全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは! まさかの10連休、いかがお過ごしでしょうか。ご旅行中の方や通常通りにお仕事中の方などいろいろだと思いますが、筆者はといえば、映画『アベンジャーズ エンドゲーム』でとうとう最愛のシリーズが終わってしまった喪失感にぼーっとしています。<それでも『インフィニティ・ウォー』観終わって貧血起こした時よりはマシかも。そこで今回は、読みながら「これ、『キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー』だよね! そうだよね!」と勝手に興奮した作品、ダニエル・ジャドスン『緊急工作員』(真崎義博訳/ハヤカワ文庫NV)をご紹介します。


 主人公は元海軍機動建設大隊所属、イランやアフガニスタンに従軍したトム・セクストン33歳。成人してからずっと軍人として生きてきましたが、8年間の軍役が終わるとあっさり除隊し、今はニュー・ヘイヴンの機械工場で毎日判を押したような生活をしています。そんな彼の生きがいとなっているのは、年上の恋人ステラ。トムは除隊後にピックアップトラックで国内を放浪中、ふらりと立ち寄ったダイナーでウェイトレスをしていた彼女と知り合いました。不況で過疎化が進む町でも生き生きと働く彼女の姿に目をひかれ、その土地にとどまってデートを重ねるうちに、トムはステラと一緒に住み始めます。

 そんなある日、ステラとのメールのためだけに持っていたトムの携帯に、見知らぬ番号から着信がありました。普通の人なら間違い電話として気にも留めないであろうこの電話は、一瞬にしてトムを過去に引き戻します。実は彼は軍隊時代、すぐれた能力を買われて特殊訓練を受け、ジェイムズ・キャリントンが率いる偵察部隊で数々の危険な任務を成功させたのです。トムが軍を去ったのと同じ頃に退役したキャリントンは、その後民間の警備会社を設立してかつての部下たちを雇っていたのですが、トムはある理由から、条件の良い彼の申し出を断っていました。ですがかつての上官は、どうしてもトムに連絡を取りたい時、最悪の場合キャリントンが窮地に陥ってトムの助けが必要な時に、特殊な連絡方法でコンタクトを取るという約束を交わしていたのです。それは、ある特定の電話番号から暗号を送り、それを解くカギはトムのキンドルの中の読みあさった数千冊の本のデータに隠されているというものでした。しかし今回の着信は、それとは異なる番号から発信され、なおかつその後の手順も違っていました。トムは不審に思いつつも、ステラの安全を確保した上で指示された場所に向かうのですが……。

 キャリントンから下された任務は、かつてトムの命を救った戦友チャーリー・カヒルを探し出して救出すること。彼はなぜ行方をくらましているのか、誰から、そしてなぜ狙われているのか。静かな生活から突然戦場に連れ戻されたトム。カヒルを見つけたそのあとには、一体何が待っているのでしょうか。
 
 ちょっとジャック・リーチャーを思い出させるような主人公トムは、危険な暗殺集団の度重なる攻撃により満身創痍となりますが、愛するステラを守るため命をかけて戦います。しかし本書では、主人公が最も傷つくのは身体ではありません。それは――

“おれが信頼できると言いきれるのは、キャリントンしかいない”

 ――というセリフからもわかるように、トムにとってキャリントンは誰よりも大切な人だったのです。そんな彼の頼みであり、なおかつ自分の命の恩人の救出作戦を断れるはずもなく、トムはきなくさい陰謀に巻き込まれていくのですが、作戦が進むにつれ、だんだん彼への不信感が募っていく一方で、信じたい気持ちも捨てられないという葛藤に苦しみます。一方のキャリントンは、後半でトムに対してこんな言葉を投げるのです。

“おまえをこの件に関わらせたくはなかったんだ、トム。(中略)だが私からの救援要請とあれば、どんなに怪しいと思っても応えるだろうということにも気づくべきだったな”

 なんという老獪な言い草(そんなに年じゃないんだけど)! そしてやっとのことで再会したカヒルからは、かつてのすぐれたリーダー性は全く感じられず、あまりに秘密めいていて、挙句にはこんなセリフでトムを翻弄するんですよ!

“おれは気のふれた殺人者で、きみを迷宮へ誘い込もうとしているのかもしれない”
“あるいは、おれたちはいまこの時点において数少ない、信頼し合える同志なのかもしれない”

 ……迷宮ってなに!? 死にそうな目にあってまで助けに来た旧友が、冷血で謎だらけの別人のようになっていて、おまけに信頼していた元上官の行動が明らかに怪しい。しかも自分のせいでステラの命まで狙われることになり絶望的な状況に陥ったトムを助けてくれるのが、英国特殊空挺部隊(SAS)出身のハマートン。スキンヘッドで顔に傷のある強面の彼がトムとの間に信頼関係を築き上げていくくだりは要チェックです。


 作者ジャドスンは、デビュー作 The Poisoned Rose でシェイマス賞最優秀ペイパーバック賞を受賞したという実力の持ち主。本書が初邦訳作品となりますが、次から次へと繰り広げられるアクションシーンは映画を観ているような臨場感に溢れています。特に銃撃戦においては、銃の使い方や防御の方法などに関するうんちくが盛り沢山なので、映画やドラマを観るときに役に立つかもしれません。寡黙なヒーローが立ち向かう恐るべき陰謀と卑劣な罠。最後に信じられるのは一体誰なのか。現代のアメリカが抱える多くの問題も盛り込んだ骨太のアクション小説です。


 トムは凄腕の軍人だった過去を隠して工場勤めをしていましたが、「人は見かけによらない」という設定はいつでも魅力的ですよね。ところで、死者が極楽に行って生まれ変わるために冥界で裁きを受ける物語と聞くと、なにか真面目でありがたいお説教的なものを想像するかと思いますが、今回ご紹介する韓国映画『神と共に』シリーズは全然そんなんじゃないんです! 本国で記録的な大ヒットをしたこの映画のキャッチフレーズは、なんと“冥界エンターテインメント”



『第一章:罪と罰』では、救助活動中に死んだ消防士(チャ・テヒョン)が三途の川を渡り、七つの地獄の王たちによって生前の行いを裁かれます。ここで驚くのが、なんと各死者に専属の弁護士(ハ・ジョンウ)とその助手(キム・ヒャンギ)、そして危険な道中の護衛(チュ・ジフン)が付くのです! 殺人や怠惰などの大罪について裁判が行われるたびに、弁護士たちは死者=被告人の無罪を勝ち取るため、過去を調査し、巧みな弁論で王たちに挑みます。消防士は多くの人を救助した善人なので各裁判も楽勝と思いきや、実は彼には隠された裏の人生があったのでした……。



 第一章はまさかの展開が続く驚愕の法廷ミステリ。続く『第二章:因と縁』は前編を上回る予想外の物語と、第一章で示された謎が全部解き明かされて見事なフィニッシュ! おまけにマ・ドンソクが神様役で出演! 実はこの第二章と『緊急工作員』に共通点があるのですが、ネタばらしを避けるためにそこは秘密で。それにしても両方の章とも鑑賞中に驚きのあまり何度も「ええっ!?」と声を出してしまいそうになりました。原作は人気漫画家チュ・ホミンのウェブコミック。そうそう、『新しき世界』のイ・ジョンジェ演ずる閻魔大王は、今までの閻魔大王のイメージを覆すようなモード系で見逃せません。奇想天外な設定と法廷ものの面白さ、そして手に汗握る豪快なアクションに、伏線がすべて回収されるカタルシスが味わえるという、壮大で濃厚な娯楽スペクタクル大作。二作合わせて五時間、どっぷりと浸ってください。


『神と共に 第一章:罪と罰』


■『神と共に 第一章:罪と罰』■
CREDIT
LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS present
REALIES PICTURES & DEXTER STUDIOS production

CAST
Ha Jung-woo / Cha Tae-hyun / Ju Ji-hoon / Kim Hyang-gi / Lee Jung-jae / Doh Kyung-soo (D.O.)
ハ・ジョンウ/チャ・テヒョン/チュ・ジフン/キム・ヒャンギ/イ・ジョンジェ/ド・ギョンス(D.O.)

STAFF
Executive producers : CHA Won-chun, KIM Yong-hwa / Producers : WON Doung-yeon, KIM Ho-sung / Writer & Director : KIM Yong-hwa
Cinematography : KIM Byung-seo / Lighting : SHIN Kyung-man / Editing : KIM Jino, KIM Hye-jin / Production Design : LEE Mok-won
VFX Supervisor : JIN Jong-hyun / Music : Bang Jun-suk / Sound : CHOI Tae-young
エグゼクティヴプロデューサー: チャ・ウォンチュン、キム・ヨンファ
プロデューサー: ウォン・ドンヨン、キム・ホソン
脚本&監督: キム・ヨンファ
撮影: キム・ビョンソ
照明: シン・ギョンマン
編集: キム・ジノ、キム・ヘジン
プロダクションデザイン: イ・モグォン
VFXスーパーバイザー: ジン・ジョンヒョン
音楽: バン・ジュンソク
サウンド: チェ・テヨン

2017年/韓国/カラー/140分/シネスコ/5.1ch/日本語字幕:根本理恵

■『神と共に 第二章:因と縁』■
CREDIT
LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS present
REALIES PICTURES & DEXTER STUDIOS production

CAST
HA Jung-woo / JU Ji-hoon / KIM Hyang-gi / Don LEE / KIM Dong-wook / LEE Jung-jae / Doh Kyung-soo (D.O.)
ハ・ジョンウ/チュ・ジフン/キム・ヒャンギ/マ・ドンソク/キム・ドンウク/イ・ジョンジェ/ド・ギョンス(D.O.)

STAFF
Executive producers : CHA Won-chun, KIM Yong-hwa / Producers : WON Doung-yeon / Writer & Director : KIM Yong-hwa
Cinematography : KIM Byung-seo / Lighting : SHIN Kyung-man / Editing : KIM Jino, KIM Hye-jin / Production Design : LEE Mok-won
VFX Supervisor : JIN Jong-hyun / Music : Bang Jun-suk / Sound : CHOI Tae-young
エグゼクティヴプロデューサー: チャ・ウォンチュン、キム・ヨンファ
プロデューサー: ウォン・ドンヨン
脚本&監督: キム・ヨンファ
撮影: キム・ビョンソ
照明: シン・ギョンマン
編集: キム・ジノ、キム・ヘジン
プロダクションデザイン: イ・モグォン
VFXスーパーバイザー: ジン・ジョンヒョン
音楽: バン・ジュンソク
サウンド: チェ・テヨン

2018年/韓国/カラー/141分/シネスコ/5.1ch/日本語字幕:根本理恵

▼公開表記▼
『神と共に 第一章:罪と罰』5/24(金)
『神と共に 第二章:因と縁』6/28(金)
 新宿ピカデリーほか全国ロードショー

© 2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.
公式サイトhttp://kamitotomoni.com/

   

♪akira
  「本の雑誌」新刊めったくたガイドで翻訳ミステリーの欄を2年間担当。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、月刊誌「映画秘宝」、ガジェット通信の映画レビュー等執筆しています。サンドラ・ブラウン『赤い衝動』(林啓江訳/集英社文庫)で、初の文庫解説を担当しました。
 Twitterアカウントは @suttokobucho







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