全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは! 2021年最初の連載は、超ベテランの最新シリーズをご紹介します。ジェフリー・アーチャー『レンブラントをとり返せ ロンドン警視庁美術骨董捜査班』(戸田裕之訳/新潮文庫)です。
主人公の名前はウィリアム・ウォーウィック。そう聞いて、おお!と思われたかたは、著者の大河小説〈クリフトン年代記〉をご存じですね。日本では一作目の『時のみぞ知る』が2013年に刊行され、2017年に出た七作目『永遠に残るは』で幕を閉じました。その長さに恐れをなした自分は今もって未読なのですが(すみません!)、今回とりあげる『レンブラントをとり返せ』は、〈クリフトン年代記〉の登場人物ハリー・クリフトンが書いてベストセラーになった連作小説の主人公ウィリアムが、警察官となって手がけた事件の数々を描くシリーズ第一作目になります。
物語の始まりは1979年。一流の法廷弁護士サー・ジュリアンは、息子のウィリアムが母校のオックスフォード大学に進み、ゆくゆくは自分の後を継いで弁護士になってくれるものと信じていました。しかしウィリアムはこともあろうに警察官になるというのです。サー・ジュリアンの弁護で数多くの大物犯罪者が自由になり、その報酬で自分が何不自由なく生活しているということは、正義感の強いウィリアムにとって受け入れがたい事実です。そこで母マージョリーの提案により、ウィリアムはとりあえず自分の選んだ大学で好きな学科を学び、そのあとで人生を決めることになりました。結果、ロンドン大学で美術史を専攻し、欧州で芸術鑑賞にあけくれたのち、帰国した彼は警察学校に入学します。
大学出で、しかも著名な弁護士を父に持つことを隠し、実力で素晴らしい成績を勝ち取ったウィリアムに、地域のパトロール警官として新しい日々が始まりました。コンビを組んだのは、引退間近のベテラン巡査フレッド。生まれも育ちも年齢も全く違う二人が交わす会話とエピソードはどれもあたたかみがあり、新米のウィリアムは本当にいい師匠につけてよかったなあと思わずにはいられません。
ランベス署で地道に勤めあげたウィリアムは、ある悲劇を経て、ついに念願のスコットランドヤードで働くことになります。所属は美術骨董捜査班。高価な美術品の窃盗や贋作の他にも、所有権の確認や詐欺など、特殊な事件が次々に舞い込みます。そんな中、捜査班が抱える最大の難問は、7年前のレンブラントの盗難事件でした。
それら事件の興味深い捜査過程や真相解明のカタルシスは言うまでもないのですが、登場する人物の誰もが生き生きと描かれており(峰不二子っぽいマダムも出てきたり)、ときにはケイパーもの映画のような展開もある楽しい作品です。『百万ドルをとり返せ!』が好きな方ならきっと気に入るのではないでしょうか。なおかつ本書は青年ウィリアムの成長物語としても大変面白く読めますし、ところどころに出てくる80年代の描写は、当時の風俗を知っているひとには懐かしいのでは。
さて、前述のフレッドとウィリアムはバディというよりも先生と生徒という感じで、実は要チェックなのは後半登場するイタリア憲兵警察の中尉、アントニオです! ネタばらしになっちゃうので詳しくは書けませんが、まあこの人のキャラは、多分アーチャー先生の思うイタリア人なんだろうなあという感じです(笑)。そうそう、自分は総務課のメイヴィスというキャラがお気に入りです。スウェーデン警察にもこんなプロ(?)がいれば、『見習い警官殺し』のベックストレームに経費を悪用されずに済むのにと思いました(笑)。
訳者あとがきにもあるように、去年の秋には本書の続編が刊行されましたが、なにがすごいって、著者のHPを見てみたら、なんとすでに四作目までタイトルを発表してるんですよ! しかも三作目まではもうあらすじまで披露しちゃっているという……。今年81歳になるっていうのに、さすが大物は違うなあとひたすら感心。まずは続編の邦訳が待たれます!
本書のウィリアムは父親の跡を継ぎませんでしたが、映画界では二世俳優が大勢活躍しています。ジェームズ・カーンの息子、スコット・カーン(『Hawaii Five-O』)や、デニス・クエイドとメグ・ライアンの息子、ジャック・クエイド(『THE BOYS』)、イーサン・ホークとウマ・サーマンの娘、エマ・ホーク(『ストレンジャー・シングス 未知の世界』)など、キャリアをしっかり築いていて頼もしいばかりです。そこで今回は、ティム・ロビンスとスーザン・サランドンの息子、マイルズ・ロビンスと、アーノルド・シュワルツェネッガーの息子、パトリック・シュワルツェネッガーという二世俳優二人が主演のサイコスリラー『ダニエル』をご紹介します。
幼いルークは両親の離婚で辛い日々を送っていましたが、そんな彼を救ってくれたのは想像上の友だちダニエルでした。しかしある日ショッキングな事件が起こり、ルークはダニエルを封印してしまいます。内気な性格のまま大学生になったルーク(マイルズ・ロビンス)は、学校でも家でもストレスがたまってしまい、カウンセラーの助言で、封印したダニエル(パトリック・シュワルツェネッガー)を解き放つことにしました。現われたダニエルは、マイルズの理想そのものでした。再び親友を得たマイルズは、ダニエルの助言でものごとがうまくいくようになり、少しずつ自分に自信を持ちはじめるのですが……。
マイルズはこの映画でシッチェス・カタロニア映画祭の男優賞を取りましたが、パトリックの方もすごい熱演ですよ。ぜひオフの写真とか探してみてください。本作のあの耽美ぶりとまったく正反対で、俳優ってすごいなあとあらためて思いました(笑)。これからの活躍が期待される若手二人の競演、お楽しみください。
■映画『ダニエル』予告編【2021年2月5日(金)公開】
製作:イライジャ・ウッド
監督・脚本:アダム・エジプト・モーティマー
キャスト:マイルズ・ロビンス、パトリック・シュワルツェネッガー
配給:フラッグ
公式サイト:danielmovie.jp
公式Twitter:@danielmoviejp
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「本の雑誌」2021年1月号から連載コラム「本、ときどき映画」が始まりました。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、月刊誌「映画秘宝」、ガジェット通信の映画レビュー等執筆しています。トニ・ヒル『ガラスの虎たち』(村岡直子訳/小学館文庫)の解説を担当しました。 Twitterアカウントは @suttokobucho 。 |