アメリカのベストセラー・ランキング

6月4日付 The New York Times紙(ハードカバー・フィクション部門)

1. INTO THE WATER    Stay

Paula Hawkins ポーラ・ホーキンズ

イギリスの小さな町を流れる川の底から、ネルという名のシングルマザーの死体が発見される。そのあたりは地元では“溺死の淵”と呼ばれ、かつての魔女狩りで魔女とされた女たちが命を絶った場所として知られていた。ネルは魔女に強い興味を持ち、淵の歴史を書き綴った手稿を遺していた。

2. NO MIDDLE NAME    New!

Lee Child リー・チャイルド

ジャック・リーチャーを主人公とする、これまでに発表された短編11編に、新作中編“TOO MUCH TIME”を加えた中短編集。今年秋に本国で出版が予定されているシリーズ長編22作目の“THE MIDNIGHT LINE”は、メイン州で起きたひったくり事件を発端として展開する、前述の中編“TOO MUCH TIME”から続くストーリーとなるとのこと。

3. 16TH SEDUCTION    Down

James Patterson and Maxine Paetro ジェイムズ・パタースン、マクシーン・ペトロ

女性殺人捜査クラブ・シリーズ第16作。信じていた人物に裏切られ、心に深い傷を負ったリンジー・ボクサー。立ちなおろうともがいていたところへ、爆弾テロ事件が起こり、多数の死者が出る。リンジーは犯人の逮捕に成功するが、捜査の正当性に疑問を投げかけられてしまう。

4. SAME BEACH, NEXT YEAR    New!

Dorothea Benton Frank ドロシア・ベントン・フランク

かつて恋人同士だったアダム・スタンリーとイヴ・ランダースは、それぞれの結婚相手イライザ、カールと訪れたチャールストンのビーチで偶然再会する。それからの20数年、夏ごとに顔を合わせるようになった2組の夫婦は、さまざまな感情と人生の局面を通り抜けながら新たな関係を築いていく。

5. THE FIX    Down

David Baldacci デイヴィッド・バルダッチ

“完全記憶探偵”エイモス・デッカー・シリーズ第3弾。FBI本部近くの路上で男が女を射殺し、直後に自殺する場面を目撃したデッカー。捜査に乗りだしたところ、国防情報局に手を引けと警告される。この事件の背後には重大な国家機密がかかわっているというのだが……

6. TESTIMONY    New!

Scott Turow スコット・トゥロー

パートナーを務める法律事務所を辞め、妻とも別れ、50歳にして人生の再出発を決意したキンドル郡の元地方検事ビル・テン・ブーム。オランダに移り住んだ彼は、ハーグにある国際刑事裁判所の検察官として、ボスニア紛争時の難民キャンプで起きたとされる非人道的犯罪に挑む。

7. GWENDY’S BUTTON BOX    New!

Stephen King and Richard Chizmar スティーヴン・キング、リチャード・チズマー

1974年、メイン州の小さな町キャッスルロック。12歳の少女グウェンディは、ある日、黒い服に黒い帽子の見知らぬ男からおしゃべりをしようと誘われる。それが悪夢の始まりだった。キング作品にたびたび登場する架空の町キャッスルロックを舞台にした中編ホラー。

8. GOLDEN PREY    Down

John Sandford ジョン・サンドフォード

ルーカス・ダヴンポートの「獲物」シリーズ第27作。米国連邦保安局へ移ったルーカスは強盗事件を手がけることに。犯人は麻薬カルテルを襲って売人4人を殺し、居合わせた幼い少女の命まで奪って、大金を持ち去っていた。金を取りもどそうと麻薬組織が追手を差し向けるなか、ルーカスはいち早く犯人にたどりつこうと捜査を急ぐ。

9. AGAINST ALL ODDS    Down

Danielle Steel ダニエル・スティール

ケイト・マディソンは夫が不慮の死を遂げるという不幸に見舞われながらも、事業に成功し、4人の子供を立派に育てあげた。だが、子供たちは安定した人生を歩もうとせず、茨の道を選ぼうとする。子供を愛する母親として、ケイトには何ができるのか。

10. FULL WOLF MOON    New!

Lincoln Child リンカーン・チャイルド

中世史の教授で幽霊博士とも呼ばれるジェレミー・ローガンが不可思議な事件に挑む、シリーズ5作目。執筆のためにローガンが訪れていたニューヨーク州北部の山中で、ひとりのハイカーが遺体となって見つかった。当初は熊に襲われたものと思われていたが、遺体に残された爪痕と、何かに噛まれたような傷痕から、伝承の“狼男”の仕業ではないかとの噂が広まった。

【まとめ】

今週も初登場が5作あり、トップ10リストが大きく入れ替わりました。2位のリー・チャイルドは、秋の長編新作をふまえたこの時期の刊行。ジャック・リーチャー・シリーズの邦訳は、トム・クルーズ主演で映画化された『アウトロ—』、『ネバー・ゴー・バック』のほか、『61時間』など8作品が刊行されています(すべて小林宏明訳/講談社文庫)。4位のドロシア・ベントン・フランクは夏の定番として人気があり、邦訳は『愛しき海辺の家』(林啓恵訳/集英社文庫)が刊行されています。6位には、スコット・トゥローの新作が入りました。伝説のベストセラー『推定無罪』(上田公子訳/文春文庫)や、その続編で第4回翻訳ミステリー大賞受賞作『無罪 INNOCENT』(二宮馨/文藝春秋)など、これまでのトゥロー作品で描かれてきた架空の地、キンドル郡の元地方検事が主人公ですが、今回作ではそのキンドル郡を飛び出して、舞台はハーグの法廷へ。7位のスティーヴン・キングは、ホラー作品を多く手がける出版社セメタリーダンス・パブリケーションズ創設者で編集者、作家のリチャード・チズマーとの共著。10位のリンカーン・チャイルドは、『第三の扉』(一ノ瀬美麗訳/マグノリアブックス)と同じジェレミー・ローガン・シリーズの最新作です。

吉井智津(よしい ちづ)

翻訳者。大阪ミステリー読書会世話人のひとりです。次回大阪読書会は、チャールズ・ウィルフォード『拾った女』(浜野アキオ訳/扶桑社文庫)を課題書に、7月14日(金)の開催予定です。募集については近日中に、こちらのサイトでの正式告知時にお知らせいたしますので、もう少々お待ちください。