第20回 二枚目詐欺師にご用心『WHITE COLLAR 天才詐欺師は捜査官』
以前、元凄腕保険調査員が一流犯罪者たちを集めて詐欺師チームを結成するという「レバレッジ 〜詐欺師たちの流儀」(連載第6回)をご紹介しましたが、今回はあれと正反対、天才詐欺師がFBIのカタブツ捜査官とコンビを組んで、知能犯罪、いわゆる「ホワイトカラー犯罪」に挑戦していくという、「WHITE COLLAR 天才詐欺師は捜査官」を取り上げてみたいと思います。
主人公は天才的な詐欺師のニール・キャフリー。彼は、自分を逮捕した優秀なFBI捜査官、ピーター・バークに取引を持ちかけます。
ピーターたちFBIニューヨーク支部ホワイトカラーユニット(知能犯捜査課)の捜査に協力する代わり、刑務所から出してくれというのです。
実はニールは、突然失踪したかつての恋人を探すため、どうしても一刻も早く刑務所の外に出たかったのです。
どこまでニールを信じていいのか、半信半疑ながらも、その能力を高く評価するピーターは、彼の申し出を受け入れます。
かくして、若くてハンサム、口八丁手八丁の天才詐欺師と、勤勉実直な愛妻家で執拗な捜査が取り柄のカタブツ捜査官という、なんとも不思議なコンビが誕生、次々に難事件を解決していくことになったのでした……。
この作品の見どころは何といっても、主役コンビの対照の妙溢れる魅力でしょう。
ハンサム、オシャレ、スマートで、涼しい笑顔で嘘をつくニール(演じるは「チャック」で主人公の大学時代の友人で、主人公が歩くデータバンクとなるきっかけを作ってしまったCIA局員を演じていたマット・ボマー)と、勤勉実直な仕事の虫で、スーツだって時計だって同じ安物を使い続けているごついおじさんのピーターの、二人の掛け合いがとにかく楽しいのです。
二人には一つだけ共通点があって、それは愛する人(ニールの場合は恋人、ピーターは奥さん)に対する一途な思い。どれだけ舌先三寸な詐欺師野郎に見えても、この一途さがあるから、ニールは実にかわいげのある好青年として、ピーターに信頼されていくのです(まあ、同時に、行方不明の彼女を捜そうして厄介ごとを引き起こしては、ピーターの頭痛の種にもなるわけですが)。
正直言って、ミステリとしては詰めの甘いエピソードもけっこう目立つんですけど、主役二人はもちろん、脇役たちも含めた登場人物たちの魅力と、作品全体を覆う洒落っ気が、そういう欠点を大きく上回っていると思います。とにかく見ていて気持ちがいいんですよね。
さて、犯罪者が探偵側にまわると言えば、なんといっても古典ではルパンものでしょう。実のところ、アルセーヌ・ルパンの小説は、彼が盗みを働く話よりも、様々な変名の下、正義のために奇怪な犯罪に立ち向かう話が多いわけですから。
中でも、ジム・バーネットと名乗って自分の探偵社を開いてしまう『バーネット探偵社』や、スペイン貴族にしてフランス外人部隊の英雄ドン・ルイス・ペレンナと名乗って活躍する『金三角』、『三十棺桶島』、『虎の牙』、セルジュ・レニーヌと名乗って八つの怪事件に挑戦する『八点鐘』などは、まさに古き良き探偵小説や冒険小説の香りが漂う好篇でしょう。
二枚目で、服装も言動もスマートな紳士、というあたりは、まさに『WHITE COLLAR』のニールのご先祖様とでもいったところ。
現代的なところで言うと、あの恐るべき連続殺人鬼ハンニバル・レクター博士も、最初の二作(『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』)では、捜査官にヒントを与える側だったりもしたわけですが、この人はちょっと不気味すぎますよね。結局、最後はものすごいことになっちゃうし(苦笑)。
●AXNの「WHITE COLLAR 天才詐欺師は捜査官」公式サイト
http://mystery.co.jp/program/white_collar/
●予告編(White Collar Fall Preview – USA Network)
〔筆者紹介〕堺三保(さかい みつやす)
1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。今年の仕事は、『ウルフマン』(早川書房)のノベライズと『ヘルボーイ 壱』、『ヘルボーイ 弐』(小学館集英社プロダクション)の翻訳。
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