みなさんこんばんは。第29回のミステリアス・シネマ・クラブです。このコラムではいわゆる「探偵映画」「犯罪映画」だけではなく「秘密」や「謎」の要素があるすべての映画をミステリ(アスな)映画と位置付けてご案内しております。
 
 私、先日誕生日を迎えました。結構いい年なんですが、全然まだ若い頃に想像していたような「大人の女性」にはなれていません。それでもまあなんとかまた1年を越したし、次の1年もどうにかしてやるぞという気持ちで黙々とケーキを食べてはみたのですが。
 
 ところで映画や小説ではちょくちょく誕生日やバースデー・パーティで何かが起こる……というパターンがありますね。最近劇場公開された作品のなかでは『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(大変愉快な探偵映画でしたね!)で世界的ミステリ作家が謎の死を遂げたのは誕生日パーティの夜でした。個人的にお気に入りなのはNetflixに入っている女性監督が撮った奇妙な味のホラーオムニバス『XX』の中でSt. Vincentがアニー・クラーク名義で手掛けた作品、その名も『誕生日パーティ』。こどもの誕生日会を予定通り開催するために一生懸命死体を隠そうとするお母さんの奮闘をカラフル&ポップなタッチで描いていてなかなか楽しいのですよ。

 小説にも色々ありますね。最近読んだキム・エランの素晴らしい短編集『外は夏』の1編、『覆い隠す手』は、息子の誕生日の夜、夕食準備をする母親の心に去来する不安をじわじわ炙り出していく作品でした。ケン・リュウの『生まれ変わり』収録の『七度の誕生日』も永遠に続いていく母と娘の「その日」のヴァリエーションとして心に残っています。誕生日映画&誕生日小説、探すといろいろありそうですね。

 さて、今回ご紹介するのはそんな誕生日映画のスタンダードになりそうな楽しいタイムループ青春ホラーコメディ、昨年連続公開された『ハッピー・デス・デイ』およびその続編『ハッピー・デス・デイ 2U』です。

■『ハッピー・デス・デイ』(HAPPY DEATH DAY)■


あらすじ:誕生日、見知らぬ男子のベッドで目覚めた女子大生のツリー。昨夜の記憶がない、しまった、またやってしまったか。さっさとその場を立ち去るのもいつもどおり、そう、彼女はロクでもない生活を送っているのである。しかしその夜、事件が起きた。なんと、謎のマスク姿の殺人鬼に刺し殺されてしまったのだ!ところが、死んだと思った瞬間に彼女は誕生日の朝に戻って、またあの見知らぬ男子のベッドの中にいる……そして悪夢が始まった。どう避けようとしても殺人鬼が現れ、殺されては誕生日の朝に戻るというタイムループにハマってしまったのだ! これ、どうにか抜け出す方法はないの!? というか私を殺したの誰なんだよ! ツリーの悪戦苦闘の結果やいかに……

 ループものとしての定石を踏まえつつ、「繰り返し」のモチーフをあくまでもミステリに貢献させる形で扱っていて、実に楽しい作品。主人公の「死ななさ」に一定の制限を設けるスリリングな構成や展開の「マジかよ」という変化球にも驚きます。でも何より私がこの作品を好きなのは「やさぐれ女子の死にゲー攻略」ものだから。

 今作の主人公ツリー(ジェシカ・ローテ)は、あまり褒められたことをしていないし、見た目もいかにも「スラッシャー映画で殺される意地悪なギャル」的な佇まい。でも途中から「あ、これは諸事情が重なった結果、やさぐれちゃったのだな」とわかってくるのです。他人に失礼な態度を取りまくるのはもちろん、自分の身体や心の扱いも雑なのが定常化してしまっている女の子のどうでもいい人生は「死にゲー(難易度が高すぎてすぐゲームオーバーになる個人用ゲーム)」的な世界に突っ込まれたことで一転。死んで、死んで、死にまくる中で芽生える「いや殺されたくないし!やっぱわたしの人生どうでもよくなかったわ!」結果として、死ねば死ぬほどに「生きて、生きて、生きまくったるわ!」という意志が固まっていくのが素敵なのです。とはいえソフトに収録されている別バージョンのラスト(試写で不評だったので変更されたそう)を見るとそこまで考えてやったことなのかどうかはよくわからないのですが(笑)。

 真実に至るルートが周到に回避されていることを各ルートのドタバタで意識させず、思い返せばヒントはきちんとあったなと感じさせるバランスもいい感じです。正直かなり強引なパートもあるのですが、とにかく見ている間飽きさせないアイデアが豊富で楽しい1作でした。

■『ハッピー・デス・デイ 2U』(HAPPY DEATH DAY 2U)■


あらすじ:完全な「1作目の展開ありき」の作品なので、ネタバレを避けるため、ここには書きません!気になる方は予告編をどうぞ!

 続編にあたる『ハッピー・デス・デイ・2U』もなかなか面白い作品でした。なんといっても続編で律儀な全員の再集結が見られるだけでも嬉しいですし、さらに今作では前作ではチョイ役だった人物までどんどん見せ場が増えていく。おかげでドラマ1シーズンを1本にしたような目まぐるしくてせわしない展開になっているのですが、それもまた楽しい。

 1作目である程度ホラーとしての決着はつけてしまっているので、どうするのかな?と思ったら、異なる方向で主人公の破れかぶれ(死に方バリエーションギャグの過剰さ!)と人生を変えたい思いの切実さをグレードアップ。ツイストのきいた前作をさらにツイストさせて「変えられない運命を変えるとはどういうことなのか」を、あくまでも青春ミステリコメディとしての軽みを失わず最後までノンストップで語り切る、良い続編です!


■よろしければ、こちらも/『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』

(“https://www.netflix.com/jp/title/80211627”)

「やさぐれ女子の死にゲー攻略」ものとして、『ハッピー・デス・デイ』の年の離れた姉(実際はこちらのほうが後に製作されているのですが)のようなこのNetflixオリジナルドラマも大のお気に入りです。こちらの主人公は36歳、そろそろ中年危機かねえとボヤくナディア。誕生日パーティでもいつもと変わらず投げやりに過ごしていた彼女が、思わぬアクシデントで死んでしまって……次の瞬間、パーティ会場のトイレに再び戻っている。あれ? 今私死んだよな? 何が起きてる?? というお話なんですが、これ主人公ナディアを演じるナターシャ・リオンのナチュラルボーンやさぐれ子ぶりが実に良いのです。同じ場に戻ってくるたびに吐き出すようなFワード、都合が悪くなると相手の目を見ないでごにょごにょ言う対人関係難アリな態度、「赤毛のアンより可愛いエミリーが好き」という設定、内面の繊細さをやさぐれた外見でカバーしながら1人で生きてきた女の年季の入ったくわえ煙草。全てが最高でした。

 現代らしくて面白いな、と思うのが、主人公が仕事柄「これは攻略方法を探す、いわゆる死にゲーだ」とあっさり理解して行動している点。混乱しつつも何が原因でいつ死んでループに入るかわからないので「とにかく関係ありそうなこと」に当たって分岐点とルールを把握しようと理論的に頑張る主人公の「フリーランスのゲームプログラマー」設定が効果をあげています。途中から意外な方面に捻れる話をラストで「そうきたか」という展開に落とし込むのもお見事でした!

 こうしたタイムループというSFアイデアを使った「まだ死なねーぞ」としぶとく戦う女子たちの物語を見ていると、誕生日は「人生」という難易度の高いゲームにおいて「次はどうする」という選択を考える良いタイミングなのかな、などと思ってみたり。はてさて私の今年はどんな1年になることやら。死のタイムループが起きないことを祈りつつ、それでは今宵はこのあたりで。また次回のミステリアス・シネマ・クラブでお会いしましょう。

今野芙実(こんの ふみ)
 webマガジン「花園Magazine」編集スタッフ&ライター。2017年4月から東京を離れ、鹿児島で観たり聴いたり読んだり書いたりしています。映画と小説と日々の暮らしについてつぶやくのが好きなインターネットの人。
 twitterアカウントは vertigo(@vertigonote)です。

XX – Official Trailer


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