今回は、『救出』(熊谷千寿訳、扶桑社)の著者、スティーヴン・コンコリーによる軍事SF中編、The Centurion Code(2014年)を取り上げます。
 こちらはTales from the Starship Discovery: A Collection of Science Fiction Stories(2024年)と題された作品集に収められた作品です。

 地球の植民地化を目論む異星人が突如襲来、高い致死率の伝染病を蔓延させると同時に、実業家のダミアン・グレイが率いるNEO(新地球秩序)の軍事部隊の協力を得て南半球の主要国家を数か月で制圧してしまう。
 その勢いを駆ってヨーロッパ大陸へ侵攻したNEO軍に対し、まだ独立を保てている国家群はNATO加盟国を中核としてイージス保護領を結成する。
 人間と見分けがつかない、高い戦闘能力を誇る異星人兵士で構成されたNEO機甲部隊はイージスのピレネー山脈防衛戦を突破して、防衛システムのサーバーハブが置かれているリヨンに向けて進軍を続けていた。
 イージス軍最高司令官のローレンス・ニコルズ将軍は、神経センサーを利用して兵士の能力を飛躍的に強化する〈センチュリオン・コード〉の開発を急がせていたが、そのシステムには重大な欠陥があることが明らかになっていた。
 しかしニコルズはリヨン防衛のため、敢えて〈センチュリオン〉の使用に踏み切り、NEO機甲部隊との戦いに勝利を収める。
 今回の侵略部隊は第1波で、地球の資源を簒奪するための部隊が第2波として設備と共に数か月以内にも到着する、という情報を得ていたニコルズは、NEOに更なる打撃を与えて侵略行為自体を頓挫させるべく、〈ハングマン〉(絞首刑執行人)と名付けた作戦を発動させる。
 NEO軍に潜入させておいた特殊部隊隊員――暗号名〈バンシー〉――を通した誤情報で主力部隊をおびき出す〈ハングマン〉と、ヨーロッパを手中に収めるべくNEOが仕掛ける侵攻作戦〈ヴァルキリー〉が正面からぶつかるが……

 物語は南アフリカに展開しているNEO軍の一員としてHAHO(高高度降下高高度開傘)を用いた潜入訓練に参加している〈バンシー〉――デヴォン・クレイン少佐――が、パラシュート降下中に地上7,000メートルから極秘裏にニコルズへ連絡を入れる場面から幕を開ける。
 この時点では、背景となる状況の説明は一切なく、読者はクレインとニコルズの会話の意味も充分には理解できない。
 その後、クレインがニコルズを通して米国にいる家族に自分の無事を伝え(第二章)、ドイツのラムシュタイン空軍基地に置かれたイージス軍司令部の様子が詳しく描かれる(第三章)と、現在に至るまでの経緯が――リヨンへ軍を進めるNEOとの戦闘状況も含めて――徐々に明らかになっていく。
 第四章からは自ら前線でNEO軍を指揮するグレイ、欠陥を承知で〈センチュリオン〉に頼らざるを得ないニコルズ、そして暗躍するクレイン、更には最前線に立つ兵士たちの視点が章毎に目まぐるしく入れ替わり、物語の展開が加速する。
 異星人の侵略というテーマではあるものの、相手は映画『インデペンデス・デイ』(1996年、ローランド・エメリッヒ監督)のように巨大宇宙船で攻めてくるのではなく、先ず戦闘員の部隊を送り込み、しかも人間の協力を得て地球征服に乗り出す、という設定が斬新だ。
 真っ先に異星人側へ寝返ったグレイは、勝利の暁には自発的にNEOへ参加した者を優遇すると煽って軍人や技術者を取り込み、人類は更に劣勢に立たされることとなる。
 物語は短くまとめられた21の章とエピローグから成っており、歯切れの良い文体のおかげもあって一気に結末へとなだれ込む。
 元海兵隊の著者が描く迫真の戦闘場面もさることながら、最後まで予測のつかない、グレイとニコルズの息詰まる頭脳戦も読み応え充分で、アクション好きの読者には楽しめる作品に仕上がっている。
 
◇作品リスト◇
 デヴィン・グレイ(監視の専門家)を主人公とするシリーズ:
  Deep Sleep(2022年)
  Coming Dawn(2022年)
  Wide Awake(2023年)
 
 ギャレット・マン(FBI捜査官)を主人公とするシリーズ:
  A Clean Kill(2024年)
  A Hired Kill(2025年)
  A True Kill(2026年) 

寳村信二(たからむら しんじ)

 遅ればせながら『機動戦士 Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』を劇場で鑑賞。予備知識が全くない状態で観られたので、大いに楽しめた。

●AmazonJPで寳村信二さんの訳書をさがす●

【原書レビュー】え、こんな作品が未訳なの!? バックナンバー一覧