ごぶさたしております。以前、「初心者のためのエラリー・クイーン入門」(【前篇】・【後篇】)を書かせていただいた飯城勇三です。今回は、私が訳した本の紹介をさせてもらいたいと思います。その本は、原書房から2015年9月24日発売予定の〈エラリー・クイーン外典コレクション〉第1弾『チェスプレイヤーの密室』(エラリー・クイーン)です。
この題名は、かなりのクイーン・ファンでも聞いたことがないでしょうね。実はこの長篇、クイーン名義で他作家が代作したペーパーバック・オリジナルの1冊で、原題は「A Room To Die In」。つまり、〈エラリー・クイーン外典コレクション〉というのは、ペーパーバック・オリジナルの中から、クイーン風の本格で、かつ、出来が良いものを紹介しようという企画なのです。予定されている作品は、以下の3冊(【2】と【3】は仮題)。
【1】『チェスプレイヤーの密室』(A Room to Die In,1965)ジャック・ヴァンス代作
【2】『摩天楼のクローズドサークル』(What’s in the Dark,1968)リチャード・デミング代作
【3】『熱く冷たいアリバイ』(Blow Hot,Blow Cold,1964)フレッチャー・フローラ代作
ペーパーバック・オリジナルで邦訳のある『二百万ドルの死者』(1961,スティーヴン・マーロウ代作/ハヤカワ・ミステリ文庫)と『青の殺人』(1972,エドワード・D・ホック代作/原書房)だけを読んで、「しょせん代作だろう」とあなどってはいけませんよ。今回の代作者は3人とも一流ですし、最近の研究では、クイーンの片割れのマンフレッド・リーが、プロットと文章の監修をしていたことがわかっていますから。
その第1弾の『チェスプレイヤーの密室』は、題名通り、チェスプレイヤーが密室の中で射殺されるという事件。警察は自殺しかあり得ないと言うが、娘のアンは信じない。だが、現場は完璧な密室だったのだ……。さらに、被害者を強請っていた人物の謎、離婚した前妻(アンの実母)の不可解な行動の謎、彼女からの手紙の謎、銃は1発しか発射されていないのに3発の銃声が聞こえた謎、そして、6脚しかない本箱の跡が9つ残っていた謎、と次々に謎が積み重なっていく。だが、探偵役は、最後に容疑者を集め、すべての謎を解き明かすのだった……。
という、良く出来たクイーン風本格ミステリーです。ぜひ読んでみてください。また、ミステリ関係以外にも、チェスや古本のファンが楽しめるシーンがあります。
なお、私がこの本の解説を書くにあたり、白石朗氏に大変お世話になりました。しかも、そのきっかけは、このサイトに氏が書いた、ジャック・ヴァンスが代作したクイーン作品についての文章だったのです(→2013-06-11掲載「【追悼】ジャック・ヴァンスのミステリー作品リスト)。氏には貴重な資料のコピーをいただいたり、重要な情報を教えていただいたりと、いくら感謝しても感謝し足りません。ありがとうございます。
では最後に、その解説にも書いていない裏話を。
実を言うと、本書の仕掛け人は、私ではなく、法月綸太郎氏だったのです。数年前、氏が私に対して、「今ならクイーンのペーパーバック・オリジナルの翻訳を出せるのではないか。ジャック・ヴァンスの作を読んでみたい」と熱く語ったことが、この企画のきっかけなのです。その後、企画をある程度練った段階で、原書房の石毛氏に持ちかけた際も、(本格ミステリ作家クラブのパーティの席だったので)その場にいた法月氏を引っ張っていって、プッシュをお願いしました。おそらく、法月氏がいなければ、この企画は実現しなかったでしょう。さまざまな事情で、氏に巻末エッセイを書いてもらえなかったのは、本当に残念でした……。
では、クイーン・ファン、ヴァンス・ファン、本格ファン、密室ファンの誰もが楽しめる『チェスプレイヤーの密室』、あらためてよろしくお願いします。そして、〈エラリー・クイーン外典コレクション〉第2弾、第3弾も、応援をよろしく!
飯城勇三(いいき ゆうさん) |
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宮城県出身。エラリー・クイーン研究家にしてエラリー・クイーン・ファンクラブ会長。著書は『「鉄人28号」大研究』(講談社)、『エラリー・クイーン パーフェクトガイド』(ぶんか社文庫)、『エラリー・クイーン論』『エラリー・クイーンの騎士たち』(共に論創社)。訳書はクイーンの『エラリー・クイーンの国際事件簿』と『間違いの悲劇』(共に創元推理文庫)。論創社の〈EQ Collection〉と原書房の〈エラリー・クイーン外典コレクション〉では、企画・編集・翻訳などを務めている。解説は角川文庫の〈国名シリーズ〉新訳版や、ハヤカワ・ミステリ文庫の『災厄の町』『九尾の猫』新訳版、パトリック・クェンティン『巡礼者パズル』『死への疾走』(共に論創社)など。 |
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