みなさんこんばんは。第19回のミステリアス・シネマ・クラブです。このコラムではいわゆる「探偵映画」「犯罪映画」だけではなく「秘密」や「謎」の要素があるすべての映画をミステリ(アスな)映画と位置付けてご案内しております。

 1年は早いもので、もう12月になりました。小説好き/映画好きの皆さまにおかれましては、そろそろ2018年のベスト10選びに頭を悩ませていらっしゃる頃でしょうか。とりあえず私はそうです(誰に頼まれているわけでもないのですが……)。ちなみに例年思うことなのですが、面白い作品には色々出会えている割に「ミステリ小説/映画」という枠で考えるとこのベスト10選びが結構難しい。ところが特に縛りを設けずにベストを選んでみると「あっ、これ実はミステリ要素があるな?」と気づくことも多いのが面白い。やはり私はどこか「秘密」や「謎」の要素がある作品が好きなのだなあ、と再確認する機会にもなっていたりします。皆さんはどんな作品を今年のお気に入りに挙げられるのでしょうか。ちなみに今のところ私の今年のベスト1映画は劇場未公開の『デンジャラス・プリズン―牢獄の処刑人―』、ベスト1ドラマは『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』(これらの作品については来年改めてこの連載でも取り上げたいと思っています)なのですが、今年中にさらに好みの作品に出会う可能性があるので、12月31日 までは保留かな……とギリギリまで引っ張ってから選出予定です(本当に誰に頼まれているわけでもないのですが……こういうことに妙に真面目に取り組んでしまうのがオタクのサガ……)。

 さて、クリスマス商戦まっさかりのホリデーモード(年末進行でそれどころじゃないという声も聞こえてきますが……皆さまお疲れ様です)。昨年の12月にはクリスマスを舞台にした物騒な監禁サスペンス『P2』をご紹介しましたが、今年もやはりクリスマスにゆかりのある作品を。またまた物騒な「最悪のクリスマス」もの、監禁サスペンスにして優れたホラー・コメディであるクリス・ペッコーバー監督の『ベター・ウォッチ・アウト:クリスマスの侵略者』をご紹介しましょう。ソフトは発売されていないため現在はNetflixだけで見られる作品です。

■『ベター・ウォッチ・アウト:クリスマスの侵略者』BETTER WATCH OUT)[2017.豪+米]

(https://www.netflix.com/title/80191638)

■BETTER WATCH OUT Official Trailer (2017) Thriller ■
(予告編はとても面白くてよい出来なのですが、人によっては多少ネタバレと思われる要素があるため、まっさらな状態で見たい方は予告編を見ずに本編をご覧になることをおすすめします)

あらすじ:クリスマスの夜、アシュリーはいつものように12歳のルークの家へとベビーシッターに向かう。ルークの両親が留守の間、映画を見ながら一緒に遊んで、夜になったら遅くならないうちに眠らせる、それはいつもと同じ夜になるはずだった。一方、ルークはかねてからアシュリーに思いを寄せており、年齢差なんて大した問題じゃないさと友達のギャレットにうそぶいている。彼は今夜こそその「決定的な一夜」にしようと心に決めていたのだ。そんなお互いの気持ちは知らず、いつものように夜は始まった……のだが、家に何者かが侵入。状況は一変し……そして、さらに一変し……さらに……えっ?

 主人公のアシュリー役にはオリヴィア・デヨング、ルーク(リーヴァイ・ミラー)の友達ギャレット役にはエド・オクセンボウルド。M・ナイト・シャマランの『ヴィジット』で田舎のおじいちゃんおばあちゃんの家を訪ねたら大変なことになってしまう姉弟を演じたふたり(今回は姉弟役ではないのですが)が再共演、そして彼らはまたまた大変なことになってしまう! 今度はクリスマス事変だ! というわけで「ホームアローン血まみれRemix」とでも呼びたくなるような、テキパキとした丁寧な意地悪さと律儀に捻りをきかせた伏線回収に唸らされる、作り手の娯楽策士ぶりがなんとも頼もしい一品です。
 
「ありがちな要素」を使いながら、ありがちじゃない方向へ誘導し、クリスマスの一夜の大騒ぎをせっせせっせと進行させる手際の良さが素晴らしく、あまりにもあまりな展開の数々には噴き出してしまいました。ルークを演じるリーヴァイ・ミラーの聡明に整った風貌と少年らしい声も役柄にぴったり!序盤からの「ちょっとした違和感」の作り方や人物設定の巧妙さ、陽気で歪なクリスマスの意匠(ダサクリスマスセーター!)やスモールタウンを巡る聖歌隊の歌声の悪意あふれる使い方と観客を飽きさせないアイデアが盛りだくさん!
 
 憧れのベビーシッターお姉さんと二人きり、今夜の僕は一味違うんだ……という話から早々にネタを割ってしまってからの(ネタバレ厳禁の話とはいえ、この大ネタが序盤で予想がついていたとしてもそこからが本番なので特に問題ないのではないかと思います)密室の手詰まりバリエーション、想像の斜め上に酷い展開に強引に引っ張っていく緊張と緩和の呼吸がお見事の一言。途中までは〈ホラー的あるあるシチュエーション〉が連発されるのですが、そこに抱く観客の感情にひとつひとつ「わかってるよー!」と返答していくような展開が楽しいことこのうえありません。背後! 背後! って思う場面ではちゃんと人物が後ろを見る様子が挿入され、あっ、これが伏線で反撃に使われるのね、と思っていたらその芽をどうでもいいところでサクサクと摘み取ってしまう容赦なさ!「こどものこどもらしさ」の使い方もなかなかにえげつなくて怖面白く、少年ルーク君と友達のギャレット君と憧れのアシュリーおねえさんのほぼ3人の室内劇として展開するドラマのゴール地点の作り方、他愛無い会話のなかに大オチの伏線になる要素がちゃんと入っている真面目さにも大笑いしてしまいました。

 私はもともとホラー映画が結構好きなのですが、怖い話が好きというよりも「定型」がある程度決まっているぶんそれをどうやってツイストするか、そのツイストをどうやって成立させるのかに真剣な作品に出会えることがこのジャンルの魅力のひとつだと考えています。今作の場合は「ジャンルの定石」を大きくずらすことそのものよりも、「ずらしたあとでどう展開を詰めていくか」ということについての真面目な態度がホラー・コメディとしてゴキゲンなものになっている最大の理由ではないかと思いました。しかも90分以下というタイトな編集! 娯楽映画かくあるべしという潔さで妙に勢いのある話なので、気になる方は是非気軽にご覧になってみてくださいませ。
 


■よろしければ、こちらも/『リトルデビル』

(https://www.netflix.com/title/80139506)

 やたらと律儀に伏線を回収して回るホラー・コメディといえば『リトルデビル』も楽しい映画でした(こちらもNetflixで配信中)。新婚のゲイリーは悩んでいた、美しい妻サマンサの連れ子ルーカスが彼にまったく懐かないことに、そしてどうやら邪悪な力を持っているらしいことに……という「悪魔の子」ネタなのですが、これがなんともチャーミング。どちらかというと異常現象要素を使ったファミリー・コメディでくだらないといえば相当くだらない話で倫理観も微妙に変な映画なのですが、一方で今昔のホラー作品への目配せが嬉しく、「トウモロコシ畑で良いことが起きたことあったか?」なんて台詞のとぼけたユーモアや唐突に始まるシャイニングごっこも実に可愛らしいのです。
 あの子は異様な事態を引き起こしているのかもしれない、うちの子が怖い……という物語は近年特に女性が受ける社会的抑圧とも重ねられた「おかあさんつらい系ホラー」として強いジャンルですが(この連載でも以前ご紹介した『ババドック 暗闇の魔物』のほかにも 『アンダー・ザ・シャドウ』 『グッドナイト・マミー』 『少年は残酷な弓を射る』等ちょっと考えただけでも色々と思い浮かびます。多くの場合が父親不在だったり存在感薄かったりという家庭なんですよね)、この映画では珍しく「血のつながらないお父さん」が主人公。とんでもない状況になっても大真面目に頑張る様子はなんとも愛おしく、似たような状況にある義父さんたちのセッションで「こどもマジで容赦ねえよ……あいつら何するか本当にわからん……」「これまで一緒にいた時間が長くないし、距離感が難しいんだよな……」と正直にボヤきあうシチュエーションがいかにも現代のアメリカ映画らしい。こういう「義父の子育て参加」という題材がホラー・コメディの一要素に扱えるというのもなかなか素敵なことなのではないでしょうか。監督は『タッカーとデイル 史上最悪についてない奴ら』もなかなか面白かったイーライ・クレイグ。この人にはこの種のライトなホラー・コメディをバンバン撮ってほしいものです。
 
 今年最後のミステリアス・シネマ・クラブ、それでは今宵はこのあたりで。また来年、次回のミステリアス・シネマ・クラブでお会いしましょう。来年も皆さんとミステリアス・シネマとの良き出会いがありますように!

今野芙実(こんの ふみ)
 webマガジン「花園Magazine」編集スタッフ&ライター。2017年4月から東京を離れ、鹿児島で観たり聴いたり読んだり書いたりしています。映画と小説と日々の暮らしについてつぶやくのが好きなインターネットの人。
 twitterアカウントは vertigo(@vertigonote)です。



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