あれから3週間……もう忘れちゃった方やこれから大阪ノンジャンル翻訳読書会へお越しいただく方々のために、地味~に第一回読書会の報告をいたします。まあ、早い話が、じわじわとノンジャンル翻訳読書会の知名度アップを目論んでいるのであります。
初めての読書会にもかかわらず、比較的早い段階で満席(24名)になり、嬉しい悲鳴! 当日はインフルエンザや体調不良による欠席者が出たものの、ゲストに翻訳者の秋元孝文氏をお迎えして総勢22名が熱く語りあいました。
課題書はこれ!
【本の内容】ミステリーや小説のようにあらすじなどなく、だけどこのエッセイ集にはたくさんの物語が詰まっている。イスラエル在住の作家エトガル・ケレット氏(以後は親しみを込めてケレットさんと呼ぶ)の息子レヴ君が誕生してから7歳になるまで、同時にケレットさんの大好きなお父さんが亡くなるまでの7年間に起こったことがユーモアたっぷりに書かれている。映画のような劇的な両親の出会いや、息子と幼稚園、ブックフェアでのエピソード、将来息子を徴兵させるかどうか、空襲警報の時の対処法、核爆弾が落ちたらゴミ屋敷になりかねないというエピソード等々、深刻な問題を含んでいるけれども、クスっと笑ってしまう。事実の重さに反して、語り口はいたって愉快。「ああ、生きるってこういうことなんだ」と、思い出させてくれる一冊です。
【どんな読書会だった?】エッセイの始まりは、息子が今にも生まれるという日に病院に向かうタクシーでのエピソードから。タクシーの運転手とどっちが不幸かを競い合うような会話がなんとも切ない。
また、生後2か月の息子を見て、「……世界が破滅しなければならないとしたら。息子の目の前にスイッチを置いてみたらよい。ためらわずスイッチを押すだろう」などという妄想を楽しむ心の余裕はいったいどこから湧いてくるのだろう? 困難をさりげなく楽しさに変えてしまうその力の源はきっと愛だ(と思う)。
さてさて、前置きはこのくらいにして、参加者の皆さんに楽しんでいただけたかどうかということが重要です。エッセイということもあり、感想や意見が出にくいかな? と一抹の不安もありましたが、皆さんしっかりケレットさんの世界に引き込まれ、話は尽きないようでした。中でも比較的ポイントが高かったのは、息子レヴのエピソードです。
例えば、「お偉いさん(Fat Cats)」では、レヴが幼稚園で食べることを禁止されているにもかかわらず、チョコレートを食べていて、しかも誰にも分けてあげないで独占します。父であるケレットさんがレヴに理由を訊くと、「ぼくはネコだもん」という返事が返って来ます。これには「かわいい」という意見が多かったのですが、皆さんなかなか大らかな感想で!
また「男の子は泣いちゃダメ(Boys Don’t Cry)」では、レヴが「パパは何故泣かないの」と訊くと、ケレットさんは子どもの頃に試した様々な方法を教えますが、結局「涙が溢れると人を叩いちゃうんだ」と告白します。するとレヴはすかさずこう言います「それって変だよ」「ぼくは気分のいい時に人を叩くよ」と。笑っちゃいますね。
レヴとのお話はたくさんありますが、全体を通してレヴの可愛さとしたたかさに感心したという人がたくさんいました。
お姉さんの信仰心、お兄さんとのエピソード、小説家になったきっかけ、お母さんの故郷ポーランドの話、お父さんとの想い出、息子の将来についての夫婦の会話などどれも引き込まれるものばかりで、たくさんの感想をいただきました。
特に、「父の足あと(In My Father’s Footsteps)」では、スーツケースが水浸しになった時に亡き父の形見でもある靴がケレットさんの足にピッタリだったことが胸に迫ったとか、最後の「パストラミ(Pastrami)」では空襲の時に親子でサンドイッチごっこをして身を護るシーンにジーンとさせられ、深い愛情を感じた、などなど。
個人的には、ケレットさんの「自分は天才ではなく普通の作家だから、普通の人に通じる言葉や方法で伝えることが出来る」という考え方が印象的で、それはとても大切なことなんじゃないかと思えました。
殆どの参加者がイスラエルという国のことや現状を知らなかったので、このエッセイは別の意味でも興味深かったようです。
【やがてフィナーレ】最後の30分はゲストで翻訳者の秋元孝文さんに、スライドや動画を使ってのミニ講演をしていただきました。読書会の直前までイスラエルを訪問されていたため、お話もかなりホットで、ケレットさんの逆立ち動画まで披露していただきました。ケレットさん、なかなかお茶目です。
皆さんはイスラエルの撮れたて映像や情報に見入ってました。
終盤は特に白熱教室さながら、秋元さんへの質問も飛び交っていました。ケレットさんはイスラエル人ですが、原作はヘブライ語ではなく英語で書かれています。政治的な理由ではなく、近しい人に読まれると恥ずかしいからではないかということでした。
そうそう、映画にして欲しいという意見もありました。ドキュメンタリータッチの映画になるのでしょうか? 観てみたい気がします。
読書会を終え、記念撮影をして閉会。2時間はあっという間でした。
ほとんどの参加者がスペイン料理店に流れ込み、乾杯!
最後に、記念すべき第1回めの読書会に参加いただいた皆様、イスラエルからの帰国後ジェットラグも癒えないまま読書会にお越しくださったゲストの秋元さん、初々しい学生さん達と共に参加くださった神戸市外国語大学の新野先生、そして色々とご協力くださった皆様に、心から感謝いたします。
次回は夏に相応しく犯罪絡みのノンフィクション作品を予定しています。
ご期待ください!!
大阪ノンジャンル翻訳読書会(世話人 西崎さとみ)