アメリカのベストセラー・ランキング

1月17日付 The New York Times紙(ハードカバー・フィクション部門)

 

  1. 1. THE VANISHING HALF    Up

Brit Bennett ブリット・ベネット

1960年代、肌の色の薄い黒人だけが住むルイジアナ州の小さな町を16歳で飛びだした双子の姉妹デジレとステラ。デジレはより肌の色の濃い夫との間に生まれた娘を連れて故郷の町へ戻るが、一方のステラは「白人」として生きることを選び、ブロンドに青い目の娘を産む――双子の姉妹とその娘たち、ふたつの世代の目を通じて黒人にとっての肌の色とアイデンティティの問題を描く。

 

  1. 2. THE INVISIBLE LIFE OF ADDIE LARUE    Up

V.E. Schwab V.E.シュワブ

17世紀末のフランスに生まれたアディー・ラルーは、望まない結婚と平凡な暮らしから逃れるために悪魔と取引をする。しかし魂と引き換えに、永遠の命とともに与えられたのは、誰と出会っても相手の記憶から消えてしまうという運命だった。孤独なアディーの人生に変化が訪れるのは300年が経ったころ、彼女を憶えていられる人物が現れたときだった。

 

  1. 3. THE RETURN    Up

Nicholas Sparks ニコラス・スパークス

医師として従軍したアフガニスタンで大怪我を負ったトレヴァーは、ノースカロライナ州へもどり、祖父が遺した小屋で蜂の世話をしながら暮らしはじめる。近隣のトレーラーハウスに住む10代の少女キャリーと知り合い、保安官代理のナタリーと恋に落ちて、ふたりとのかかわりから祖父の死にまつわる謎について知ることになる。

 

  1. 4. READY PLAYER TWO    Down

Ernest Cline アーネスト・クライン

ポップ・カルチャー満載の近未来SFアドベンチャー『ゲームウォーズ』(池田真紀子訳、SBクリエイティブ)の続編。前作はスピルバーグ監督により映画化されている(邦題『レディ・プレイヤー1』)。仮想空間〈オアシス〉の創始者ハリデーの遺産をめぐる“イースターエッグ”争奪戦を戦ったティーンエイジャーのウェイド・ワッツは、仮想世界にも現実世界にも大変革をもたらしかねないテクノロジーをハリデーが隠していたことを発見し、新たな冒険をはじめる。

 

  1. 5. WHERE THE CRAWDADS SING    Up

Delia Owens ディーリア・オーエンズ

ノースカロライナ州の湿地で村の青年チェイスの死体が発見され、「湿地の少女」と呼ばれるカイアが真っ先に疑われる。6歳で家族に見捨てられ、ひとりで生き延びてきたカイアは、果たして犯人なのか――みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と絡みあう。邦訳『ザリガニの鳴くところ』(友廣純訳)が早川書房より刊行されている。

 

  1. 6. ANXIOUS PEOPLE    Up

Fredrik Backman フレドリック・バックマン

大晦日前のスウェーデン。子供の親権を失うまいと銀行を襲うも、あえなく失敗した犯人が、内覧会開催中のアパートメントへ逃げこむ。その場に居合わせた妊婦、老夫妻、銀行家など8人が人質に。警察の取り調べにより、その後の思いもよらない顛末が明らかになる。

 

  1. 7. A TIME FOR MERCY    Down

John Grisham ジョン・グリシャム

1990年、ミシシッピ州クラントン。弁護士のジェイク・ブリガンスは、地元の議員を殺した罪に問われた16歳の内気な少年、ドリューの弁護を引き受ける。人びとの多くは迅速な裁判と死刑判決を望んでいたが、事件について調べるうち、ブリガンスはそこに隠された真実をつきとめる。ブリガンスを主人公にしたシリーズの、6年ぶりの新作。

 

  1. 8. THE MYSTERY OF MRS. CHRISTIE    New!

Marie Benedict マリー・ベネディクト

1926年にアガサ・クリスティーが失踪した実際の事件をもとにしたフィクション。失踪当日からの出来事が夫のアーチーの口から語られる一方、ふたりがはじめて出会ってからの流れがもうひとつの軸として語られる。

 

  1. 9. THE MIDNIGHT LIBRARY    Up

Matt Haig マット・ヘイグ

仕事を失い、飼い猫まで亡くして、何もかもうまくいかない、だれからも必要とされないと絶望したノーラは自殺を図る。そして生と死のあいだにある謎めいた図書館にたどり着く。所蔵されている無数の本は、自分が選ばなかった人生の物語であり、オリンピックのメダリストになる人生も母親になる人生も、自由に試すことができるらしい。

 

  1. 10. DEADLY CROSS    Down

James Patterson ジェイムズ・パタースン

刑事アレックス・クロス・シリーズ第28作。ワシントンDCの学校の駐車場にとめられたリムジンの車内で、学校長の男性と現職副大統領の元夫人が殺害された。華やかな暮らし向きだった元夫人ケイの過去を探るため、アレックスはFBI特別捜査官とともにアラバマへ向かう。

 

【まとめ】

 新作は8位のひとつだけでした。これは1926年にアガサ・クリスティーが11日間にわたって失踪した有名な事件をもとにした小説です。この失踪事件に関しては、さまざまな本が執筆され、ドラマや映画も製作されており、日本に紹介されたものとしては映画にもなった1979年刊『アガサ 愛の失踪事件』や、1999年刊『なぜアガサ・クリスティーは失踪したのか?』などが挙げられます。本作の場合は、ふたつの軸から物語が綴られるミステリー仕立てのフィクションです。

 また、9位のマット・ヘイグの作品は昨年8月刊、10月に15位にランクインしているのですが、今回はじめてトップテン入りしたため、改めてあらすじを紹介しています。この作品はニューヨーク公共図書館のBest Books for Adults 2020に選ばれ、映画化が予定されています。なお、15位以内の動きとしては、14位にスチュアート・ウッズの“HUSH-HUSH”が初登場。これはストーン・バリントンを主人公とするシリーズの第56作です。

 今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

    1. 国弘喜美代(くにひろ きみよ)

      訳書にロイ・ピーター・クラーク『名著から学ぶ創作入門 優れた文章を書きたいなら、まずは「愛しきものを殺せ!」』(越前敏弥さんとの共訳)、ローラ・シムズ『あなたを見てます大好きです』など。