アメリカのベストセラー・ランキング
2月20日付 The New York Times紙(ハードカバー・フィクション部門)
- 1. THE MIDNIGHT LIBRARY Up
Matt Haig マット・ヘイグ
仕事を失い、飼い猫まで亡くして、何もかもうまくいかない、だれからも必要とされないと絶望したノーラは自殺を図る。そして生と死のあいだにある謎めいた図書館にたどり着く。所蔵されている無数の本は、自分が選ばなかった人生の物語であり、オリンピックのメダリストになる人生も母親になる人生も、自由に試すことができるらしい。
- 2. BLACK CAKE New!
Charmaine Wilkerson シャーメイン・ウィルカーソン
バイロンとベニーの母エレナーは、奇妙なものを遺して死んだ。ひとつはカリブの伝統料理で、秘伝のレシピで作ったブラックケーキ。もうひとつは本人が吹きこんだメッセージで、殺人の疑いをかけられてエレナーの故郷の島から逃亡した若者の話が語られていた。
- 3. THE MAID Down
Nita Prose ニータ・プロウズ
他者とのコミュニケーションが苦手なモリーは、ずっと支えてくれた祖母が亡くなると、高級ホテルのメイドとして働くことになる。きれい好きで礼儀正しい彼女には、うってつけの仕事だ。しかしある日、評判の悪い富豪の客ブラック氏が、滞在中のスイートで死体で発見される。警察はモリーに疑いの目を向けるが、彼女は友人たちとともに真犯人を突き止めようとする。
- 4. THE LINCOLN HIGHWAY Down
Amor Towles エイモア・トールズ
1954年、18歳のエメットはカンザスの少年拘置所を出てネブラスカへもどる。母はずっと前に失踪、父が最近病死したため、8歳の弟とともにサンフランシスコで人生をやりなおそうとリンカーンハイウェイを西へ向かおうとする。ところが、拘置所から少年ふたりが隠れてエメットについてきていた。4人は古いスチュードベーカーに乗って東へ向かう。
- 5. THE CHRISTIE AFFAIR New!
Nina de Gramont ニーナ・ド・グラモン
1926年に起こったアガサ・クリスティ失踪事件。夫アーチボルドに愛人がいたことが一因とされているが、この愛人にナン・オディーという架空の人物を据え、その視点から三角関係を描く。愛人から夫人になろうとするナンの野望は、かつて経験した悲恋に根ざしていた。
- 6. THE LAST THING HE TOLD ME Down
Laura Dave ローラ・デイヴ
結婚して1年の夫が失踪し、「娘を頼む」というメモとともに、夫の連れ子である16歳のベイリーと残されたハナ。ベイリーのロッカーから多額の現金が見つかると同時に、夫の会社にFBIの捜査が入ったことがわかる。ハナは夫が本当に会社で不正に手を染めていたのか調べようとするが、その過程で折り合いの悪かったベイリーとの関係も変化してゆく。
- 7. THE JUDGE’S LIST Down
John Grisham ジョン・グリシャム
フロリダ州で裁判官への苦情申立てについて調査する弁護士レイシー・ストルツが活躍する2016年刊行の“THE WHISTLER”の続編。20年前に父親を殺されたという女性ジェリーがレイシーのもとにやってくる。事件は未解決だが、ジェリーはある容疑者の名前をあげ、被害者はほかにも複数いると話す。その容疑者とは、なんと裁判官だというのだが――
- 8. THE HORSEWOMAN Down
James Patterson and Mike Lupica ジェイムズ・パタースン、マイク・ルピカ
マギーとベッキーの母娘はともに馬術競技の優勝者だが、同じ競技では互いに戦わないと誓い合っていた。しかし、パリ・オリンピックが近づくにつれ、世界一の女性騎手の座をめぐってすべてが劇的に変化し、緊張が高まっていく。
- 9. WISH YOU WERE HERE Up
Jodi Picoult ジョディ・ピコー
29歳のダイアナは仕事も恋も順調で、恋人とガラパゴス諸島へ行く予定を立てていた。ところが未知のウイルスが流行の兆しを見せ、外科研修医である恋人は直前に出発を見送り、ダイアナひとりで旅に出ることに。到着した直後パンデミックにより国境が封鎖され、ダイアナはガラパゴス諸島に閉じこめられてしまう。
- 10. THE BOOKS OF JACOB New!
Olga Tokarczuk オルガ・トカルチュク
ノーベル文学賞受賞作家が2014年にポーランド語で発表した歴史小説の英訳。18世紀半ば、ポーランドでユダヤ教の一派を率いたヤクプ・フランクとその時代を描く。
【まとめ】
新作が3作トップテン入りを果たしました。2位のウィルカーソンはジャマイカ在住経験のあるアメリカ人ジャーナリストで、これがデビュー作になります。早くもドラマ化の動きがあるとのこと。5位のド・グラモンは本コーナー初登場です。10位のトカルチュクは、ポーランドが歴史上、ずっと抑圧される側だったわけではなく、ときには他民族を抑圧する側にもまわったことを指摘し、物議を醸しました。邦訳は、代表作『昼の家、夜の家』と『逃亡派』がいずれも小椋彩訳で白水社より刊行されています。
本コーナーがお休みだった先週は、ジョン・ダーニールの“DEVIL HOUSE”、『精霊たちの家』(木村榮一訳、河出書房)で知られるイサベル・アジェンデの“VIOLETA”、原書レビューのコーナーで紹介されたフィオナ・デイヴィスの“THE MAGNOLIA PALACE”がランクインしましたが、今週は残念ながらいずれもトップテン外になっています。
青木創(あおき はじめ) |
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翻訳者。訳書に、L・チャイルド『宿敵』、『葬られた勲章』、D・ワッツ『偶然の科学』など。 |