そういえばつい先日かぼちゃプリンを食べました。素材のドッシリ感にプラスされたカラメルソースがなんか……しつこかったですね。はい、特に脈絡が無い気はしますが引き続き今日は『かぼちゃケーキを切る前に[お料理名人の事件簿2] 』リヴィア・J・ウォッシュバーンのお話。

【あらすじ】

 元教師のフィリスたちの今度の舞台は秋祭り。学校のPTO役員をしているマリーから頼まれて、フィリスたちは小学校の秋祭りでお菓子を売ることになる。キャロリンのアイデアで、催しではケーキのオークションやヘルシースナック・コンテストを行ったのだが、そんな楽しい秋祭りの会場に悲鳴が響き渡った。PTO会長・シャロンの刺殺死体が発見されたのである。この事件で会場は大混乱に陥るが、その中でフィリスは事件の解決につながる重要な手がかりを発見する。

 秋祭り=収穫祭=ハロウィン……というものらしいですよ、アメリカでは。なので主人公フィリスが作るケーキもかぼちゃのお化け(ジャックランタン)をあしらったデコレーション・ケーキ。個人的にギョッとしたのはこのケーキのレシピの中に「赤色着色料」「黄色着色料」と普通に着色料が紛れ込んでいたこと。たぶん日本だともっと手の込んだことをするんだろうけどアメリカの田舎だとこういう大雑把な感じで済ませちゃうんだろうなあ、と感慨深いものがありました。

 それはともかく。作中ではフィリスが「ハロウィン」という単語が小学校では使われなくなったと嘆いている。たぶんハロウィンがケルト人の収穫祭だったことを受けて宗教的に公の場では使えない単語になったということなんでしょう。ポリティカリー・コレクトというよりはキリスト教徒の中でうるさ型の人がいたという。このあたりは「昔はよかった」というフィリスおばあちゃんのボヤキ的なおかしみを演出すると共に、アメリカ事情を垣間見ることができるシーンとして興味深いところか。

 ついでにあらすじの「PTO」という単語について触れておくと、これは日本で言うPTAと全く変わりません。”Parents”と”Teachers”の”Association”じゃなくて”Organization”ってことね。

 シリーズを通しての魅力は、お菓子コンテストであったり、またフィリスの下宿唯一の男性サムを巡る水面下の意地の張り合いだったりと、老齢の女性たちの競争心や嫉妬を描いている部分……らしいのだけれど、個人的にはあまり心打たれる箇所ではなかった。

 もちろん小説のスパイスにはなっているのだけれど、あまりに意地の張り合いが子供じみていて、歳とってからこんなことしないだろうと……思う、思うのだけれど、どうかしら? 歳をとるほど童心に戻るとも言うし。こればっかりは歳をとってみないと分からないかな。まあフィリスたちも仕事も引退して、しょうもないことで意地の張り合いをするほど暇、ということなのかも。私は年をとったらもうちょっと落ち着いた人間になれていますように……。

 とはいえ落ち着いていたら犯人探しなんてことをするファンキーなおばあちゃん、というコージーの主人公にはならないんですけどね。

コージーについて今回まででわかったこと

  1. 秋祭り=収穫祭=ハロウィン。アメリカの田舎にはつきもの。
  2. PTA、現在のアメリカではPTOというらしい。

そして次回でわかること。

それはまだ……混沌の中。

それがコージー・ミステリー! ……なのか?

小財満判定:今回の課題作はあり? なし?*1

前回のようなミステリ的な面白みはさすがにない。が、ファン・ライティングかな、と思う作品が多く見られるこのジャンルの中では、読者を楽しませようという職人的な気概が見えて好印象。コージー・ミステリのような明瞭にエンターテインメントに振ったジャンルとしては絶対に必要な姿勢だと思うんだけど、なかなか少ないもんなあ。

というわけであり

コージー番長・杉江松恋より一言。

 おお、前回に続けて「あり」判定。まあ、自信はあったわけですが気に入ってもらえて嬉しいです。「料理自慢のおばあちゃんが探偵」という以外に目立った特徴がないために損をしていると思いますが、このシリーズは本当に良作です。ぜひみなさんも読んでみてくださいね。というわけで、今回でめでたくウォッシュバーンは卒業。次はちょっと趣向を変えてみましょうか。J・F・イングラート『名犬ランドルフ、謎と解く』でいってみましょう。

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小財満

ミステリ研究家

1984年生まれ。ジェイムズ・エルロイの洗礼を受けて海外ミステリーに目覚めるも、現在はただのひきこもり系酔っ払いなミステリ読み。酒癖と本の雪崩には気をつけたい。

過去の「俺、このコージー連載が終わったら彼女に告白するんだ……」はこちら。

*1:この判定でシリーズを続けて読むか否かが決まるらしいですよ。その詳しい法則は小財満も知りません。