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『航路』部屋は細部にこだわる。

 それは、あたぽんにて参加者が各読書会部屋へと移動しつつある夕暮れ時、『航路』部屋に『ゴーン・ガール』部屋の幹事T山さんが入ってきて座卓にささっと着くなり、「早く自分たちの部屋に行きなさーい」。そこにいた全員が一斉に「いえ、ここは『航路』部屋です」「え?」「ここは、『航路』部屋です」。

 数秒後に「失礼しました〜」と去っていくT山さんに、課題図書『航路』における「目的地になかなか辿りつかないもどかしさ」を見事に体現された感じがしました。くやしい。

 参加者は幹事の大矢さんを含めて13人。全員が椅子や座椅子&座布団に座り、大きな座卓をぐるっと取り囲み、畳の上で『航路』について語り合うとは、コニー・ウィリスも想像しなかったに違いありません。

 しかもここは熱海。誰にとってもアウェイで、「トト、ここはカンザスじゃない」状態。

 自己紹介しつつ、それぞれ簡単に感想を。

「これって、これで終わり? この話に続きないの?」(注:残念ですが、ないです)

「このネタにジャック・フットレルが出てこないなんて、触れられないなんて…」(注:ジャック・フットレルとは、『十三号独房の問題』などの〈思考機械〉シリーズを書いたアメリカの作家です。ネタバレ回避のため、これ以上の情報収集はセルフサービスでお願いします)

「コニー・ウィリスの作品の中で一番読み易いのが『航路』だと、うちのダンナが言ったので…」

 これには「えええええ〜?」と驚きの声が。この上下巻の長さを『読み易い』の範疇に入れていいものかどうか。世界は広い。

「上巻がなかなか読み進まない」

「マーシー総合病院の、目的地になかなか着かないあの感じが、いい」

「あの世があるかどうかはともかく、暖かな光に満ちた世界に迎え入れられるのならば、そういう死に方をしたい」

「会話に誰かが必ず割り込んできて、会話が進まないのがイライラする」

「コニー・ウィリスの小説は好きだけど、コニーにしては、これは切れ味が悪い」

「どんでん返しがくるのかと思ったけど、こなかった」

 などなど、細部に突っ込みを入れつつも、概ね好意的。ですが、男性二人は「面白いと思うけど、うーん」とあまり好きでない様子。

 早速、この小説の問題箇所、第39章に切り込みました。

 大事件が起き、主人公二人のパートが交互に入る構成になるのですが、その時間軸に誰もが困惑しました。これは同時進行? それともカットバック? それとも…。

 これは人によって受け取り方が違っていて、「同時進行派」と「カットバック派」それぞれが、「これ、同時進行じゃないと時間軸が」「カットバックでないとミスター・マンドレイクの『光のむこう』が存在することになる」「シナプスが生き残ってるから同時進行かと思ってた」「でもその時は…」。全員が頭を抱える事態になり、謎は深まるばかり。

 またその後の宗教色がちらちら滲む描写については、「クリスチャンにも、そうでない人にも、また『あの世』を信じない人にも受け入れられるように、作者が最大公約数を目指して書いたのかも知れない。決して日和った訳では、ない…とは思うんだけど」という大矢さんの説に頷く一同。

 そして話題はリチャードご乱心の第41章へ。自分の研究や信念をぶっ飛ばしたパニックシーンについては、「あれはどうなの?」「慌てすぎでしょ」「ねー」「……愛してたんですよ」。これには室内がにんまりほんわかムードに。やっぱりそうですよね、うん、ですよね。分かってますって、ははは。

「いずれにしても『落ち着け、リチャード!』だよね」「うんうん」「でもリチャードが彼女を好きとか匂わせるシーン、ありましたっけ?」「いい感じとは見てるけど、そこまでは」「コニー作品の恋愛っていつもこんな感じ?」「いやいや、いつもは会うなり『あら、かわいい男の人じゃない?』から始まり、いつの間にか一緒に行動しているパターンですかね」「『スパイス・ポグロム』(河出文庫『最後のウィネベーゴ』に収録)は違いますけどね」(と、指摘した彼ですが、その数時間後には「水星どっばーん」を連発し、トイレから布団に瞬間移動した翌朝、キャンバスになった自分の体を発見するとは、この時は予想していなかったに違いありません)

 そんな中、最初に煮え切らない感想を述べたK田氏は、いまいちの理由を「メイジーちゃんは可愛いし、メイジーちゃんは…メイジーちゃんは…」と語っていたのですが、なぜ登場人物に「ちゃん」を付けるのだろうか? どうしてなんだろうか、なんでなんだろうか、とつまらぬ疑問にこだわってて聞き逃しました。

 そんなK田氏に大矢さんは、「好き嫌いは個人の好みだけど、でもこれが面白くないはずがない。論破してやる」

 大矢さんは解説者モードに移行。

・長い作品だけど、この長さには理由がある。全てにおいて無駄なし。

・全てがメタファー。

・序盤に「58」という数字が繰り返された理由は、あるのだ! 第58章で何が起きたのか、ご覧あれ。

・構成ばっちり、コレを面白い小説を言わずに何を面白いと言うのだ?

 やがて話題は、リチャードの白衣のポケットへ。あのポケットはどんだけ大きいのよ。りんご、エナジー・バー、箱入りレーズン、ピーナツ入りm&m、他2種類の飲み物とストロー、って、ドラえもんのポケットか? 4次元に通じているのか? そこからして『光の向こう』なのか? いやいやそこまでメタファーじゃないって。

 そして突っ込みは個性的な脇役にも及び、時間に厳しい日本人ならば、誰もが突っ込みを入れざるを得ない、「アミーリア・タナカ、日本人の遺伝子を持っているならば、遅刻するな」

 最後には「『光の向こう』があるとしたら、クリスチャンでなくても天使が出迎えるのか? 仏教徒はどうなるんだろうか」「三途の川のイメージは、日本人だけ?」「流れる水は『死』のメタファー」「あの世は『すっごい綺麗なお花畑だった』と、臨死体験のある母は言ってました」「この小説のうまさは、日本だと宮部みゆきかな」などなど話題は広がり、何となくコニー・ウィリスの掌の上で転がされた感じがしないでもありませんが、小説の面白さを教える良書に盛り上がった1時間半でした(他もいろいろ出ましたが、ネタバレ回避のため、ここらでご勘弁下さい)。

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