「いつの間に もう秋! 昨日は夏だつた……」と立原道造ならずともつぶやいてしまうような夏の終わり、2014年8月24日(日)に第3回神戸読書会を開催いたしました。今回の課題書はガブリエル・ガルシア=マルケスの『予告された殺人の記録』(新潮文庫ほか)。ラテンアメリカ文学の巨星でマジック・リアリズムの使い手、代表作『百年の孤独』は焼酎にもその名を冠される名作。しかも今年のサッカーW杯で地味に有名になってしまったコロンビア出身の1982年ノーベル文学賞受賞作家。そのガルシア=マルケスが「自らの最高傑作」と語る中編小説です。

「翻訳ミステリー」と銘打つ読書会としては、いささかずれた選書といえないこともないので、「まあ、『殺人』ってタイトルに入ってるから大丈夫だろう!」と根拠のない自信を持ちつつもおそるおそる募集を始めました。参加者は最終的に18名、しかもうち5名が翻ミス読書会初参加とのこと。「文庫本だと薄くてリーズナブルなワンコイン価格(2014/09/19 07:50時点)」の呼び込みが効いたのか、それとも「『ガルシア=マルケス?読んだことあるよ、うふふ』と自慢できます!」の誘いが読書家心をくすぐったのか、盛況のうちに開始することができました。

まず自己紹介をかねて、課題書の感想をうかがいました。ガルシア=マルケス歴はまったくの初読から、『百年の孤独』挫折&読了組、課題書の読書会(当会とは別の企画)への参加歴あり、ガルシア=マルケス作品ほぼグランドスラムの勇者までさまざまです。みなさん、

・共同体の中の閉塞感がすごい

・愛と名誉の密度が濃い

・そもそも、被害者は(犯行の動機と思われる「事件」とは別として)そんなに悪者じゃない気がする

・被害者の印象が意外と薄い

・あの手紙の束が、最終的にああいう扱いだったというオチには衝撃

・国内ミステリーでいうなら『本陣殺人事件』っぽい

 と、メインのストーリーとともにディテールも楽しんでいただけたご様子。さらに、

・誰が誰と夫婦なのかわからなくなる(執筆者注:スペイン語圏はだいたい夫婦別姓)

は、流行の北欧ミステリーの人物名に苦労されているかたも多いと聞きますし、わかりますわかります。しかも、

・村長なのに通称が「大佐」では、読んでいるほうとしては困る

ですね、異論はまったくありません。

 このほかにもさまざまな感想や意見が飛び交いましたが、意外だったのは、

・被害者の遺体の解剖場面が強烈

との感想が多く聞かれたことです。犯罪小説読みがこれだけ集まっているなか、その歴戦の猛者をして「実にえぐい」「夢に出てきた」と言わしめる描写とはどういうこと?たしかに、凶器が屠畜用ナイフという点からしてプリミティブになかなか強烈だし、犯行後の被害者の行動も、「刺されたあとにあんなことができるのか?」と素直な感想がもれてしまうほどに、素っ頓狂ながらも鮮烈な描写です。そうはいっても、ミステリー小説で描かれる殺人も、被害者の殺害、あるいは死亡をプロセスこみでビジュアル化すると、鬱に陥るだけですまないほどに陰惨なものが多いのも事実です。ただ、その陰惨さがあっても、ミステリー小説は前に軽々と(個人差はあっても)読み進められる。なぜなら、それは実はミステリー小説にとって、これでもかと力を入れて描写する部分ではないからでしょう。書き手と読み手がそこにリソースを過剰に割かず、事件解決までのプロセスに振り向けるのがミステリー小説であって、同じ殺人を取り上げていながらも、この作品がミステリーとは言いがたい点はそこなのかもしれません。

また、この場面は陰惨さのわりには、

・司教の検死がむちゃくちゃでぐだぐだすぎる

・立ち会った医学生が途中で代わってあげればいいのに

・それでも検死記録として有効なところが笑える

と、どたばた的なテイストでも人気がありました。

そして、ガルシア=マルケスといえば「マジック・リアリズム」で有名ですが、そもそも本レポートの執筆者自身が「マジック・リアリズム」をいまひとつ理解していないまま、読書会に突入しております。というよりもむしろ、「マジックだったらリアリズムじゃないだろ」レベルの残念な理解力のために、もしものときのお助け本としてデイヴィッド・ロッジ『小説の技巧』を持参したにもかかわらず、この場面と同じくぐだぐだな解説に陥りかけるていたらく。そこにすかさず参加者のかたから、

「リアルな描写の中に現実離れした流れが加わるという点で、この作品にはやはりマジック・リアリズムが効果的に使われている」

と的確な見解が加わったことで、一同納得。ガルシア=マルケスを読むだけではなく、マジック・リアリズムも学んでしまうという大きな収穫も得られ、今回も、参加の常連さん製作・提供の、小説にちなんだお菓子たちが読書会のおともとなった読書会はめでたく終了いたしました。

読書会の終了後は、場所を移して中華料理店で懇親会を開きました。こちらでも、読書会参加の回数にかかわらず、本をめぐる話が楽しく弾みました。次回の開催は徳島・熱海読書会を終えた晩秋の予定。みなさまのお越しをお待ちしております。

神戸読書会世話人・末原睦美

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