快晴の読書会日和となった9月14日、大阪読書会を開催いたしました。課題書はエリザベス・ウェインの『ローズ・アンダーファイア』(創元推理文庫)で、翻訳者の吉澤康子さんをゲストにお迎えしました。

『ローズ・アンダーファイア』は、2013年MWA賞YA小説賞を受賞して日本でも話題になった『コードネーム・ヴェリティ』の姉妹編にあたります。どちらも第二次世界大戦下のヨーロッパを舞台とし、「いま翻訳者たちが薦める一冊 憎しみの時代を超える言葉の力」フェアの対象書籍となっています。

 けど、戦争とはちょっとテーマが重いかな……とも心配していたのですが、募集すると次々にお申込みいただき、あっという間に満席御礼となりました。また、大阪読書会初参加の方や、読書会なるものに生まれてはじめて出席するのでドキドキしています……といった方たちにも、有難いことにご参加いただきました。

『コードネーム・ヴェリティ』は、ナチスの捕虜となったイギリス特殊作戦執行部員の女性と女性飛行士マディとの友情を描いた物語でしたが、『ローズ・アンダーファイア』は、マディの女性飛行士仲間であったローズがドイツ軍に捕まり、ラーフェンスブリュック強制収容所に送られます。
 ローズが送られるラーフェンスブリュック強制収容所は、現実に存在した収容所であり、10万人以上のユダヤ人やポーランド人、政治犯とされた女性たちが投獄されました。

 この物語の中でも、収容所内での鞭打ちなどの拷問や処刑、チフスなどの病気の蔓延、そして人体実験……が容赦なく描写されていて、参加者のみなさまも口々に「読んでいてつらかった」と語られました。
 けれども一方で、収容所内で力を合わせるローズたちの姿に、「希望を感じた」「ひとを信じることの大切さをあらためて知った」「自分の命をなげうってでも、真実を世界に伝えてほしいと訴える登場人物たちに胸を打たれた」という感想も多く聞かれました。

 以前のローズは明るく無邪気な少女だったからこそ、収容所に送られてからの変わりようがいっそうつらかったという意見もあり、収容所に送られてからもローズの足にしばらく残ったペディキュアのエピソードは、それを象徴するものとして、多くの方の胸に刻まれたようでした。
 また、現実に存在した収容所をフィクションにする意義としては、「小説としての構成も考え抜かれている」と感心された方もいれば、「ノンフィクションでもよかったのでは?」という意見もありました。

 好きな登場人物としては、『コードネーム・ヴェリティ』から引き続き登場する、ドイツ人のアンナが人気を集めました。前作から変化した点に言及された方もおられ、翻訳者の吉澤さんもその鋭い読みに感心されていました。

 この物語では、詩によって登場人物たちの命が長らえる、つまり、詩がパンの代わりとして重要な役割をはたしています。エドナ・ヴィンセント・ミレイの詩が多く引用されているのですが、吉澤さんのお話によると、日本語の既訳がないため一瞬とまどったそうですが、それならば自由に訳せる! と考えたとのことでした。

 吉澤さんからは参考になる本として、ラーフェンスブリュック強制収容所を描いたノンフィクション『母と子のナチ強制収容所―回想ラーフェンスブリュック』(シャルロッテ・ ミュラー著、星乃 治彦訳 青木書店)と、『RED ヒトラーのデザイン』(松田行正著 左右社)をお持ちいただきました。
 前者には、ラーフェンスブリュック強制収容所の地図や内部の写真(現実に使用していた拷問台など)が掲載されています。後者は、ナチスが大衆の支持を手に入れた手法について、斬新な切り口で考察していて、いままさに読むべき本のように思われました。
 そして、エリザベス・ウェインの ”Young Pilot”シリーズはこの二作だけではなく、新たな作品が書かれ続けているため、次作もぜひ読みたい!! と参加者一同が口を揃えました。

 世話人からは、ローズが身を寄せるホテル・リッツの歴史を描いたノンフィクション、『歴史の証人 ホテル・リッツ (生と死、そして裏切り)』(ティラー・J・マッツェオ著、羽田詩津子訳 東京創元社)、下ネタ、友情、恋、ナチスとの戦い、パルチザン……が奇跡のバランスで盛りこまれた『卵をめぐる祖父の戦争』 (デイヴィッド・ベニオフ著、田口俊樹訳 ハヤカワ文庫)などを推薦本として挙げました。

 参加者のみなさまからは、下記の本を挙げていただきました。

『片手の郵便配達人』(グードルン・パウゼヴァング著、高田ゆみ子訳 みすず書房)
『戦争は女の顔をしていない 』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著、三浦みどり 訳 岩波現代文庫)
『ZENOBIA ゼノビア』(モーテン・デュアー著、荒木美弥子訳 サウザンブックス社)
『知らなかった、ぼくらの戦争』(アーサー・ビナード編著 小学館)
『ジャーニー 国境をこえて』(フランチェスカ・サンナ著、青山真知子訳 きじとら出版)
『火葬人』(ラジスラフ・フクス著、阿部賢一訳 松籟社)
『戦場のコックたち』 (深緑野分著 創元推理文庫)
『この本をかくして』(マーガレット・ワイルド著、アーサー・ビナード訳 岩崎書店)
『ファニー 13歳の指揮官』(ファニー・ベン=アミ著、ガリラ・ロンフェデル・アミット編、伏見 操訳 岩波書店)
『ある晴れた夏の朝』(小手鞠るい著 偕成社)
『お母さんの生まれた国』(茂木ちあき著 新日本出版社)
『わたしがいどんだ戦い 1939年』(キンバリー・ブルベイカー ブラッドリー著、大作道子訳 評論社)
『ヒトラーと暮らした少年』(ジョン・ボイン著、原田勝訳 あすなろ書房)
※同作者の『縞模様のパジャマの少年』(千葉茂樹訳 岩波書店)も話にのぼりました。
『戦火のなかの子どもたち』(岩崎ちひろ著 岩崎書店)

 本以外では映画〈東京裁判〉や、日本の戦犯たちを描いた舞台〈赤道の下のマクベス〉も推薦していただきました。
 こうやって戦争の本がどんどんと出版され続けるというのは、大切なことではありますが、戦争や戦争の種がいっこうになくならない証のようでもあり、そのことを忘れないためにも読み続けていかなければならないと、つくづく感じました。
 それにしても本を読んで読書会に参加し、また読まねばならない本が増えるというこの永久運動……RGに“あるある”として歌いあげてほしいものです。

 読書会がおおいに盛りあがったため、懇親会のお店に遅れてしまいましたが、気の利く参加者さまが先にお店に向かってくれたりと、今回も参加者のみなさまの助力と、はるばる大阪まで来ていただいた吉澤康子さんのおかげで、楽しい読書会になりました。
 吉澤さんからは“参加者全プレ”として、ココアシガレット(収容所のなかで、煙草が交換のツールになるため)と、『ローズ・アンダーファイア』しおりまで持ってきていただきました。ほんとうにありがとうございました!

 さて、次回は来年の1月25日(土)の夕方からになります。今回に引き続き、豪華ゲストに来ていただく予定です。笑う鬼には笑っといてもらって、ぜひ来年の手帳に予定を書きこんでおいてください!