世界を熱狂させた25歳の天才、デビュー

21世紀ミステリ界に、颯爽たるヒーローがついに登場

イギリス推理作家協会賞受賞作

のみならず なんと

第2回出版社対抗ビブリオバトル堂々のチャンプ本!

犯罪の痕跡を消し、犯人の足取りを消し、自分自身も消す

それが私の仕事だ。ひとは私を“ゴーストマン”と呼ぶ……

本書のあらすじ&読みどころについては、文藝春秋・永嶋俊一郎氏によるこちらの記事をぜひお読みください。

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作者公式サイト http://www.rogerhobbs.com/

日向 郁(以下 日向):『ゴーストマン』ですが、まずは第一章冒頭でヤラれました。キリリとタイトで端正な文章。田口さんの日本語訳も素晴らしいし、原文もカッコいい(特に最終章ラスト1行が最高!)。1990年代のローレンス・ブロックアンドリュー・ヴァクスの愛読者だった自分としては、文章だけでグっときてしまいます。もちろんプロットもいい。プロの犯罪者がそれぞれ「何か」を企んでるけど、最終的な狙いが読めないところがじれったくて、じれったくて。登場する事件がどちらも大規模なだけに、謀略小説っぽい楽しみもアリ。

大谷 耀(以下 大谷):クライムノベルはもちろんのことクライムムービーも愛好する人間としては、この本の凄さは作者がベストムービーに挙げる『ヒート』を監督したマイケル・マン作品の手触りが小説にも関わらず濃厚なこと。過去編は『ヒート』に通じる銃撃戦、『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』に通じる金庫破りがあり、現代編は『コラテラル』に通じる緊張感がある。そして、同様に作者がベストとして挙げるニコラス・ウィンディング・レフン監督『ドライヴ』冒頭のクールでドライな空気感と、プロフェッショナルならではの説得力も担保されている。これを映画の影響を強く受けた若い作者が小説の形で表現してみせたことに、とても感銘を受けました。シーンのひとつひとつが映画的にキマっています。上記作品が好きな人には、無条件で薦められると思います。

 ただ、最大のポイントはそういう「○○を彷彿させる」という点ではないんですよね。

日向:まずね、色恋が出てこないところが最高! これはイチオシポイントです。この小説、誰の恋人も出てこないでしょう? 恋人、出てこないですよね? ちょっと勘違いされるけど、違うし。

大谷:完全な勘違い。その上、一回あるセックスに関する言及も、「失敗だった」の一言で。

日向:しかも「失敗だった」って女に言われてる(笑)。エロいことしたのかどうか、ちょっと気になるシーンはあるけれど。

大谷:「翌朝はもう仕事に出かけた」とあっさり(笑)。そういう色恋に対する執着のなさって、この手の孤独な犯罪者にありがちな、「馴染みの娼婦」がいないってことにも現れてる。

日向:馴染みの娼婦も、主人公に片思いする女も、母親的役割の女も、まったく登場しないものね。このテの小説にあった「お約束」的エロシーンがない。悪しき伝統がブチ切られてるのが最高!

大谷:女性の外見に対しても、ただ事実を言うだけで性的な目線がない。そして、都合のいい恋愛も排除。

日向:そうなの! そうなんですよ。そこは著者も大事にしてるポイントなのです。

大谷:そういうものを作者が自覚的に不要だと思ってるんですよね。

日向:著者インタビューを読むと、かなり自覚的にやってますね。

 多くのアメリカ産ミステリが、異様なほど古いジェンダー・ポリティックスの問題を抱えています。多くのアメリカ産スリラーでの女性の役割は、刑事か死体のどちらかです。

 そして物語でどんな役割を果たしていようが、女性キャラクターは肉体的な外見でのみ測られる。『ゴーストマン 時限紙幣』をそういう小説にはしたくなかったのです。さまざまなジェンダーや文化的背景を持つキャラクターを、できるだけ多彩でリアルに登場させたかった。

 犯罪者はありとあらゆる体型や体格をしています。彼らを定義するのは何をやるかということであって、外見ではないのです。

 もし、ある女性が宇宙科学者なり警察官であったなら、彼女が美人かどうかは関係ないはずでしょう。彼女の性別や外見は二次的なものです。小説の登場人物も、じっさいの人間と同じく、何をやるかによって測られるべきであって、どこで生まれたかとかどんなふうに見えるかで測られるべきではないでしょう。

■編集部注:上記の作者インタビューをベースにした『ゴーストマン 時限紙幣』の紹介記事が9月4日に文藝春秋社サイトにて公開予定です。またこの作者インタビューの完全版は「エキレビ!」に近日掲載予定です。

日向:このインタビューを読んで最初に思ったのは「この著者はポリティカルコレクトネスを浴びて育った世代」なんだなあってことです。彼のこういう考え方が、非常によく表れてる小説ですよね。大がかりな犯罪小説なんだけど、いい意味で健全というか。

大谷:女性に対するフェアネスと、プロフェッショナルであることがイコールですよね。

日向:そう。登場人物における人種のバリエーションも豊富なんですよね。白人ばかりじゃない。主な女性キャラも白人2人にアジア系1人。

大谷:男も女も関係なく人種バランスも均等なとこで、結果的に犯罪を描くという目的が軽やかになってる。余計な縛りから解き放たれて。

日向:まさしくコレですよね。

 小説の登場人物も、じっさいの人間と同じく、何をやるかによって測られるべきであって、どこで生まれたかとかどんなふうに見えるかで測られるべきではないでしょう。

大谷:そうなんです! 結果的に作中の登場人物の大半は性別入れ替えて描くことが可能かもしれない。

日向:たぶん可能ですよね。

大谷:現実的ではないけど、プロである限り存在は許される。この作品世界の中では。

日向:余計な登場人物がいないんですよね。お色気担当とか。癒し担当とか。

大谷:プロとして動けない女性キャラはいないし、色仕掛けだけを求められてる女性キャラもいない。そもそも主人公からして恋愛から遠い。

日向:趣味だって古典の翻訳だし(笑)。食や酒に対する執着も薄いですよね。

大谷:いわゆる定番ですよね。趣味や酒や食に対するこだわりって。

日向:車や銃に対するこだわりも、あくまでも「道具」ってスタンスだし。

大谷:フェティッシュに耽溺する感じはまったくない。あくまで犯罪を描くための道具ですね。

日向:車もちゃんと理由があって選ばれてますよね。ミアータとかシビックとか。

大谷:唯一こだわりアイテムとして出てきた車は、過去に組んだホイールマン(運転手)のフォードのマスタング・シェルビー500GTで、それも燃やしてしまうし、そのこだわりもくだらないことになってる。

日向:過去の犯罪といえば。主人公が原因で計画が頓挫したこと、それが彼の足枷になってるということは序盤から明らかにされてる。でも読者には「何があったのか」が伏せられてて。失敗の理由はもちろん、同時に「どうやって成功させる予定だったのか」に興味を引かれるんですよね。黒幕であるマークスが立てた計画がまた大胆不敵でカッコいい! あの計画をコケさせたら、そりゃ恨まれるわ。

大谷:こんな計画がなぜ失敗するの? という興味と、全容が明らかになった時の驚き!

日向:ほんと、過去の犯罪の書き方も丁寧で。

大谷:その辺りの読者の興味をもたせようという手際が老獪です。あと、描かれる犯罪もディテールが非常に細かい。騙すことから殺すことまでとにかく犯罪を描くシーンにはいちいちリアリティがある。現実は分からないけど、作品内リアリティの水準が高い

日向:うん。わたしも誰かにナツメグ食べさせたい!

大谷:それだけはやめましょう(笑)。

日向:その辺のディテールをキッチリ書くと、余計なエロシーン入れなくてもいいのだと(笑)。

大谷:犯罪に関するディテールを積み上げることに対する熱意の前では、そんなシーンなんて邪魔でしかない! という確信ですね。

日向:色恋がメインテーマの小説ならいいのよ、エロシーン入れても。でも犯罪小説には不要。だって関係ないから。

大谷:物語に必要性のある男女関係もあるけど、この物語にはまったく必要性はない。でも、入れてしまうのがお約束。

日向:以前の小説なら、ぜったいにFBI捜査官とヤってるね。

大谷:出会ってすぐにちょっとお互い意識しちゃって。すぐにベッドイン。

日向:でもってアツい一夜を過ごしてるはず。そもそもプロの犯罪者であることと性技に長けてることに関連性はないのにね(ジェイソン・マシューズ『レッド・スパロー』みたいなのは別)。なのに、絶対にテクニシャン(笑)。

大谷:そんなものは本来必要ないはず。多分作者も、そういうのが馬鹿馬鹿しかったんだと思うんですよね。人口に膾炙されてる類型を破りたかった感じが。

日向:犯罪もセックスも両方ウマいとかおかしいし、そう描写する必要もないじゃないかって。

大谷:「そういうのってもういいんじゃね? 犯罪だけやろうぜ! プロなんだし!」という若い人からの叫びみたいなものを感じますね。

日向:「オッサンの妄想なんかいらねえよ! 非モテのルサンチマンもいらねえよ! クールな小説を書いてやる!」みたいな叫びですよね。

大谷:そのモチベーションから生み出されたのが、ナルシシズムもセンチメンタリズムもなく、本当にクールなものだったという感動は味わって欲しいです。

日向:まさしく。だからこそ薦めなくちゃ!

大谷 耀(おおたに あき)

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ボンクラな小説・映画・漫画が日々の糧。主食は人が殺されるか、犯罪が起きるか、銃声が聞こえるようなお話。

Twitterアカウントは @myarusu

日向 郁(ひなた かおる)

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“Anything that is not straight.”

翻訳ミステリとロマンスとスポーツ(NFL, NPB, NHL, CFL, RR)を愛するライター。ジゴロな愛犬に振り回される毎日です。

Twitterアカウントは @hina_shella

★おまけ:『ゴーストマン 時限紙幣』担当編集者によるサウンドトラック★
(文藝春秋・永嶋俊一郎 @Schunag)

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 この小説、オーセンティックでスタンダードな枠組みに、現代のエッジと涼やかさを組み込んだ作品だと思っています。甘さはなくクールで、ときおり暴力は出現するけれどもブルータルにはならない。ということで、本になった『ゴーストマン』を読み直すときに糖度低めのジャズ系の曲を選んで合わせてみたところなかなか快調で、ご参考までにプレイリストをこちらに挙げてみました。

 では皆様、よき読書を。

#凡例:“曲名” 『アルバム題名』

■オープニング

“Incident on South Street”, The Lounge Lizards(『THE LOUNGE LIZARDS』)

■カジノ襲撃開始

“Figure Eights”, Buddy Rich & Max Roach(『RICH VERSUS ROACH』)

■ゴーストマン登場

“Hot Rod”, The Five Corners Quintet(『HOT CORNER』)

■以下本編用、順不同

“Boom Boom”, Atomic(『THE BIKINI TAPES』)

“Trading Eights”, The Five Corners Quintet(『CHASIN’THE JAZZ GONE BY』)

“Money Jungle”, Duke Ellington(『MONEY JUNGLE』)

“プレイガールBGM”, 大友良英(『山下毅雄を斬る』)

“七人の刑事 PLOT-2” 大友良英(『山下毅雄を斬る』)

“構造I 現代呪術の構造”, Date Course Pentagon Royal Garden(『構造と力』)

『’FOUR’ & MORE』『MILES IN BERLIN』『MILES IN TOKYO』『MILES DAVIS AT THE PLUGGED NICKEL』『COOKIN’ AT THE PLUGGED NICKEL』Miles Davis,

『THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED』『DUB ORBITS』菊地成孔ダブ・セクステット

『JAZZMATAZZ, VOL.II: THE NEW REALITY』Guru

『JAZZ FOR MORE: EL DORADO』Compilation

■59章からラストへ

“Dismissing Lounge from the Limbo”, 菊地成孔ダブ・セクステット(『DUB ORBITS』)

“Loungin’”, Guru(『JAZZMATAZZ』)

“Black Byrd”, Donald Byrd(『BLACK BYRD』)



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