今回は、アイゼイア・クインタービー(通称IQ)を主人公としたシリーズを書いているジョー・イデの作品を取り上げます。
 Joe Ideという名前を見て「ジョー・アイドと読むのか?」などと考えてしまいましたが、著者はカルフォルニア州サンタモニカ在住の日系アメリカ人。『IQ』(Mulholland Books)で2016年にデビューして、2017年に続編の『Righteous』(同)が出たばかりです。

『IQ』の舞台は2013年、ロサンジェルス近郊に位置するロングビーチで、アイゼイアはたまたま困っていた知人の手助けをしたことから噂が広がり、さまざまな依頼が舞い込むこととなった、という変わった経歴の持ち主。
 探偵として登録もしておらず報酬は手作りの料理でも可、という長閑な仕事ぶりだったが、ある時まとまった金が必要となる。そのために高校時代の知人、ドッドソンから紹介された仕事を引き受ける。
 依頼人は、スランプに陥ってしまったラッパーのカルヴィン・ライト。アルバムの発売日が迫っているにもかかわらず、自宅で巨大な犬に襲われたために「命を狙われている」と言い出して豪邸から一歩も出ようとしなくなっていた。
 防犯カメラにはライトを襲った犬に加えて指示を出していた男の姿まで写っており、犬の異常な体格に注目したアイゼイアはブリーダーからの情報収集を始める。
 この作品では奇数章でライトの事件、そして偶数章では成績優秀な高校生だったアイゼイアの2005年の物語が語られるという凝った構成になっている。アイゼイアはある事件がきっかけで高校を中退することになるが、そんな彼がどのような人生を辿って現在に至ったのかということが徐々に明らかになっていく。
 著者はシャーロック・ホームズの大ファンとのことだが、そのことはアイゼイアが冷静に周囲の状況を観察し、的確な判断を下す様子に反映されている。また彼が高校中退後に様々な職業を経験しながらそれらが現在の仕事に活かされているという設定も面白い。
 二つの物語が交互に語られるために最初は少し読みにくく感じるものの、過去の出来事が現在と結びついていく展開がデビュー作と思えないほど巧みで、ともすれば2005年の方が主題なのでは、と思うほど迫力がある。
 アンソニー賞(新人賞)を受賞し、エドガー賞(処女長編賞)とバリー賞(新人賞)の候補に挙がったことも納得できる出来栄えである。

 二作目の『Righteous』では、アイゼイアは兄、マーカスの恋人だったサリータからの依頼を受けてラスヴェガスへ向かう。
 サリータの妹、ジャニーンは重度のギャンブル依存症で、恋人のボビーとともに高利貸しに怯える日々を送っていた。切羽詰まった二人は、コンサルタントであるジャニーンの父、ケンの顧客データを盗み出して個人情報を利用することで負債を返済しようと企む。
 しかし盗み出したデータは犯罪組織と関わりのあるもので、二人は逃亡を余儀なくされる。
 間もなく子供が生まれるドッドソンを説得して同行させたものの、ベニーとケンは組織に捕えられ、ロサンジェルスに避難させたジャニーンにも敵の手が迫る。追い詰められたアイゼイアは、危険を承知でベニーたちの救出に向かう。
 二作目では奇数章でラスヴェガスの事件、偶数章ではアイゼイアの人生を大きく変えてしまった2005年の事件の犯人探しが語られる。
 基本的な構成はデビュー作と一緒だが、アイゼイアとヒスパニック系のギャングとの小競り合い、決して仲がいいとは言えないドッドソンとアイゼイアの関係に微妙な変化が現れる過程も併せて描かれる盛り沢山な内容で、いくつもの伏線で読者を惹きつけて終盤でたたみかける技量にも磨きがかかっている。
 終盤では宿敵ともいえる存在が現れ、またアイゼイア自身にもささやかな変化が訪れる。いやがうえにも次作への期待が高まり、これからがますます楽しみなシリーズとなっている。

寳村信二(たからむら しんじ)

20世紀生半ばの生まれ。今年は『ベイビー・ドライバー』(監督:エドガー・ライト)、『アトミック・ブロンド』(監督:デヴィッド・リーチ)、『女神の見えざる手』(監督:ジョン・マッデン)と『ZIP!』(日本テレビ)で紹介された映画を三つ観たが、いずれも傑作揃いだった。

●AmazonJPで寶村信二さんの訳書をさがす●

【原書レビュー】え、こんな作品が未訳なの!? バックナンバー一覧