みなさんこんばんは。第9回のミステリアス・シネマ・クラブです。このコラムではいわゆる「探偵映画」「犯罪映画」だけではなく「秘密」や「謎」の要素があるすべての映画をミステリ(アスな)映画と位置付けてご案内しております。
 
 古今東西フィクションの中で「金の獲得と夢の実現」の神話はいつも人々を魅了してきた題材です。私は特に「一攫千金」の物語――そこに描かれるのが合法でも非合法でも現実的手段でも非現実的手段であっても――に格別な浪漫を感じてしまいます。いや、一攫千金の機会があっても私はリスクを取る気が一切ない性格なのできっと逃してしまうと思いますし、そもそもそうした物語の中心になるのは「全然信頼できないし現実の社会ではできれば関わりたくない」キャラクターが多いのですが、しかし自分には縁遠いからこそ狐と狸の化かし合いにあふれた金と夢の世界を跳ね回りながら「欲しいから、欲しい!」を貫くキャラクターが私は大好き。
 
 今回ご紹介するのは、まさに物理的「一攫千金」であるところの金鉱をめぐるミステリ、スティーヴン・ギャガン監督の『ゴールド/金塊の行方』。実はこの作品、昨年の公開時に既に本シンジケートの連載「読んで、腐って、萌えつきて」の中でP・ワイルド『悪党どものお楽しみ』と併せて♪akiraさんがご紹介ずみ。通常このコーナーではこれまでに紹介されていない作品をご案内しているのですが、例外として今作は、今月ソフトがリリースされたのを機に記事にさせていただくことにしました。
 というのもこれ、本国でも日本でも興行成績にまったく恵まれなかった作品。すぐに上映スクリーン数が減ってしまい、上映期間も決して長くなかったので、劇場公開時見逃した方も多い気がするのです……やたらとパワフルでおかしくてせつない「金と夢」のドラマ、と聞いて気になる方であればチェックして損はない作品かと思いますので、これを機会に是非!
 


■『ゴールド/金塊の行方』(GOLD)[2016.米]


あらすじ:ケニー・ウェルスは追い込まれていた。自身の採掘会社ワショー社の経営は破綻、それでもまだ「金鉱を当てる」夢を諦めきれない……そんなとき彼は夢を見た。異端の地質学者マイク・アコスタと共に金鉱を探し当てる夢。きっとこれは夢じゃない!と謎の確信を抱き、全財産をつぎ込んでインドネシアへ飛んだケニーは、なりふり構わず資金を調達、マイクと共にジャングルで金鉱探しを始める。そしてついにある日、マイクはケニーに金脈を発見したことを告げる。その規模は想定以上、ケニーたちには黄金の日々が訪れたのだが……

 舞台は80年代後半のアメリカ。祖父や父のような開拓者でありたいという情熱をくすぶらせた「田舎者」の三代目社長、崖っぷちの採掘屋ケニー(マシュー・マコノヒー)と業界の異端である地質学者マイク(エドガー・ラミレス)の奇妙なバディ関係と、2人の起死回生の一発が巻き起こした大旋風。90年代に実際に起きたカナダのBre-X社の事件が元になっており、モデルとなった人物も存在するのですが、かなり大きく脚色が施されており、あっという間に朝日は昇り、気づいてみれば黄昏のとき……という「俺たちのヤマとカネ=山と金=夢」の物語へとアレンジされています。「金」は漢字だと「カネ」であり「黄金」の両方を意味しますが、GOLD とMONEYは明確に違うもの(字幕ではGOLD=「金」/MONEY=「カネ」と表記されていました)。そしてこの映画で描かれているのは、まぎれもなく〈GOLD〉としかいいようがないものなのでした。
 
 劇中には「その瞬間を知ってしまったらもう戻れない」という言葉が出てきます。「本当に求めていたものに出会えれば、もう他のものなど全部失ってもかまわない」の熱情がこの映画の中には確かに息づいていました。濡れた濃い緑のジャングルの中の男ふたりの笑顔として、あるいはふたりが同じ場所にいる最後の場面で交わし合う視線として。タイトルの〈GOLD〉は、モノとしての〈GOLD〉だけでなく、このGOLDをめぐる熱情、その過程を共有した友、成功して調子に乗っている間に失ってしまったもの……そのすべてをひっくるめて示しているかのようです。
 
 会社はつぶれ採掘に金を出してくれる銀行もなく、そんなときも片時もビールを離さず、ジャングルの奥地でマラリアにぶっ倒れ、ようやく復活と起き上がるときには片手にマルボロの箱を掴んでいるような主人公ケニーを演じたのはマシュー・マコノヒー。整った顔にやるせないまでにビールに弛んだ身体と薄い頭髪、「一攫千金に夢を見るのはこういう男だろう」と一目で説得してしまう存在感が素晴らしく、胡散臭さと放っておけないチャームの混合で魅せること!
 
 成功に浮かれてすぐに調子に乗り、取引相手に侮られても気づけないようなケニーですが、現場と経験がモノをいう「採掘屋」としてのカンから数字と”見えないもの”を売りさばく「金融屋」には違和感を表明し続けます。「金融屋」がやることは本来自分たちの採掘資金を集めるときのインチキな権利の売りさばきと同じものだと理解している、〈MONEY〉よりも実際に手に触れられる〈GOLD〉を信じるケニー。しかし上昇に伴い〈GOLD〉が〈MONEY〉に変わっていく、夢が現実に変わっていくということからは逃れられず……そしてその〈MONEY〉と名声がピークに達したときに物語は急展開。見ていれば薄々感づくことではあるのですが、この映画が「主人公のナレーションで進行されていた」理由もそこで明確になるのです。これがなんともせつない。
 
 サブタイトルの「金塊の行方」の謎は実際の事件どおりの「答え」があるのですが(私はBre-X事件自体を知らなかったので素朴に驚きましたが…)、この映画ではさらに実際と異なるエピソードが追加され、そのことで黄金を求めてやまない男――しょうもなくて愛しくて、でもやっぱりしょうもない男――とそんな男に絆された者たちの苦笑混じりの謎の友情や愛情の行方のほうにこそ「夢のような物語」らしい決着がつけられています。このあたりも、ミステリ好きの心をくすぐるのではないでしょうか。
 


■よろしければ、こちらも1/『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』


 実話を基にした「金と夢」の物語では「実録:マクドナルドをマクドナルドにした男」とでもいうべき『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』も昨年のお気に入りです。1954年、シェイク用ミキサーセールスマンのレイ・クロックはマクドナルド兄弟のバーガーショップから注文を受けて訪問したところ、合理的なシステムと品質に大いに感銘を受ける。やがて渋る兄弟を説得してフランチャイズ化を始めたレイは大成功し、その規模拡大と利益追求への飽くなき挑戦は止まることを知らず……そして皆さんご存じのとおりの現在へ。
 とにかくおそろしいほどの勤勉さで「上昇」をやめない主人公が手を動かし続け(名刺を出す、電話機を引っ掴む、握手する、サインする、土を握りしめる……)次から次へとほしいものを獲得していくのですが、私がやっていることは「罪」には至りませんし、むしろ成功しているのだからいいことですし、事実罰されもしてないですし、という淡々とした語り口が妙な凄みになっていました。この国では星条旗と十字架に準じるものなので倫理も法律も「標章」を打ち負かすことはできず、土地を標章で制するほどに「勝ち」なのです、というドラマをそのとおりの台詞にはすることなく画面に映るもののニュアンスで語っていく見事なアメリカ映画です。
 


■よろしければ、こちらも2/『ガットショット・ストレート』ルー・バーニー


 こちらは実話でもなんでもないのですが、アタッシュケース(そこに収められたものの珍妙さ!)をめぐる追いかけっこで軽く楽しく「金と夢」を描く『ガットショット・ストレート』もお気に入りの1作。ワケアリの男と女のスクリューボールコメディとして“男を張る男”と“女を張る女”が対等に頭と度胸がよくセクシーで互いに惚れ合いつつも互いを全然信頼してないという関係性で騙し騙されの旅をするのも楽しければ、良い味の傍役や小ネタも可笑しく、女子の扱いが甘ったるくないのも心地よい(女たちが自分の手も他人の手もしっかり汚す、危険なほど燃えてくるアドレナリン中毒!)。どんどん状態が混乱していくので「この話にどうオチをつけるのかな?」と思いきや、意外なほどすっきりまとめられたラストも小気味よい。そしてなんといってもタイトルの良さ!ポーカーの「あと1枚でストレートが決められる状態」を指す単語なんて、実にこのスパイシーなクライムノヴェルにぴったりではないでしょうか。
 
それでは今宵はこのあたりで。また次回のミステリアス・シネマ・クラブでお会いしましょう。

今野芙実(こんの ふみ)
 webマガジン「花園Magazine」編集スタッフ&ライター。2017年4月から東京を離れ、鹿児島で観たり聴いたり読んだり書いたりしています。映画と小説と日々の暮らしについてつぶやくのが好きなインターネットの人。
 twitterアカウントは vertigo(@vertigonote)です。

 


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