リニューアル第1回(通算第22回)大阪読書会レポート

(ここまでのあらすじ)
「読書会の世話人をやってみませんか?」
 そんな甘い誘惑にのせられ、ふらふらと大阪翻訳ミステリー読書会の新世話人に就任した3人。
 旧大阪読書会メーリングリストから新しいSNS(サークルスクエア)への移行、会議室の予約、シンジケートへの告知文の掲載、参加希望者への返信、人数確認、懇親会の手配など、次々に立ちはだかる難題をクリアし、いざ読書会当日を迎えた。
 そこへ姿を現わしたのが、課題本『ニック・メイソンの第二の人生』の翻訳者である越前敏弥氏。リニューアル第1回にはゲストとして参加するという“サムライ”の約束が見事果たされたのだった――

 というわけで、2018年10月26日、大阪読書会リニューアル第1回(通算第22回)を開催いたしました。ゲストの越前敏弥さん、旧世話人ズの方々や常連さんに加え、今回はじめて参加する方もおられ、新世話人ズは有難さと責任感をあらためて噛みしめながら、平日の夜だというのに遅刻者ゼロ(すばらしい!)で定刻通りにスタートしました。

 課題本『ニック・メイソンの第二の人生』は、警官殺しの罪に問われて刑期25年を言い渡された主人公ニック・メイソンが、刑務所でダライアス・コールという謎の男にスカウトされ、コールの手足となることを条件に出所し、重大犯罪に手を染めていく……という物語です。そこで、「“獣になれない私たち”による、獣になっちゃった?男の読書会」と銘打ち、われわれ新米世話人ズが新米殺し屋と格闘する読書会となりました。

 作者のスティーヴ・ハミルトンは、翻訳ミステリー大賞読者賞や「このミス」の1位にも輝いた『解錠師』や、“探偵になりたくなかった探偵” アレックス・マクナイトシリーズをこれまでに発表している人気作家だけあって、ストーリーについては、

・物語の運びがスピーディーで話にひきこまれた
・シカゴの街の風景や登場人物の動きが目に浮かぶように描かれていた
・サラ・パレツキーのヴィク・シリーズを思い出したが、ヴィクとちがいカブス嫌いのメイソンによって、シカゴの別の面を見ることができた
・“殺し屋”小説の一番好きなところが凝縮されている

と、ほとんどの方が退屈することなく、スリリングな展開を楽しんだようです。

 しかし一方、主人公ニック・メイソンに対しては、

・自分勝手であまり共感できなかった
・出所するやいなや、自分のもとを去った元妻の家に押しかけて恨み節を言うって……まずは謝れや!って思った。(←この意見多数)
・しかも、元妻が再婚していることを知るとすぐに新しい女をひっかけるって、どうよ?
・すぐに女に頼る
・物語の冒頭で自らにルールを律しているというので、メモを取って読み進めたが、あっという間にルールのことを口にしなくなり、結局ルールって何やってんと感じた

などなど、大阪読書会らしい厳しいツッコミが続き、訳者である越前さんが「もうちょっとメイソンのこと誉めてやってよ、だれか」と思わず発する一幕も。いまいち共感できない理由のひとつは、25年の刑期を食らうことになった犯罪に、どうしても加担せざるを得ないような状況が書きこまれていないからであり、そこがプロットとして弱いのではないかという意見も出ました。

 越前敏弥さんの解説によると、このシリーズはスティーヴ・ハミルトンが新しいエージェントと組み、映像化も視野に入れて書きはじめた、まさに「新境地」に足を踏み入れた作品であるとのこと。ということは、主人公ニック・メイソンが感情移入しにくいキャラクターなのもハミルトンが新境地に挑んだ証であり、これまで多くの読者に愛されてきたアレックス・マクナイトや、『解錠師』のマイクルとは異なる主人公を描くことを意識した結果なのかもしれません。

 また、もともと人物造形のうまさには定評のあるハミルトンだけに、主人公以外のキャラクターもていねいに書きこまれており、好意的な意見が多く寄せられました。

・エディー(メイソンの幼なじみ)の妻が好き
・メイソンと娘エイドリアーナの絆が、この小説の支柱のひとつだと感じた
・キンテーロ(メイソンとコールとの連絡係)のサイドストーリーが読みたい
・メイソンと熱血刑事サンドヴァルの “バディ関係” がよかった

などなど、なかには『おっさんずラブ』をひきあいに出して語る方もいらっしゃいました。もちろん、メイソンと並ぶストーリーの要である「暗黒街の大物」ダライアス・コールについても、

・サミュエル・L・ジャクソンをイメージして読んだ
・得体のしれない不気味さが気になった
・ちょいちょい取ってつけたように “サムライ” や “ブシドー”、はては “ダイミョー”まで口走るのはいったい何なん?

など、多くの方が興味をひかれたようでした。越前さんもコールの場面は訳していて楽しかったと話されていました。

 これらの魅力的な登場人物がこの先どうなるのかは、ぜひとも続刊である『ニック・メイソンの脱出への道』を読んで確かめてください……と読書会でもお話いたしましたが、ここでも再び声を大にして言っておきたいと思います。(文字ですが)

 最後に、みなさんから “殺し”にまつわるオススメ小説を挙げていただきました。
 世話人ズからは、女に弱い殺し屋を主人公とした(ニック・メイソンの弱さとは異なりますが)ジョー・ネスボ『その雪と血を』や、ローレンス・ブロックの殺し屋ケラー・シリーズ(世話人Mの解説によると、ケラー氏は趣味である切手を収集する合間に標的を殺さないといけないので、なかなか忙しいようです)などを紹介しました。

 そのほか、“殺し”のハードボイルドとして定番のテリー・ホワイト『真夜中の相棒』、純文学としても人気の高いコーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』、最近の話題作ハンナ・ジェイミスン『ガール・セヴン』、作家名としては、ドナルド・E・ウェストレイクにグレッグ・ルッカ、ジム・トンプスンなどが挙がりました。

 越前敏弥さんの推薦本は、ビル・フィッチュー『優しい殺し屋』。突如殺し屋に仕立てあげられるボブ・ディランを主人公とする異色のユーモア“殺し屋”小説のようで、たいへんおもしろそうなのですが、がしかし、Amazonの紹介文を読むとGが出てくるらしく、どうしてもその点がひっかかりますが……。(文字でも見たくないので……いや、でも読んでみたいと思います)

 オマケとして、世話人N(私)の勝手な妄想による架空キャスティング(新井浩文のニック・メイソンはまずまず好評でした。“けもなれ”にちなむのなら、松田龍平もアリではないかという意見も)などもありつつ、大阪読書会リニューアル第1回は和気あいあいと無事に終了いたしました。
 ご参加いただいたみなさま、頼りない私たちを導いてくれた旧世話人ズのみなさま、「シンジケートの大物」越前敏弥さん、ありがとうございました。

 さて次回は、2月か3月頃を考えております。参加者から「英語圏以外のミステリーが読みたい」という声もあり、となると、課題本は新春祝いということで、いま話題の華文ミステリーもいいかな~なんて思ったりしています。今回お越しいただいた方はもちろん、読書会に参加したことがない方も大歓迎ですので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。