9月30日(土)に第11回神戸読書会を開催いたしました。同日開催の星空読書会レポートにもあるように、当日は好天に恵まれ、絶好の読書会日和。ここ数回の開催では微妙な天気に気をもんだ神戸読書会運営としては、「傘を持って移動しなくていい」の1点のみでもありがたいお天気でした。
今回の課題書はサマセット・モーム『英国諜報員アシェンデン』(金原瑞人訳、新潮文庫)。『月と六ペンス』、『ジゴロとジゴレット』などの著者として知られるモームが、MI6(英国秘密情報部、現SIS)の諜報員であった1914年から17年頃の経験をもとに著した作品です。MI6といえば、『007』シリーズのイアン・フレミングや『ヒューマン・ファクター』のグレアム・グリーン、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』のジョン・ル・カレなど、所属経験のある小説家が自身の経験をもとにした小説を多く著していますが、エンタメ系作品を主としない作家の、スパイを題材とした小説ってどんなもの?という興味もあってか、ほぼ満員のご参加をいただきました。
モーム作品は『〇〇文庫の100冊』といった、ノンジャンルの読書リストには必ず収録されているということもあり、読んだことがあるかどうか最初にざっと挙手していただいたところ、「『アシェンデン』が初めて」と「過去に読んだのは『月と六ペンス』のみ」の回答でほぼ4分の3くらいを占めました。「高校時代に何か読んだがそれっきり」「ポール・ゴーギャン(『月と六ペンス』の主人公、ストリックランドのモデルといわれる)の作品が苦手なので読んでない」など、執筆者の読書経験から考えても「わかる」としか言いようがない理由が並び、モーム作品との出会いはなかなかうまくいっていないようです。
そういった中で、課題書については、
「各章のディテールを追っていくのが面白い」
「素人っぽいけど食えない、諜報員のおっさんの描写がいい」
「クリスティ作品に通じる、英国中流階級以上の空気感がよく出ている」
「上司RがいかにもMI6の人物という感じで面白い」
という好意的な感想の一方で、
「前書きが回りくどくて、その時点ですでにくじけた」
「アクション要素に欠ける」
「読書会での課題書にでもならない限り読まない作品」
「ミス・キングへの扱いが辛辣で、ひどくない?」
など、好きではなかった点の指摘も多々ありましたが、この「面白くなかった」が他のモーム作品を読んでも出てきそうな要素を多く含んでいたのが、執筆者個人としては面白く思いました。
全16章の中では、エジプトの王族に仕えるいわくありげな老婦人を描いた第3章「ミス・キング」、中米からのエージェントに帯同する第4章「ヘアレス・メキシカン」、ロシアにおける動乱の一日と日常を描いた第16章「ハリントンの洗濯」の各章に人気が集まりました。「諜報員って、実際にはフィジカルな訓練がいらないということを知ることができて新鮮」という感想が出たほど、アクションからは縁遠い印象を受ける作品ですが、読んでみると実際には、アシェンデンのミッション遂行中に起こったかなり深刻な事態(モームが実際に直面した事態といわれる)が取り入れられており、内容としては人気スパイ小説と比べてもそれほど平板ではありません。スパイ活動が日常と隔絶された非日常ではなく、「日常のすぐ隣にある非日常である」という視点で構成されているため、波風の少ないスパイ小説に見えるのだろうと考えています。
今回は日本モーム協会会員のかたからお申込みがあり、モーム作品の面白さについてお話をうかがう時間が持てたこと、また「そもそもこちらはどんな組織ですか?」と、意外と聞かれたことのない素朴な質問をいただき、「いやいや、いささかも怪しい組織ではございません」と、弁明なのか説明なのかわからないお返事をしたことも印象に残る会でした。次回は2018年春の開催予定です。詳細が決まり次第お知らせいたしますので、みなさまのお越しをお待ちしております。