◆第54回 見た目はしょぼいが設定は盛り過ぎな名探偵が活躍する『インスティンクト』◆

 ぐあああ、前回紹介した『デセプション』、打ち切りになっちゃった! おもしろかったのになあ。とほほ。
 そういや、その前に紹介した特殊部隊もの3本は、『SEALチーム』だけが生き残って、あとの2作は打ち切りとなりました。一本だけでも残ったのにびっくり。というか、一番暗くてリアルなのが残ったあたり、今のアメリカの視聴者の気分がわかる感じ。
 
 さて、気を取り直して、今月も新作ドラマの紹介といきましょう。今月紹介するのは、異常心理の専門家が殺人犯の心理を推理することで犯罪捜査に協力するという心理ミステリ『インスティンクトInstinct:本能)』です。
 
●『インスティンクト』予告編

 主人公のディラン・ラインハートは、大学で異常心理について講義をしている教授ですが、やはり異常心理に基づいた凶悪犯罪について書いた著書がベストセラーとなり、次回作が期待されている人気作家でもあります。しかも、本人は隠していますがその前職はCIAの分析官であり、凄腕の諜報員だったという曰く付きの人。こう書くと、渋い二枚目か、たくましいタフガイを想像してしまうかもしれませんが、本人はいたって普通、というよりも、服装こそはぱりっとした高級品の三つ揃いスーツを着ているものの、逆にそれがキザに見えてしまう、小柄で細面のただのおじさんにしか見えない人なのです。また、作品の味付けとして、ゲイであり、恋人(こちらはワイルド系ハンサム)がバーを経営しているという、今っぽい設定もついてたりします。
 そんなラインハート教授のもとに、ある日、ニューヨーク市警の殺人課に勤務するリジー・ニーダム刑事が訪れてきます。彼の著書の描写そっくりの殺人事件が発生したというのです。ニーダム刑事の要請を受け、コンサルタントとして事件捜査に加わることになります。そして、この事件の解決後も、引き続きニーダム刑事とコンビを組んで、大学教授、作家、捜査コンサルタントの三足のわらじを履いて活躍することになる、というのが、基本的なストーリーです。
 
 原作はジェイムズ・パターソンとハワード・ローハンによる『Murder Games』(未訳)なのですが、ちょっと第1話のあらすじが『キャッスル ミステリー作家は事件がお好き』(別題『キャッスル/ミステリー作家のNY事件簿』)の第1話に似ている気がしませんか?
 実際、『キャッスル』の製作者たちもそう思ったようで、『インスティンクト』側が謝罪するという事件も起こっていますが、番組そのものは問題なく放送中です。
 じゃあ、『インスティンクト』と『キャッスル』の最大の違いはどこかというと、インスティンクトのラインハート教授は(『キャッスル』の主人公、ミステリ作家のキャッスルと違って)押しも押されもしない本物の名探偵だというところ。彼は常に鋭い観察眼と深い心理学の知識から、事件の関係者たちの心理を洞察、その動機を推理して犯人を指摘するのです。というわけで、毎回、心を病んだ犯人が登場、歪んだ動機を披露してくれるあたりは、ちょっと『クリミナル・マインド』に近いところがあるかも。
 
 さて、ジェイムズ・パターソンと言えば、映画化された〈アレックス・クロス〉シリーズや、女性ばかりのメンバーが毎回殺人事件の謎を解く〈ウィメンズ・マーダー・クラブ〉シリーズなどで有名なミステリ作家ですね。ちなみに、前述の『キャッスル』には、本人役で何度か出演、主人公のキャッスルとポーカーしていたことも。
 日本ではあまり翻訳は出ていませんが、アメリカでは超のつくベストセラー作家です。しかも、作家歴38年に対して、共著も多いとはいえ、150冊以上の著作を持つという、アメリカのベストセラーさっかでは珍しいものすごい多作家でもあります。おかげで、年収が100億円を越した年もあったとかで、今や資産が700億円を越す大富豪作家だそうです。
 その作風の特徴は、なんといってもストーリーのわかりやすさと読みやすさ。その平易さが人気の秘訣なのではないかと思います。アメリカの赤川次郎とでも例えればいいのでしょうか(と言うには、ちょっと内容が血なまぐさいかもしれませんが)。代表作で、今や通算で20作を越えている〈アレックス・クロス〉シリーズくらいは、もっと日本でも翻訳紹介されて欲しいものです。

堺 三保(さかい みつやす)
  1963年大阪生まれ。『SFマガジン』、『映画秘宝』等に記事書いてます。また、訳書近刊にコミックス『インフィニティ・ガントレット』(小学館集英社プロダクション)。設定考証を担当したテレビアニメ『ダーリン・イン・ザ・フランクス』が2018年1月から放送中。同じく設定部分を担当したアニメ映画『ニンジャバットマン』も2018年6月15日(金)劇場公開。
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