前回につづき、第四回翻訳ミステリー大賞二次投票にあたって、翻訳者のみなさまが投票メールに添えてくださったコメントの一部をご紹介します。なお、掲載にあたって編集した箇所がありますこと、ご了承ください。作品は得票数順、コメントは投票者50音順です。

 こちらにもこれからお読みになるかたの参考として当サイト人気連載「書評七福神今月の一冊」における各評者のコメントを添えました。

 候補作『深い疵』ネレ・ノイハウス/酒寄進一訳(東京創元社)

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上條ひろみ:ドイツの暗い歴史を扱っていながら、このエンタテインメント性の高さ!謎の一族を追いつめる、ふたりの捜査官の立ち位置やキャラクターのバランスも絶妙。

小林さゆり:刑事のコンビ、オリヴァーとピアのファンになりました。仕事熱心だけど私生活も充実していて、幸せなんだけど嫌味がない。そんなところに好感を持ちました。ぜひシリーズの最初から読んでみたいです。

立石ゆかり:容疑者が一転二転(三転?)するはらはらどきどきの展開に、仕事をするのも忘れて読みふけりました。プロットの巧みさに脱帽です。

堀川志野舞:冒頭からぐんぐん話に引き込まれました。重苦しくなりかねないところを、ピアという女性警部の存在がほどよく緩和してくれたと思います。ストーリー良し、キャラ良しで、今後も追いかけていきたいシリーズです。

     *

千街晶之:ホロコーストを生き残ったユダヤ人と思われていた人物の他殺死体から、ナチス親衛隊員だったことを示す刺青が見つかった。富豪一族をめぐる複雑極まりない人間関係。陰惨な連続殺人事件を覆う虚栄と偽善のヴェールを、貴族出身の切れ者警部が剥ぎ取ってゆく。ドイツ史の暗部をモチーフにした、重厚な読み心地の警察小説だ。

 候補作『罪悪』フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一訳(東京創元社)

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佐々田雅子:応援弁士をつとめた手前、変節はまずいな、と。(笑)

三浦玲子:げに恐ろしき不思議な存在は人間なりという思いを新たにしました。

三角和代福岡読書会で課題書に取りあげた作品です。たいへん多角的なご意見が出て、いつにも増して密度の高いやりとりのできた会でした。読者からそうした反応を引きだすことのできる良作としてこちらに一票を。

宮崎真紀:前作よりむしろシャープさが増し、質の高さを維持していることに感嘆しました。

横山啓明:迷いましたが、自分で訳すとしたら、この作品かなと。

     *

千街晶之:恐るべきことに前作より更に叙情性を削ぎ落とした本書にあっては、原因と結果を結ぶ糸はあちこちで絡まりあい、法は真実を暴く力を喪い、罪と罰の均衡を計る天秤は狂っている。すべての蝶番が壊れた荒涼たる世界にあって、人間が罪悪へと堕ちてゆく短い物語だけが絶え間なく紡がれてゆくのだ。

吉野仁:前作『犯罪』同様、なにかこの世の見てはいけない部分をのぞきこんでしまったような畏怖を感じさせられる作品がならぶ。読む側も「罪悪」を感じてしまうのだ。あらためて作者の犯罪を見る視線と描写の凄みに恐れいった。『犯罪』に魅入られた方はこちらも必読である。

杉江松恋:あれだけ第一作はおもしろかったのだからもう十分二作目は過度な期待は禁物、と思って読み始めたのだがとんでもなかった。第二作のほうがはるかに上じゃん!(中略)これだけバラエティに富んだ内容を、抑えた筆致で書き上げた技量はおそるべきものがある。ハードルは高くなるばかりだ。どこまで行くんだよ、シーラッハ!

 候補作『湿地』:アーナルデュル・インドリダソン/柳沢由実子訳(東京創元社)

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青木純子:『湿地』に一票!

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北上次郎:北欧ミステリーが次々に翻訳されているが、「ラーソン以降」の作家ではこの人がベスト。主人公のキャラ(家族をうしなっている50男)がいちばんだが、構成も展開も、なかなかにうまい警察小説だ。

吉野仁:薄暗い場所の底に埋められた、湿って腐った過去が暴かれていく。派手さはないが、読み応え十分の警察小説。

杉江松恋:(前略)これはいろいろな実作者に聞いてみたいのだが、ミステリーという形式を持つ小説の中で作者がやりたいのは、この作品で実現されているようなことではないかと思うのだ。読み終えたとき、もしかすると夢のミステリーを読んでしまったのかも、という考えが頭に浮かんだ。誉めすぎかな。うん、誉めすぎか。でも次回作を読むまで、この思いはそのままとっておきたい。なんかすごいものを読んだ。インドリダソン、名前がおぼえにくいのが玉に瑕。

第四回翻訳ミステリー大賞:投票者コメントのご紹介(前篇)作品

●第一回大賞受賞作

●第二回大賞受賞作

●第三回大賞受賞作

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