットンと、『ヒーローズ』のヘイデン・パネッティーア。彼らが扮するのは、片や実力派シンガーとして長年カントリーの世界に君臨してきた大スターながら、今や人気に陰りが見えてきているベテラン歌手レイナ・ジェイムズと、片や彗星の如くデビューし、キュートなルックスとポップな曲調でカントリー界のアイドルとして人気急上昇中なれど、業界内ではまさに「アイドル」扱いでシリアスなシンガーとして扱われていないことを不満に感じている新人歌手ジュリエット・バーンズという、まさに対照的な二人。

 しかも、それぞれに家庭内に問題を抱えていて、華やかな仕事とは裏腹に、私生活は幸せとは言えないという「お約束」な設定がやたらと効いてます。

 レイナと仲の悪い父親は地方を牛耳る悪徳政治家だし、レイナの旦那は妻の元カレがバンドのギタリストを続けてることにイライラしっぱなし。一方のジュリエットの方は、母親が元ヤク中でアル中なもんで、子供の頃から愛情に飢えてて、とにかく人間関係がうまく構築できない。

 そして、何よりもこの二人、レイナはジュリエットを「ちょっと顔と声が良いだけの作られたアイドル」だとバカにしてるし、ジュリエットのほうはレイナのことを「過去の栄光にすがる時代遅れのおばさん」だと思ってるしで、ものすごい犬猿の仲。ところが、レコード会社の思惑から、一緒にツアーしろと言われ続けて、いよいよ険悪な空気が漂い出します。

 双方の事情を知ってる視聴者としては、ニヤニヤ(いや、ハラハラ?)しながら、二人のぶつかり合いを楽しく見られるという、まさにこの手のメロドラマの醍醐味が存分に楽しめる作りとなっているわけです。

 一方、彼ら二人が「今現在のスター」なら、「明日のスター」を目指して「何者でもない日々」をもがく若者たちに、クレア・ボウエン、ジョナサン・ジャクソン、サム・パラディオといった若手俳優たちが扮しています(ボウエンとジャクソンは実際に歌手でもあります)。この人たちは、まさに「夢以外は何も持ってない」ものだから、日々悩み、迷い、壁にぶち当たりと、忙しいこと忙しいこと(苦笑)。

 あくまで主役は先に挙げた二人でありながら、こういう脇キャラたちが充実していて、群像劇っぽい感じもきちんと出しているあたりの作りも上手いのでした。

 これらの人々の人生模様を、彼らの歌うカントリー・ミュージックに合わせて描く様は、まさに大人のための『glee』と言ってもいいでしょう。『glee』と同じく、彼ら出演俳優たちが実際に劇中で毎回何曲も披露するところもこの作品のウリで、すでにアルバムも何枚か発売され評判になっています。実際、これがけっこういいんですよ。

 てなわけで、波瀾万丈の歌謡メロドラマ『ナッシュビル』、(たぶん)ミステリファンの皆様にもお勧めの一本です。早く日本でもソフト化されたりしないかなあ。

 ところで、なんで急に音楽業界ネタのメロドラマを取り上げたかというと、ジェフリー・ディーヴァーの〈キャサリン・ダンス〉シリーズ第3作『シャドウ・ストーカー』が、なんとカントリー・ミュージックを題材にしていたからだったりします(よしよし、なんとかミステリに話を戻したぞ)。

 行動心理学に基づいたキネシクス技術でいかなる嘘も見破る尋問の天才、キャサリン・ダンスのシリーズもこれで3作目(脇役として登場しているリンカーン・ライムものを含めると、登場はすでに5回目)、すっかり読者のあいだでもお馴染みのキャラとなりつつあるのですが、ここへきて「実はカントリー・ミュージックのファンで自分でも歌う」という、なんかほのぼのした設定が!(笑)

 というわけで今回は、休暇を利用して訪れた町で、知り合いのカントリーシンガーがストーカーに悩まされていることを知り、そのまま事件に巻き込まれていくという、番外編めいた作りとなっています。いや、「だが、実は!」というどんでん返しがくり返されるあたりは、毎度お馴染み、安心のディーヴァー印なんですけど。

 しかも、ディーヴァー、カントリー・ミュージックを題材にしたミステリを書いただけでなく、そこに登場する曲の歌詞を自作(このへんまでは、大沢在昌さんの『新宿鮫』でもやってましたが)、さらにそれを実際の楽曲にしたアルバムまで作っちゃったのです。しかも、全曲、ユーチューブにミュージックビデオもアップされてたりして。

 最近アメリカでは、短い動画を作ってネットにアップし、新作小説の宣伝をすることが増えてきましたが、これもその一種なんですよね。さすが新しいもの好きなディーヴァー。やることが他の人より一ひねりしております。

 というわけで、今回はカントリー・ミュージック尽くしでお送りしました。ではでは、今年もよろしくおつきあいくださいませ〜。

*今回、水玉螢之丞さんのカットは都合により休載いたします。(事務局)

◆『ナッシュビル』予告編

◆『ナッシュビル』主役二人によるデュエット「ウロング・ソング」

◆『ナッシュビル』子役二人が歌う「ホー・ヘイ」(原曲はザ・ルミニアーズ)実は、私はこれが一番のお気に入りだったりしてw

◆『シャドウ・ストーカー』に登場するディーヴァー作詞の楽曲の一つ「ユア・シャドウ」

堺 三保(さかい みつやす)

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1963年大阪生まれ。零細文筆業者。訳書近刊にコミックス『R.I.P.D.』、『2ガンズ』(共に小学館集英社プロダクション)。

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