アメリカのベストセラー・ランキング
9月26日付 The New York Times紙(ハードカバー・フィクション部門)
- 1. BEAUTIFUL WORLD, WHERE ARE YOU New!
Sally Rooney サリー・ルーニー
29歳の作家アリスは、小説が売れて有名になるが、静かな生活をもとめて田舎町に移り住む。マッチングアプリで出会ったフェリックスは物流倉庫で働いている。アリスが日々メールを送りあう親友のアイリーンは、ダブリンで働く文芸誌の編集アシスタントで、5歳上の政治アドバイザー、サイモンを追いかけている。4人は若いが、彼らをとりまく世界は……? 世界が注目する新世代作家の長篇第3作。
2. FORGOTTEN IN DEATH New!
J.D. Robb J.D.ロブ
イヴ&ローク・シリーズの53作目。建設現場の周辺で、警察にもよく知られたホームレスの女性が通りの大型ゴミ容器のなかで遺体となって発見された。その後、べつの建設現場で死後数十年が経過したべつの女性の遺体が発見された。ニューヨーク市警の警部補イヴが現場に呼ばれて行ってみると、そこは夫ロークの所有地だった。
- 3. BILLY SUMMERS Down
Stephen King スティーヴン・キング
元軍人で凄腕のスナイパーである殺し屋ビリー・サマーズは、ターゲットが真の悪人である場合だけに手を下すと決めていた。そしてビリーは現在の仕事を最後に引退しようと考え、ターゲットのいる新たな町へと向かう。そこでビリーは自身の半生を振りかえりながら書き綴っているうちに小説執筆に目覚め、作家のふりをして任務遂行の時機を待つことにする。
- 4. A SLOW FIRE BURNING Down
Paula Hawkins ポーラ・ホーキンズ
ロンドンのハウスボートで若い男性が惨殺された。被害者ダニエルを知る3人の女性――ダニエルと一夜の関係を持ち、ボートを訪れていたローラ、数週間前に事故死したダニエルの母アンジェラの姉妹であるカーラ、そして警察に対し明らかに何かを隠している、近隣のボート住民ミリアム――が、疑惑を向けられる。
5. MATRIX New!
Lauren Groff ローレン・グロフ
12世紀、17歳のマリーはフランス宮廷を追い出され、イングランドの修道院に送られる。病気と貧困が蔓延する時代、修道院での暮らしの過酷さにひるむが、修道女たちとともに困難な時代を生き抜いていく。実在の詩人マリー・ド・フランスを主人公に据えた、時代を超えるシスターフッドの物語。全米図書賞候補作。
6. ROCK PAPER SCISSORS New!
Alice Feeney アリス・フィーニー
ロンドンで暮らす結婚10年目のアメリアとアダムは、アメリアがくじで引き当てたスコットランド旅行の企画を利用して、愛犬ボブをつれて雪のハイランド地方を訪れる。仕事一筋の脚本家アダムと夫の態度に不満を抱えるアメリアの関係は不和が続いており、この週末旅行かなんらかの打開策となるはずだったのだが……。
- 7. THE MADNESS OF CROWDS Down
Louise Penny ルイーズ・ペニー
ガマシュ警部シリーズ第17作。コロナ禍収束後のカナダ、ケベック州。ガマシュは統計学者アビゲイル・ロビンソンの講演会の警備を頼まれる。ロビンソンはコロナ禍の社会経済的影響を分析した結果、社会の負担となる高齢者や障害者の安楽死を主張して物議をかもしている人物で、講演会で命を狙われているというのだが――
- 8. THE MIDNIGHT LIBRARY Down
Matt Haig マット・ヘイグ
仕事を失い、飼い猫まで亡くして、何もかもうまくいかない、だれからも必要とされないと絶望したノーラは自殺を図る。そして生と死のあいだにある謎めいた図書館にたどり着く。所蔵されている無数の本は、自分が選ばなかった人生の物語であり、オリンピックのメダリストになる人生も母親になる人生も、自由に試すことができるらしい。
- 9. THE LAST THING HE TOLD ME Up
Laura Dave ローラ・デイヴ
結婚して1年の夫が失踪し、「娘を頼む」というメモとともに、夫の連れ子である16歳のベイリーと残されたハナ。ベイリーのロッカーから多額の現金が見つかると同時に、夫の会社にFBIの捜査が入ったことがわかる。ハナは夫が本当に会社で不正に手を染めていたのか調べようとするが、その過程で折り合いの悪かったベイリーとの関係も変化してゆく。
- 10. THE NIGHT SHE DISAPPEARED New!
Lisa Jewell リサ・ジュエル
19歳のタルラは幼い息子を母親のキムに預けて出かけたまま姿を消した。友人たちによれば、タルラは森の近くの家で開かれるパーティーにボーイフレンドと出かけたというが、消息はつかめなかった。翌年、森を歩いていたソフィーは、フェンスに留めつけられていた表示に気づく。そこには「ここを掘れ……」と書かれていた。
【まとめ】
今週は5作がランクインしました。1位には、長篇デビュー作『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』(山崎まどか訳、早川書房)が今月邦訳刊行されたアイルランドの若手作家サリー・ルーニーが登場しました。2位のJ.D.ロブは邦訳も50巻を超える近未来を舞台とした人気シリーズ。6月に刊行された『死を運ぶ黄金の卵』(青木悦子訳)に続き、邦訳52巻となる『闇より来たる使者』(小林浩子訳)が10月にヴィレッジブックスより刊行予定となっています。5位のローレン・グロフは2015年の長篇『運命と復讐』(光野多惠子訳、新潮クレストブックス)に続き、全米図書賞にノミネート中のアメリカの作家。短篇集『丸い地球のどこかの曲がり角で』(光野多惠子訳、河出書房新社)も今年邦訳刊行されました。6位のアリス・フィーニーはNetflixでドラマ化予定の話題作。既刊の邦訳では8月に刊行されたばかりの『彼と彼女の衝撃の瞬間』(越智睦訳、東京創元社)が書評七福神の八月のベスト(記事はこちら)でも取り上げられています。10位には、『そして彼女は消えた』(氷川由子訳、二見書房)のリサ・ジュエルの新作スリラーがランクインしました。
11位以下では、14位にメキシコ系作家マリア・アンパロ・エスカンドン、15位にはシェトランド・シリーズで知られるアン・クリーヴスの新作が登場しています。
吉井智津(よしい ちづ) |
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翻訳者。訳書にアンナ・シャーマン『追憶の東京 異国の時を旅する』(早川書房)、ナディア・ムラド『THE LAST GIRL―イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語』(東洋館出版社)など。 |