◆第53回 魔術師探偵登場!『デセプション』 ◆

 今月ご紹介するのは、この春アメリカで放送が始まったばかりの新番組Deception(デセプション:欺瞞)です。
 
 物語の主人公は人気マジシャンのキャメロン・ブラック。彼は一卵性双生児のジョナサン、そして信頼する3人のスタッフと共に、各地で華麗なマジックショーを繰り広げていたのですが、ある日突然、謎の美女が現れてジョナサンを無実の罪、それも殺人罪に陥れてしまいます。裁判で有罪となり刑務所に送られたジョナサンを救うため、キャメロンは謎の美女を見つけ出そうとしますが、その方法がありません。そこで彼は、FBIに協力を申し出ることにします。マジックの力を使って、様々な事件の捜査に協力する代わり、ジョナサンの事件の再調査を手伝って欲しいと。
 FBIの捜査官たちは最初は半信半疑だったのですが、キャメロンとそのチームは、マジックを使った大がかりな犯人消失事件を皮切りに、次々に事件を解決していくのでした。
 一方、ジョナサンを陥れた謎の美女もまた、優れたマジシャンであり様々な犯罪者を裏から操って、何やら大きな陰謀を企んでいるらしいことがわかってきます。その真の目的は何なのか?
 キャメロンたちは彼女を捕らえ、ジョナサンの無実を証明できるのか? リアルな現実世界を舞台に、マジシャン対マジシャンのトリック合戦が始まるのでした……。

 というわけで、Deceptionはマジシャンを主人公としたミステリなのですが、このドラマがおもしろいのは、毎回のパターンが――

(1)犯人のトリックを見破る。
(2)犯人をトリックで引っかける。
(3)1と2の両方。

 ――の3通りあって、主人公たちと犯人との攻防が、その時々で攻守ところを変えて楽しめるところにあります。また、毎回、有名なマジックがそのエピソードのネタになっているところも、奇術好きにはたまらないところでしょう。
 問題は、実は手品のネタというのはいくつかの基本形のバリエーションなので、シリーズが進み、話数が増えてきたら、すぐネタ切れしちゃうんじゃないかというところでしょうか。
 ともあれ、まだ10話も放送されていない現時点では、毎回ご機嫌なトリックやどんでん返しを見ることができて、視聴者の人気も良いようです。このまま第2シーズン継続が決まると良いなあ。
 
 さて、マジシャン探偵と言えば、なんといってもクレイトン・ロースンの生み出したグレート・マーリニでしょう。その優れた推理力で不可能犯罪を解決していく、古典的な名探偵なのですが、その推理力の基本がマジシャンとしての才能であり、マジックの基本であるミス・ディレクション、すなわち心理的盲点をつくトリックに関する深い知識だというあたりが、特徴的です。
『帽子から飛び出した死』『棺のない死体』など全長編が翻訳されているにもかかわらず、今はどれも入手困難になっているのはいかにも惜しいといいますか、最近の流行りに乗って、どこか新訳版出してくれないかなあ。
 

堺 三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャ・バットマン』も2018年公開予定。
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