みなさんこんばんは。第38回のミステリアス・シネマ・クラブです。このコラムではいわゆる「探偵映画」「犯罪映画」だけではなく「秘密」や「謎」の要素があるすべての映画をミステリ(アスな)映画と位置付けてご案内しております。

やっとワクチン1回目の接種を終えて「腕が重い……」となりながらこれを書いています。多少なりとも接種が進んできて安心できるかといえばまだまだ安心もできず。いつになったらこの殆どの時間を家で引きこもっているライフスタイルから抜け出せるんでしょうか(もう戻れないような気もしますよね……)。

昨年の今頃は「1年も経てば、さすがに……」と思っていたのですが、1年半過ぎてもまだこの状態、振り出しに戻され続けるようなコロナ禍の閉塞感にもいいかげん疲れてきた今日この頃。時空の歪みに吸い込まれるタイムループ系の作品が大好物の私ですが、さすがにそのうんざり感が自分の生活に重なってくると厳しいものがあるなあと思います。

とはいえ「同じことの繰り返しからどうやっても抜け出せない」という設定はフィクションで見る分にはやはり面白い。このコラムでも『残酷で異常』『ハッピー・デス・デイ』シリーズなどを取り上げてきましたが、今回はそのタイムループ系作品のご紹介企画第3弾!(勝手にシリーズ化)。チョ・ソンホ監督のタイムループSFミステリ『エンドレス 繰り返される悪夢』をご紹介しましょう。

■『エンドレス 繰り返される悪夢』(A Day)


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あらすじ:今日は娘の誕生日。有名外科医のジュニョン(キム・ミョンミン)は、約束の場所へと向かっていた。しかし、その途上で恐ろしいことが起きた。娘が交通事故にあって、命を落としたのだ。事故現場で激しいショックを受けるジュニョン。ところが、次の瞬間、ジュニョンは事故の「2時間前」に戻っていた。そこから悪夢が始まった。何度も何度も同じ時間を繰り返し、どうやっても事故は防げない。逃れられない絶望の繰り返し。しかし「ジュニョンがタイムループしていること」に気づいている人物が現れたとき、話は意外な方向に進み始める……90分。

どうしても最悪の事態を避けられないループものという「ありそうな設定」も個の話に閉じなければ、ここまで普遍的な生と倫理のミステリにできるのだな!と感心した作品です。初見時、おそらくこれは色々な国でリメイク可能な話なのではないかな、と感じたんですよね。スペイン語圏のミステリを思わせるところもあるし、英国でTVMとして「隠れた名品」として知られていてもおかしくないと感じるし、ハリウッド映画でももちろん可能でしょう。北欧組キャストでも仏語圏キャストでも、もちろん日本映画として作られていても、全部想像できる……というのが、脚本の「ループ」の考え方の普遍的な強度を表しているように思います。

明らかな欠点もある、とは言い添えておきましょう。よく考えると「途中で判明する事態をさすがに全部忘れていることはないでしょ、なぜそこに思い至らない?」という疑問は抱かざるをえない。それに「泣かせ」の要素が多いのも人を選ぶと思います。

それでもこの映画はとても楽しい。冗長にも思える序盤のしつこいくらいの丁寧さには、ちょっとまだるっこしさを感じていたのですが、これはおそらく作り手の狙い通り。どんどん省略が進んで速度が上がってきて、意外な展開が積み重ねられていくので、とにかく勢いがある。下手なやり方だと回想パートを増やしてしまいそうなものですが、そこは控えめなもの。ささっと90分で片づけている手際の良さが心地よいのです。

ミステリ映画においては「真実を少しずつ明らかにしていく」系と「思い切ったひっくり返し」系があり、どちらにも面白さはあると思うのですが、この映画は前者のタイプとして「真実にたどり着く皮の剥がし方」の技が堪能できるパターンではないでしょうか。

英題は「A Day」。これとても良いタイトルだと思います。私が生きている1日は「これまで」の一番端っこで、すれ違うたくさんの人たちそれぞれに「これまで」と「これから」がある、だから私たちは私たちを誤魔化さず生きていこう――というメッセージが、ラストにすっと胸に落ちてくるこの映画に相応しい。また、このメッセージを直接台詞として誰かに語らせることはなく、「ごめんなさい」「ありがとう」というシンプルな言葉だけにすべてを集約する節度もとても好ましいものに映りました。

これは、あなたが生きるこの「一日」の寓話。ちょっと現実の枠を飛び越えすぎているところもあるのですが「こういう話を語るため」なのだからそれでいいのだな、と私は好意的に受け止めました。タイムループものは、事態そのものではなく、その「行き詰まった状況によって何を語るか」が面白いジャンルだなあと改めて実感した佳品ですので、未見でしたら是非お試しを。何しろ90分映画なので、サクッといけますよ!

■よろしければ、こちらも/『アンダン ~時を超える者~』

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タイムループによって「何を語るか」という点では、Amazon Originalのアニメシリーズ『アンダン ~時を超える者~』もかなり面白く見ました。ちなみに今作ではタイムループは要素のひとつ、どちらかというともっとスケールが大きい(そして同時にとても小さい……見ればわかります!)「私の周りの時空がおかしくなっている???」という風変わりなSFミステリです。

不安を抱えて怯えながら誰にも話せず、恋人とも「家庭」を作ることが怖い女性アルマ。なんだか色々うまくいってなくて、毎日ムシャクシャする。妹が結婚する男も気に食わないし、何かと「まともさ」を求める母の態度も気に入らない。いつもトラブルを起こしてしまって、全部ぶち壊してしまうやさぐれた彼女は、その日も家族と揉めて大泣きしながらパニック状態で車を走らせていた。そのとき発生した事故以来から、何もかも様子がおかしくなって……という第一話からぐっと引き込まれます。

私は、何事も皮肉っぽく混ぜっ返してないと泣き叫んでしまいそうな、本当は今にもバラバラになってしまいそうなくせに、絶対に助けてほしいと言えない「死にぞこないのやさぐれ女」とタイムループものって本当に相性がいいと思っているのですよね(『ハッピー・デス・デイ』の回を参照)。こうした主人公の「生きてるの、しんどいよな…」感を描く物語は、いつもどこか優しい。悲しいけれど、優しいのです。

後半はやや失速するのが残念なのですが、それでも「ロトスコープ(実際に撮影した映像をトレースしてアニメーション化する技法)だからこそ」の魅力は炸裂。あの「リアルだけどリアルじゃない」感じ、どこまでも現実なんだけど異なる時空に迷い込む主人公の物語にうまく重なっていると思うんですよね。ちょっと変わった味のタイムループ作品を試したい方は、是非。

それにしても、世の中は同じところをぐるぐる回っているように思えます。改めて「同じ場所からどうしても逃れられない」ループものの表現をこれほど切実に感じる時代もないよな……と思ってしまう。フィクションの多くがそうであるように、世界もなにかのきっかけで「ループを抜け出す糸口」を探せるといいのですが……はてさて、これから世の中はどうなっていくのでしょうか。それでは今宵はこのあたりで。また次回のミステリアス・シネマ・クラブでお会いしましょう。

今野芙実(こんの ふみ)
 webマガジン「花園Magazine」編集スタッフ&ライター。2017年4月から東京を離れ、鹿児島で観たり聴いたり読んだり書いたりしています。映画と小説と日々の暮らしについてつぶやくのが好きなインターネットの人。
 twitterアカウントは vertigo(@vertigonote)です。

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