お花見には少し残念な、雨模様のイースターサンデーとなった4月5日(日)に、第5回神戸読書会を開催いたしました。課題書はマット・ヘイグ『今日から地球人』。ある使命を帯びて地球に潜入した存在と、それに出会った人物が繰り広げる出来事という、神戸読書会初のSFテイストな作品です。

 参加者は全員で14名。大阪・神戸エリアの常連さんに加え、「学校の図書館に霜月蒼さんの『アガサ・クリスティー完全攻略』があったので、そこからネットでたどってシンジケートのサイトに行き着き、申し込みました!」という学生さんにもご参加いただけました。

 初めてSF作品を選んだので、参加のみなさんの反応を探るべく「SFを選んでみましたが、いかがでしたか?」「みなさん、SFまわりの作品はお読みになりますか?」というようなゆるやかな質問を投げかけて、読書会を始めようと思ったのですが、いきなり、

「主人公(の中の人)が地球になじんで、情にほだされるのがあまりに早すぎる」

「全裸からの展開がもったいない」

「ハインライン『人形つかい』っぽいのかも? と思って読み始めたんですけど……あれれ」

「第1部は面白かったけど、そこしか本気で読んでないような。あとはちゃちゃっと」

「なんだこの人情話展開は」

「敵役が弱すぎる、本気出してあれなのか」

「なぜ、“浮気はあかん”の知識だけ(都合よく)抜けているのか」

「しかもあの転職ってどうなんでしょう」

と、最初からツッコミの集中砲火が浴びせられます。いや、私にそんなこと言われても困ります! でも、私もそう思ったことばかりだから反論できません! しかも地球の未来を左右しかねないとされるあの予想も、

「それは、まあ、道具立てやねえ。だからどうということでもないし」

と軽くいなされて終了。私がこの本を書いたわけじゃないけど、ズタボロになって終わるの、今回も……と足元から砂が崩れていくように感じる瞬間もありました。まあ、逆に「あの式を正確に説明せよ」というリクエストがあっても辛いものではあったのですが。

 休憩時間を挟み、差し入れのお菓子を食べながら気分も和らいだところで、この作品のツッコミどころばかりではなく、作品全体の枠組みや雰囲気についても話は及びました。「(この題材なのに)アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞ノミネート作品」という点が話題になっている陰で目立たないのですが、実はこの作品には、詩人エミリー・ディキンソンの詩が作品の雰囲気を作り出す大きな要素として組み込まれています。そしてある意味、地球の運命を担うともいうべき重要な作品・作家として扱われているのです。英文学を修めた参加者のかたに解説をお願いしたところ、ディキンソンは、シェイクスピアやキーツ、テニスンを擁し、アメリカの詩人などは歯牙にもかけないイギリス人でも唯一認めざるをえないアメリカの詩人ということで、思いがけず英語の詩を楽しむ機会を得ることもでき、

「そういえば、ミステリーもそうだけど、英米文学って詩の引用が多いよね」

「学校でも暗唱のウェイトが大きいと聞くし」

「日本では何だろう? あえていえば『小倉百人一首』?」

としばし「なじみの詩」についてのディスカッションも行われ、愛ある指摘の目立ったなか、第2部以降を通読しての

「星新一っぽいかもしれない」

「実は読んでいて泣いてしまった」

「犬がかわいい」

という、課題書のチャーミングな側面への感想も聞くことができました。

 SFは一般的に「サイエンス・フィクション」の略ですが、最近よく耳にする「ストレンジ・フィクション」や「すこし・ふしぎ」を当てるほうがふさわしい小説だったのではないかと思います。それに、トータルで見てみると、すっとぼけた軽やかさの中に知的な小道具をしのばせた……というよりも、それが強固なベースになっている作品だとも思いました。また、読書会後には、「思春期の、親世代から宇宙人呼ばわりされる子供たちが読めば楽しめそう」という感想もいただきました。この読書会の直後に、若き日のディキンソンを主人公に据えたマイケラ・マッコール『誰でもない彼の秘密』が発売されており、今回の課題書とあわせて楽しむのも面白いかと思います。

 読書会後の懇親会もワイングラスがみるみる空になるなか、和やかに進みました。次回は真夏の開催予定です。みなさまのお越しをお待ちしております。

*お知らせ*

 関西(大阪+神戸)読書会がホストを務める6月20日(土)『ストーナー』読書会は、定員枠を拡大しました。

 まだ若干お席がありますので、参加ご希望の方は kanmys_dk2011@yahoo.co.jp にお申込みください。

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