『静かなる天使の叫び』

R・J・エロリー/佐々田雅子訳

集英社文庫/上下各・本体705円

 よみごたえたっぷりの小説だ。前半は田舎で展開する少年小説である。少女たちを守るために学校の仲間と自警団ガーディアンズを結成する挿話を始め、きらきら光る場面にあふれていて、読み始めるとやめられなくなる。これだけでも十分だ。なにが起きてもぼくはきみを守ると十二歳のエレナに宣言する場面は感動的と言ってもいい。

 もちろんこれだけではなく、後半は作家を目指して都会に出てくる青春小説だ。ネタばらしになりかねないので、ここから先の展開は書かない。主人公ジョゼフの運命は翻弄され、予想もつかない地点まで読者を案内するのである。

 主人公はジョゼフ・カルヴィン・ヴォーン。彼が十一歳の夏から始まり、四十歳の春までの長い物語で、前半の少年小説と後半の青春小説を繋ぐのは、連続少女惨殺事件だ。これは英国推理作家協会賞の候補になったミステリーなのだが、ミステリーとしてはやや強引かもしれない。しかしその詩情、豊かなドラマ性、秀逸な人物造形、筆致の冴え−−すべてが素晴らしい。ミステリーの読者よりは小説好きの読者にこそ、おすすめしたい。

 少年小説であり、家族小説であり、年上女性との愛を描く小説であり、作家をめざす青年の成長小説であり、窮地に追いやられた人間が絶望から立ち上がるまでの小説である。 ジョゼフの波瀾に満ちた半生を、たっぷりと堪能していただきたい。

(初出:日刊ゲンダイ)

 北上次郎

※第1回翻訳ミステリー大賞1次予選順位

第1位 

第2位 

第3位 

第3位 

第3位 

第6位 

第7位