アメリカのベストセラー・ランキング

10月2日付 The New York Times紙(ハードカバー・フィクション部門)

1. COMMONWEALTH    New!

Ann Patchett アン・パチェット

1960年代のロサンゼルスにはじまる、半世紀にわたる物語。バートは幼い子供3人と身重の妻がいる家に帰る気になれず、ほとんど見も知らぬ他人の娘の洗礼を祝うパーティに紛れこむ。そこでバートは娘の母親のベヴァリーにひと目で心を奪われてしまう。突然の出会いはふたつの家族を壊し、徐々に変形させてゆく。

2. PIRATE    New!

Clive Cussler and Robin Burcell クライブ・カッスラー&ロビン・バーセル

トレジャーハンターのファーゴ夫妻シリーズ第8作。夫妻はサンフランシスコでふらりと書店に立ち寄って古書を買うが、ほどなく書店主が殺される。その本には歴史的価値のある宝の地図が隠されていた。夫妻はカリフォルニアからアリゾナ、ジャマイカ、イギリスへ飛ぶ。

3. RAZOR GIRL    Down

Carl Hiaasen カール・ハイアセン

詐欺師のメリーはフロリダキーズへと向かう路上で悪徳開発業者の車にわざと追突し事故を起こす……はずが、相手を間違えて芸能エージェントのクールマンのレンタカーにぶつけてしまってさあ大変。クールマンがマネジメントするリアリティテレビの人気者バック・ナンスもからんで、事態は思わぬ方向へ転がってゆくことに。

4. THE UNDERGROUND RAILROAD    Down

Colson Whitehead コルソン・ホワイトヘッド

19世紀、奴隷制がまだ認められていた南部諸州からの黒人奴隷たちの逃亡を手助けした組織「地下鉄道」。本当に地下を走る逃亡奴隷のための鉄道が存在していたら……という設定のもとで、ジョージア州の綿花プランテーションから逃げだした十代の黒人奴隷の少女の旅を描いたスペキュレイティブ・フィクション。

5. THE WOMAN IN CABIN 10    Stay

Ruth Ware ルース・ウェア

小型客船で北海をイギリスからノルウェーへ向かう途中、旅行雑誌の記者ローラは、深夜に人が海に落ちたような音を聞く。隣の10号室の女がいなくなっていたが、姿を見かけたのはローラだけで、船員も乗客も全員が10号室は空室だったと言う。自分を疑いながらも、ローラは独自に調査をはじめる。

6. AN OBVIOUS FACT    New!

Craig Johnson クレイグ・ジョンソン

ワイオミングの保安官、ウォルト・ロングマイヤーが活躍するシリーズの第12作。デビルスタワーにほど近い町で開催されたバイクレースで事故が起こり、青年が昏睡状態に陥る。青年の母親から、不審な点があるから調べてくれと頼まれ、ロングマイヤーと友人のヘンリーは調査に取りかかる。

7. NUTSHELL    New!

Ian McEwan イアン・マキューアン

ロンドンに住むトルーディは、夫の弟クロードと結託して、夫のジョンを殺す計画を立てている。だが、その一部始終を知っている者がいた——トルーディのおなかのなかですべてを聞いていた胎児だ。『ハムレット』の改作であり、生まれる直前の胎児が語り手をつとめる小説。

8. APPRENTICE IN DEATH    Down

J. D. Robb J・D・ロブ

にぎわうセントラルパークのスケートリンクで3人の無辜の市民が狙撃され死亡する。イヴと夫ロークの捜査の結果、狙撃犯は2人組で、師弟関係にあるらしい。やがてニューヨークの街を震撼させる第2の狙撃事件が発生し……イヴ&ローク・シリーズ第43作。

9. HERE I AM    Down

Jonathan Safran Foer ジョナサン・サフラン・フォア

ユダヤ人のジェイコブ・ブロックはワシントンDCに暮らすテレビ脚本家。息子のバル・ミツバーの儀式を控えた矢先に中東で大地震が発生し、イスラエルが存亡の危機に。全世界のユダヤ人に対して、祖国を守るべく帰ってきて戦えとの呼びかけがなされるが——『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』で知られる著者の11年ぶりの新作小説。

10. A GENTLEMAN IN MOSCOW    Down

Amor Towles エイモア・タウルズ

1922年、反体制的な詩を書いたとしてスターリン政権によりモスクワ中心部のメトロポール・ホテルに軟禁されることになったロストフ伯爵。彼がそこで過ごした30年間を描く。2011年に“THE RULES OF CIVILITY”でデビューした著者の長篇第2作。

【まとめ】

4作が新たにランクインしました。1位は『ベル・カント』や『密室の夢』で知られるアン・パチェットの5年ぶりの新作小説です。2位はクライブ・カッスラーがいろいろな共著者とつづけてきたシリーズの第8作、邦訳は第5作の『マヤの古代都市を探せ!』までが出版されています。なお、このシリーズの邦訳はカッスラーのオレゴンシリーズとともに、SBクリエイティブから扶桑社に引き継がれたようです。6位はテレビの西部劇ドラマの原作本。7位のマキューアンの新作は、『ハムレット』の改作であり、語り手が胎児という変わった趣向の小説です。シェイクスピア没後400年にちなんでさまざまなプロジェクトが企画されているようで、たとえばその戯曲を人気作家たちの手で翻案するホガース・シェイクスピアという企画が進められています。アン・タイラーが『じゃじゃ馬ならし』から書いた“Vinegar Girl”と、ジャネット・ウィンターソンが『冬物語』から書いた“The Gap of Time”が今年6月に刊行され、このあともマーガレット・アトウッドによる『テンペスト』の改作などが出版される予定です。

国弘喜美代(くにひろ きみよ)

東京在住の翻訳者、南東京読書会の世話人のひとり。10月10日(月、祝日)に『拾った女』読書会を開催します。先日、新宿のミステリ酒場で“ウィルフォード泥酔”に参加してきました。ノワール好きのかたはもちろん、ノワールはちょっと……と思っているかたも、『拾った女』、読んでみてください。きっとネタバレなしで話をしたくなりますので、そのときはぜひ当読書会へ! まだ少し残席あります。どうぞ気軽にお越しください。