◆第55回 ドラマの刑事役女優がほんとに私立探偵に? どっかで聞いたような設定の『テイク・ツー』◆

 あーづーいーー。いやもう日本の夏はあいもかわらずきっついですなあ。さて、アメリカテレビドラマ界の夏はというと、ほとんどの番組は秋からの新シーズンに備えてお休み中。そんな中、13話限定で夏のドラマ枠を埋めてる「夏ドラマ」の新作『テイク・ツー(Take Two)』をご紹介します。
 
●『テイク・ツー』予告編

 舞台は現代のロサンゼルス。主人公のサム・スイフトは200話以上続いた人気刑事ドラマの主演女優でしたが、彼氏の浮気に怒って泥酔して騒ぎを起こし、リハビリセンターに送られてしまって、只今失職中。なんとか自由の身になった彼女に対し、彼女のエージェントは「次の作品のオファーが来てるわ。探偵役だから、リサーチのために本物の私立探偵としばらく一緒に行動して」と、元刑事の有能な探偵、エディー・ヴァレティクのところへ連れていきます。
 渋々サムの面倒を見ることになったエディーですが、長年女優として芝居をしてきたサムは他人の嘘を見抜く能力にだけは長けており、エディーを助けて意外な活躍をしてみせるのでした。ところが、事件解決に夢中になりすぎたサムは、自分の起こした事件の裁判に遅れてしまい、判事と知り合いだったエディーの取りなしで、半年間はエディーの監視下に置かれることに。かくして、有名テレビ女優が見習い探偵としてロサンゼルスの街を走り回るという、前代未聞の半年間が始まるのでした。
 タイトルの『テイク・ツー』というのは映像用語で「本番撮影2回目」という意味ですから、まさにサムの人生の「本番2回目」ということを表しているのでしょう。
 
 って、なんか設定だけ聞いてると、素人がなぜか探偵になってしまうというかつての人気ドラマ『探偵レミントン・スティール』(1982~87)や『こちらブルームーン探偵社』(1985~89)、もしくはミステリ作家が警察のコンサルタントになっちゃう『キャッスル ミステリー作家のNY事件簿』(2009~16)を思わせますが、それもそのはず、なんと本作の原案兼製作は、『キャッスル』の原案者でもあるアンドリュー・W・マーロウなのです。おんなじネタ、ちょっとひねって使ってみせるとは。さすがというかなんというか(笑)。
 そんな、どこかで見たような本作の魅力はなんといっても主役のサムを演じるレイチェル・ビルソンのかわいさ。『The O.C.』(2003~07)で女子学生、『ハート・オブ・ディクシー』(2011~15)で若き女医さんを演じた彼女も、今や御年36歳。何年も続くテレビドラマの元主役という設定もあって、落ち着いた熟女っぷりを見せるかと思ったら……いつもの元気溢れる小娘っぽい感じのままでした。素直で元気で前向きで正義漢に溢れてて、ついついやりすぎて失敗しちゃう、かわいい見習い探偵を熱演しているのです。少々ゆるいストーリーも彼女の笑顔に免じて許せちゃうかと。
 ちなみに、この手の「夏ドラマ」は、よほど人気が出ない限り、第二シーズンが作られることはないのですが、はたしてこの作品はどうかなあ?
 
 さて、俳優探偵といえば、イギリスの作家サイモン・ブレット〈俳優探偵チャールズ・パリス〉シリーズが有名でしょう。
 原書は一九七〇年代から九〇年代後半にかけて執筆され、『邪魔な役者は消えていく』から『死体つき会社案内』まで七作が、角川文庫と早川書房のポケットミステリから翻訳出版されています。
 もっとも、『テイク・ツー』のサムと違って、チャールズは40代後半のおじさんで、役者としてもあまりうまくいっていないという、なんともさえない感じですが。
 ストーリーも『テイク・ツー』と比べるとグッとブラックなユーモアに溢れていて、大人のための軽い読み物といった感じでしょうか。実はまだ半分くらい未訳で残ってしまっているのが残念なシリーズです。
 

堺 三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャバットマン』も2018年6月15日(金)劇場公開。
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