9月20日(土)、徳島県鳴門市にある大塚国際美術館にて、四国でははじめての翻訳ミステリー読書会、『インフェルノ』読書会が開催されました。関連イベントとしておこなわれた、館内ツアー〈地獄へようこそ〉、越前敏弥氏による『インフェルノ』トークショーとあわせて、この日のもようを関西読書会世話人ズの5人がレポートいたします。

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(飯)古今東西の名画1000余点を原寸大で陶板に複製し、広大なスペースに一挙展示した世界にも類をみない美術館。一日がかりでも廻りきれないと聞き、早朝の高速バスで張り切って四国へ!

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(吉)順路に沿ってB3階から見学。一フロアだけでも一日いられそうな広さと充実ぶり。楽しい!

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(小)ポンペイの遺跡やら、古代のお墓、聖堂に礼拝堂、環境展示っていうそうですが、部屋ごと異空間に入り込んだようで、新鮮な体験でした。

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(浦)やはり午前中だけでは廻りきれず、もっとじっくり見たかった作品はたくさん。でもお腹の虫には勝てず、ボッティチェッリの「春(ラ・プリマヴェーラ)」をイメージしたパンケーキやモネの「ラ・ジャポネーズ」をイメージしたかき氷で腹ごしらえ。

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館内ツアー「地獄へようこそ…」

読書会に先駆けて『インフェルノ』のタイアップツアーとして開催されていたギャラリー・トーク「地獄へようこそ」に参加しました。残念ながら小説の鍵となるボッティチェッリの〈地獄の見取り図〉やダンテのデスマスクはなかったものの、大塚国際美術館が所有する膨大な数の陶板画の中から、『インフェルノ』やダンテの『神曲』にまつわる作品を詳しくわかりやすく紹介していただきました。

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(飯)お腹も大満足したところでギャラリー・トークへ! 館内に貼られた案内の邦画ホラー風フォントがやけにじわじわ来る感じで、朝から期待がつのりっぱなしでした。

(浦)大塚美術館の浅井さんの案内でスタートしたツアー。はじめは30人ぐらいだったのに、最後のほうは60人ぐらいの大所帯でしたね。

(影)広い美術館のあちこちに関連作品があって、上へ下へと大移動。昼食後の腹ごなしにはぴったりのツアーでした。

(小)いろんな行き方があって、そこも楽しかったです。ちょっと迷路を巡っているみたいで。

【順路1.ルネサンス ギャラリーA】

“そう、ここはフィレンツェ。あまたの美術館が数かぎりない旅行者を惹きつけ、ボッティチェルリの〈ヴィーナスの誕生〉やダ・ヴィンチの〈受胎告知〉、そして市民の大いなる誇りと喜び——〈ダヴィデ像〉——に感嘆の声をあげさせる街だ。”(第7章 上巻p.27)

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〈ヴィーナスの誕生〉ボッティチェッリ、サンドロ(※小説内表記はボッティチェルリ)「ウフィツィ美術館/フィレンツェ/イタリア」

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〈春(プリマヴェーラ)〉同じく、ボッティチェッリの代表作

“眼前の名画——〈地獄の見取り図〉——は、イタリア・ルネッサンスの巨匠サンドロ・ボッティチェルリの手によるものだ。地獄の精巧な青写真であり、それまで描かれていた死後の世界と比べると群を抜いて恐ろしい。現代の人々でさえ、この陰鬱で、残酷で、身の毛がよだつ絵画の前では足が止まる。力強く色彩豊かな〈春(プリマヴェーラ)〉や〈ヴィーナスの誕生〉などの作品と異なり、ボッティチェルリは赤やセピアや茶の重苦しい色調でこの作品を仕上げた。”(14章 上巻p.85)

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『インフェルノ』の鍵となる〈地獄の見取り図〉はパネルで紹介

(飯)実物もこのパネルとさほど変わらない、小さな絵なのだそう。(Wiki掲載の画像はこちら

【順路2.ルネサンス ギャラリーB】

“「ダンテ・アリギエーリ」ラングドンは切り出した。「このフィレンツェの作家にして哲学者は、一二六五年に生まれて一三二一年に没しました。ほかのほとんどの肖像画と同じく、この絵でもダンテは赤い帽子(カプッチョ)——頭にぴったり合った、耳あてつきの襞のある帽子——をかぶっています。これは深紅のルッカの長衣とともに、ダンテの象徴として最も多く描かれたものです」

(ダンテ協会の講演で、ラングドンはダンテの画像をいくつかスクリーンに映しながら説明している)

どの絵でもダンテは赤い帽子と赤い衣をつけて月桂冠をかぶり、顔には大きな鷲鼻がある。”(18章 上巻p.114)

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〈ダンテ・アリギエーリ(著名人連作より)〉アンドレーア・デル・カスターニョ「ウフィツィ美術館/フィレンツェ/イタリア」

“三人はスキアヴォーニ河岸の人波を縫うようにして岸沿いをサン・マルコ広場へ向かい、やがて外海に接する広場の南端に着いた。”(71章 下巻p.109)

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〈サン・マルコ広場の聖十字架遺物の行列〉ベッリーニ、ジェンティーレ「アカデミア美術館/ヴェネツィア/イタリア」

(小)この絵が描かれたルネサンスのころと、いまでもほとんど変わっていないと説明がありました。

【順路3.近代5】

“川か。ラングドンは不吉な予感をかすかに覚えた。ダンテのよく知られた地獄への旅もまた、川を渡るところからはじまっている。”(18章 上巻p.112)

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〈ダンテの小舟(地獄のダンテとウェルギリウス)〉ドラクロワ、ウジェーヌ「ルーヴル美術館/パリ/フランス」

(小)詩人ウェルギリウスに導かれ、地獄に向かおうとするダンテが川を渡ろうとするところ。赤い長衣に月桂冠をかぶっているのがダンテです。

【順路4.バロック グロッタ】

“ブオンタレンティの洞窟——設計者のベルナルド・ブオンタレンティにちなんでそう呼ばれている。フィレンツェじゅうを探しても、これほど風変わりな場所はおそらくないだろう。”(29章 上巻p.173)

ラングドンとシエナはピッティ宮殿にある洞窟に逃げ込む。ヨーロッパの庭園に造られる人工の洞窟は〈グロッタ〉と呼ばれる。ここ大塚美術館にもグロッタと呼ばれる洞窟がある。バロック時代に流行った不気味で恐ろしい絵を展示している。

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〈巨人族の没落〉ロマーノ、ジュリオ「パラッツオ・デル・テ/マントヴァ/イタリア」

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アルチンボルト、ジュゼッペ「ウィーン美術史美術館/ウィーン/オーストリア」〈水(四大元素)より〉〈火(四大元素)より〉〈冬(四季)より〉〈夏(四季)より〉

(吉)美しいものを見あきたイタリア貴族たちのあいだでグロテスクなものが流行したのだそう。

(影)恐ろしい絵を飾るのにふさわしい、不気味な雰囲気のある部屋でした。

(小)暗くてうまく展示作品が撮れなかったのが残念。

【順路5.ルネサンス システィーナ・ホール】(※小説内表記はシスティナ)

“ミケランジェロは〈地獄篇〉に触発されて〈最後の審判〉を描いたのです。もし信じられなければ、〈地獄篇〉の第三歌を読んでからシスティナ礼拝堂へ行ってみてください。祭壇のすぐうえに、みなさんよくご存じのこの部分が見えるでしょう。”(18章 上巻p.116)

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〈システィーナ礼拝堂天井画および壁画〉ミケランジェロ「システィーナ礼拝堂/ヴァティカン」

“「これは地獄の渡し守カロンが、もたつく死者を櫂で打っている場面です」”(同 p.117)

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“それからつぎの画像——〈最後の審判〉の別の部分——に切り替えた。男が磔にされている。「これはアガグ人ハマンで、聖書では絞首刑に処せられています。しかし、ダンテの詩では磔刑にされました。システィナ礼拝堂のこの絵を見ればわかるとおり、ミケランジェロは聖書ではなくダンテのほうを選びました」”(同 p.117)

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(飯)この壮大な天井画と壁画を描いたミケランジェロがすごいのはもちろんだけど、陶板ですべてを復元してしまったこの美術館もすごすぎますね。

(影)B4階でチケットを買ってエスカレーターでB3階に上がると、目の前にこのシスティーナ・ホールがあるという。素晴らしい演出です。

【順路6.スクロヴェーニ礼拝堂】

“ラングドンはうなずき、そのことばが口にされるのを聞いて寒気を覚えた。「七つの大罪をキリスト教徒にそらんじさせる目的で、中世にヴァチカンが考え出したラテン語だよ。?サリギア?というのは頭字語で、スペルビア、アワリティア、ルクスリア、インウィディア、グラ、イラ、アケディアの頭文字をそれぞれとっている」

シエナは眉をひそめて言った。「高慢、貪欲、邪淫、嫉妬、貪食、憤怒、怠惰」”(13章 上巻p.80)

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〈スクロヴェーニ礼拝堂壁画〉ジョット「スクロヴェーニ礼拝堂/パドヴァ/イタリア」 『神曲』に地獄に堕ちた高利貸しとして描かれたスクロヴェーニの息子が建てた礼拝堂の壁に、ジョットが七つの大罪と七つの徳の絵を向かい合わせにして描いた。

(影)これらの絵のタイトルはそれぞれ「絶望—希望」「嫉妬—慈愛」「不信心—信心」「不正—正義」「強欲—節制」「移り気—不屈の心」「愚かさ—健全」

(飯)七つの大罪、第1回の読書会『七人のおば』で出てきたことを思いだしました。

“「そう、カトリック教会はダンテに大いに感謝しなくてはいけません。〈地獄篇〉は何世紀にもわたって、敬虔な信者たちを震えあがらせてきました。恐怖に駆られて教会にかよう信者の数はまちがいなく三倍に増えたでしょう」”(18章 上巻p.117)

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(飯)右下方の地獄の部分、いかに残酷に描かれているかを数枚のクロースアップで。うう、痛そう。

【順路7.中世3】

“ラングドンがほんとうに見たいものは、そのすぐそばにある謎めいた宝——〈請願図(デイシス)〉のモザイク画——だと推測した。これは全能の支配者キリストを描いた古の絵画で、アヤソフィアにある最も神秘的な美術品のひとつと言ってよい。”(88章 下巻p.224)

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〈キリスト(デイシス)〉「ハギア(アヤ)・ソフィア大聖堂/イスタンブール/トルコ」

(浦)細部まで再現された美しい作品でした。

(影)他の作品もそうですが、はがれたところまで再現しているところがすごかったです。

by 関西読書会世話人ズ(飯干京子、浦野壽美子、影山みほ、小佐田愛子、吉井智津)

【中】につづく

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