アメリカのベストセラー・ランキング

9月18日付 The New York Times紙(ハードカバー・フィクション部門)

1. A GREAT RECKONING    New!

Louise Penny ルイーズ・ペニー

ガマシュ警部シリーズ12作目(第4作『スリー・パインズ村と警部の苦い夏』まで邦訳あり)。警察学校長としてケベック州警察にもどってきたガマシュ元警部。着任後まもなく、教官のひとりが殺された。犯人は訓練生なのか、それとも……。被害者の部屋に残された古い地図のコピーは何を意味しているのか? そして明らかになる過去とは?

2. THE UNDERGROUND RAILROAD    Down

Colson Whitehead コルソン・ホワイトヘッド

19世紀、奴隷制がまだ認められていた南部諸州からの黒人奴隷たちの逃亡を手助けした組織「地下鉄道」。本当に地下を走る逃亡奴隷のための鉄道が存在していたら……という設定のもとで、ジョージア州の綿花プランテーションから逃げだした十代の黒人奴隷の少女の旅を描いたスペキュレイティブ・フィクション。

3. RUSHING WATERS    New!

Danielle Steel ダニエル・スティール

ハリケーンが近づくなか、夫の心配をよそに、仕事を兼ねてニューヨークに住む母のもとを訪れたロンドンのインテリア・デザイナー、エレン。大水害が起き、混乱に陥った街で、エレンと母親、そして偶然に居合わせた6人の奮闘を描く。

4. THE WOMAN IN CABIN 10    Stay

Ruth Ware ルース・ウェア

小型客船で北海をイギリスからノルウェーへ向かう途中、旅行雑誌の記者ローラは、深夜に人が海に落ちたような音を聞く。隣の10号室の女がいなくなっていたが、姿を見かけたのはローラだけで、船員も乗客も全員が10号室は空室だったと言う。自分を疑いながらも、ローラは独自に調査をはじめる。

5. THE NIX    New!

Nathan Hill ネイサン・ヒル

売れない作家のサミュエルが、20数年ぶりに消息を知ることになった母フェイは、日々世間を騒がせているラジカルなヒッピー世代の活動家だと報じられていた。記憶のなかにあったごく普通の母親像とのギャップにとまどいながらも、母をたすけるために息子はペンをとり、母の過去をさかのぼる旅に出る。メリル・ストリープが共同製作・出演でテレビ・シリーズが予定されている、著者のデビュー作。

6. TRULY MADLY GUILTY    Down

Liane Moriarty リアーン・モリアーティ

多忙ながらも充実した生活を送っていたサムとクレメンタインの夫婦は、友人に誘われてバーベキューに参加する。が、2か月後には、その誘いに応じたことをひどく後悔していた。バーベキューの際に何があったのか。彼らの罪悪感の正体が少しずつ明かされていく。

7. ALL THE LIGHT WE CANNOT SEE    Up

Anthony Doerr アンソニー・ドーア

フランスに住む盲目の少女と、無線技師となり戦争に巻きこまれていくドイツ人の青年——第二次大戦直前、ふたりの人生がサン・マロで交錯する。短編集『シェル・コレクター』でデビューした著者の4年ぶりの新作長編。新潮クレスト・ブックスより、8月26日に邦訳『すべての見えない光』(藤井光訳)が刊行。

8. THE JEALOUS KIND    New!

James Lee Burk ジェイムズ・リー・バーク

エドガー賞を二度受賞した著者が描くテキサスのホランド一族シリーズ最新作。1952年のヒューストン。ドライブイン・レストランやジュークボックスが流行し、若者文化が街にあふれていたころ、国外では朝鮮戦争が長引き、表面的な時代の華やかさの裏では階級闘争も起きていた。そんななか、高校生のアーロンは、初恋の痛みと存在すら知らなかった暴力の世界を知り、少年から大人になっていく。

9. STING    Down

Sandra Brown サンドラ・ブラウン

殺し屋のショーが生きたままジョーディーを拉致したのは彼女の兄が隠した3千万ドルが目的だった。だが、兄の元ボスやFBIもまた、同じものを追っていた。共通の敵を出し抜いて生き延びるため、2人は牽制しあいながらも寝食を共にし、たがいの存在に頼ることを余儀なくされる。ロマンティック・サスペンスのヒット・メイカーによる最新刊。

10. THE NIGHTINGALE    Down

Kristin Hannah クリスティン・ハナ

ドイツ軍に占領されたロワール地方の村で幼い娘をかかえて苦労するヴィアンヌと、パリでレジスタンスの活動に身を投じたイザベル。第二次大戦中のフランスを舞台に、苛酷な時代を強く生き抜いた姉妹の姿を描く。小学館より『ナイチンゲール(上・下)』(加藤洋子訳)として邦訳が刊行されている。

【まとめ】

今週はトップテン・リストに4作品がランクインし、盛りだくさんの週になりました。1位のルイーズ・ペニーはeブック部門でも同時に1位を獲得。本リストでもたびたび紹介されているとおり、カナダのクリスティーと称される本格ミステリーの書き手で、5回のアガサ賞をはじめ、数々の受賞歴を誇り、安定した作品群を送りだしています。いったんは退職したガマシュ元警部もあらたな仕事に就き、シリーズはまだまだ続きそうです。3位のダニエル・スティールは、悲劇と混乱に直面した人々の姿や希望までをも描くヒューマンドラマ。5位のネイサン・ヒルはデビュー作ながら、多くの新聞や書評誌で高評価を得ているほか、ジョン・アーヴィングも称賛する注目作品です。8位のジェイムズ・リー・バークは、ホランド一族の一員を主人公に据えた作品群のひとつですが、作品自体は単独作品として書かれているとのこと。その他、11位以下では、英サンデー・タイムズ紙でベストセラーになり、読書SNSのGoodreadsではすでに700件を超える読者レビューを集めているシャーリー・ラペニャの心理スリラー“THE COUPLE NEXT DOOR”が13位に登場しています。

吉井智津(よしい ちづ)

翻訳者。訳書にベリンダ・バウアー『生と死にまつわるいくつかの現実』(小学館文庫)など。