ゴールデンウィークの初日、4月29日(土・祝)に第10回神戸読書会を開催いたしました。昨年の春の開催日程と同じく、「上田真田まつり」という強敵と日程が重なったこともあり、こじんまりとした規模の運営になるのではないかという予測のもとに準備をしていたところ、予測は嬉しいほうに外れ、ほぼ定員の人数をお迎えすることができました。

今回の課題書はシャーリイ・ジャクスン著『ずっとお城で暮らしてる』(市田泉訳、創元推理文庫)。ある事件をきっかけに、タイトルのとおり「ずっとお城で暮らしてる」、コンスタンス(愛称コニー)とメアリ・キャサリン(愛称メリキャット)姉妹の「平穏で幸せな」日常が、あるできごとをきっかけに揺さぶられるさまを描いた作品です。昨年はジャクスン生誕100周年ということで、多くのジャクスン作品の邦訳を手に取る機会に恵まれましたが、ちょうど前日の2017年エドガー賞において、ルース・フランクリンのジャクスン評伝 Shirley Jackson: A Rather Haunted Life が評論・評伝賞を受賞したため、はからずも非常にタイムリーな選書となりました。

読書会の席上でお聞きしたところでは、ジャクスン作品を今回初めて読む方が約3分の2を占め、

「メリキャットの実年齢と作品の語り口にギャップを感じる」

「コニーはいくらなんでも諦めすぎじゃないか」

「カジュアルに繰り出される『死ねばいいのに』という悪意が、どこからくるのかはっきりしなくてもやもやする」

「読んでいて自分も『知ってた』となるんだけど、なんだか、うーん」

と、主役の姉妹の関係、言動に関する感想が多く挙がりました。コニーとメリキャット姉妹のキャラクター造形には、ジャクスンの幼少時代に経験した出来事や心情がふんだんに盛り込まれているとのことで(ジャクスンは父母の結婚後早くに生まれた長女で、母親から実際に「中絶すればよかった」と頻繁に言われていたという)、はっきりとは示されないものの、激しい感情が秘められていることが姉妹の描写から読み取れます。

そして、過去の事件が姉妹につきまとって離れないことに端を発する鬱屈とした雰囲気は、助演キャストによってさらに強化されます。

「ブラックウッド家に介入してくるチャールズの台詞がいちいちむかつく」

「同居するジュリアン伯父さんの『病気』まで疑ってしまう」

「ジュリアン伯父さんの発言が、状況を把握して『巻き込まれまい』と考えたうえでのものなら、かなり怖い」

との意見が出たように、姉妹の間で共有される罪と悪意(らしきもの)に、登場人物それぞれが持つ「悪さ」が重層的に積み重ねられていきます。少し前のミステリー小説にはよく見られた、「みんな悪い奴だな!」と乾いた笑いで読み終えられるピカレスク小説のようなものとは違い、人の持つ「悪さ」にじわじわと追いつめられるような雰囲気を持つ作品です。参加者の方から出た、「自分では自分のことを『いい人、少なくとも悪い人ではない』と思っていても、自分の中にある悪意を外側から見せつけられる気がする作品」との感想が一番しっくりくると思いました。

冷静に作品全体を見渡すと、「引きこもりを美しく描いた作品」であり、「共依存の姉妹の物語」(いずれも参加者のご意見)なのですが、心理面に重点を置いた描写以外には、「明確な時代設定を読み取ることができる要素がほとんどない」という指摘が印象に残りました。たとえば、彼女らの住むお城の名前には実在の地名が冠されてはいますが、それは作品の舞台をぴたりと特定する要素とはいえません(出てくるお菓子から、アメリカの町が舞台だと推定はできます)。時代設定も、執筆者は勝手にドラマ『ダウントン・アビー』の主な舞台となる、1920年代あたりと考えていましたが、その時代のアメリカ国内の電話普及率は、すでに40%程度に達しているという説もあるのに、たしかに、このお城界隈はそのような時代の波を受け付けていません。もともと、各種道具立てに現実味を持たせたサスペンス小説的な印象を持って本書を選書したのですが、あくまでも、非現実的な設定に現実感のある心理描写を大きく盛り込み、しかも「お城」という語の持つファンタジー風味を最大限に利用したサイコホラー小説と考えるほうが的確なのかもしれません。また、お城と登場人物の関わりようから、「メリキャットって、実は○○○かもしれない」「サラ・ウォーターズの小説に似ている部分もあるが、映画化された『荊の城』よりも『エアーズ家の没落』にイメージが重なる。お城自体が生きて主人公であるかのような」という感想をお持ちのかたもいらっしゃいました。

ジャクスンの生涯については、遊びに来てくださった翻訳家・柿沼瑛子さんに Shirley Jackson: A Rather Haunted Life に基づいた解説をお願いすることができました。ご快諾いただいた柿沼さんには、あらためてお礼申し上げます。次回は夏あたりに開催できるように企画中ですので、みなさまのお越しをお待ちしております。

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