全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
まずは先日の東北地方を中心とした地震の被害にあわれた方に、心よりお見舞いを申し上げます。今回は偶然にも自然災害を扱う作品になってしまったので、もしまだ不安を抱えておられたり、話題にしたくないと思われる方は、どうぞ読まずにスルーなさっていただければと思います。
先日の地震が十年前の余震だと知り、あらためて自然の恐ろしさに震え上がりました。今回ご紹介するピーター・ヘラー『燃える川』(上野元美訳/ハヤカワ文庫)は、ゆったりとカヌーの旅を楽しんでいた若者二人が、突然、猛威をふるう山火事と見えない殺人者によって命の危機にさらされるサスペンスです。
ジャックとウィンはニューハンプシャーのダートマス大学に通う親友同士。バイト代をため、二人でカナダ北東部へカヌー旅行に出ます。食料や装備をじゅうぶん用意した一方で、時間を忘れてゆったりと大自然を満喫するために、衛星電話や携帯電話などは持ってきませんでした。体調も問題なく、天候もまずまずで旅は順調に進んでいきましたが、ある日かすかに漂う煙の臭いに気づきます。
山火事の不安を抱きつつも、釣りや野生のベリー摘みなど楽しんでいた二人。しかしカヌーで移動中、岸の方から声を荒げて言い争う男女の声が聞こえてきたのです。なんとなく嫌な感じがしたものの、その男女にも山火事を知らせようとしたことで、ジャックとウィンに恐ろしい運命が待ち構えるのです。
本書は野生の生き物の力強さや大自然の驚異がどのページにも生き生きと描かれ、まるでその場にいるような臨場感が味わえます。一方、自然の猛威に直面した時の人間の無力さ、よるべなさ、焦燥感などを二人の青年がどのように受け止め、立ち向かっていくのかも読みどころとなっています。
二人にどんな困難が襲いかかるかはぜひ本書を読んでいただくとして、ここでは彼らの人となりを簡単に紹介しておきます。178センチでタフなジャックは大学で工学を専攻。目の前で母親を事故でなくすという辛い過去を背負っています。いっぽうのウィンは、193センチの長身。繊細で優しい性格の持ち主で、文学を専攻。フランス文学に傾倒しています。ジャックは高校時代からの彼女と別れ、ウィンはセレブの彼女とのつきあいに無理を感じ、そのことが原因で大学に入ってからは誰ともデートをしていません。そんな二人が出会ったのは、新入生のオリエンテーション旅行。好きな本について存分に語り合える相手と出会ったのは、二人とも初めてでした。それからというもの、二人は「キャプテン」「ビッグ」と呼び合い、大学の中でも外でも互いを信頼できるすばらしい友人となりました。本書では息つく暇がないほど次々に危険が襲いかかりますが、そんな中、彼らのなんでもない会話が本当に自然で、しみじみとほっとするんですよ~。
最後に、この小説で最も心に残ったのは、悲劇の後で人はその事実とどう向き合うのかが描かれているところです。ラストの描写は静かに胸に迫ります。情感あふれるとてもいい作品だと思いますので、気になった方はぜひ。
さて、『燃える川』では山火事と激流と殺人者などが脅威となりましたが、2/26(金)公開の映画『リーサル・ストーム』は、超巨大ハリケーン、凶悪なサイコパス殺人鬼、武装したならず者たちのみならず、話を聞かない大迷惑老人や、あっと驚くまさかの生物兵器(?)まで、ありとあらゆる災難が主人公たちを襲います。
舞台はプエルトリコの首都サンフアン。警官コルディーロ(エミール・ハーシュ)は、危険な自宅に閉じこもっている市民を避難所に移すため、微罪で捕まった男グリフィンを乗せ、新しい相棒のジェスと二人で大嵐の街に出ます。グリフィンの頼みで彼のアパートに寄ると、そこにはかつて警察署長だったレイ(メル・ギブソン)が、かたくなに部屋に居座っていました。娘のトロイ(ケイト・ボスワース)は透析が必要なレイをなんとかして病院に連れていこうとしますが、レイは全く聞く耳を持ちません。残った住民は誰もが何か秘密を持っている様子。嵐が強まる中、狂暴な犯罪者たちがお宝を探しにアパートにやってきます。
ハリケーンも凄いんですが、元警察署長がとにかく頑固な上に、「女性警官の言うことは聞かない」とか平気で言い放つんですよ! “老害”とかよく言われますが、そういう発言をする奴はもともと若い頃からそんな感じで、ろくでもない言動は年取ったせいじゃないと思うんですよねえ…。それはさておき、冒頭のスーパーでのいざこざとか、襲撃犯たちの狙いとか、メルギブが避難しない理由とか、いろんな出来事が最後には全部収束するてんこもりの100分。『リーサル・ウェポン』のリッグスの34年後の姿だと思って観るとなかなか感慨深いものがありますよ~。
■全部、蹴散らせ!『リーサル・ストーム』予告映像
▼特報
2021年2月26日 新宿バルト9ほか 全国ロードショー
■コピーライト
© 2020 by Force of Nature Film, LLC, and FON Film Production, LLC
監督:マイケル・ポーリッシュ『庭から昇ったロケット雲』
脚本:コーリー・ミラー
出演:メル・ギブソン『リーサル・ウェポン』『ブルータル・ジャスティス』、エミール・ハーシュ『イントゥ・ザ・ワイルド』、ケイト・ボスワース『アリスのままで』、デヴィッド・ザヤス『エクスペンダブルズ』
2020年/アメリカ/英語/カラー/シネマスコープ/5.1ch/100分
原題:FORCE OF NATURE
字幕翻訳:田中武人
レイティング:G
配給:クロックワークス
♪akira |
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「本の雑誌」2021年1月号から連載コラム「本、ときどき映画」が始まりました。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、月刊誌「映画秘宝」、ガジェット通信の映画レビュー等執筆しています。トニ・ヒル『ガラスの虎たち』(村岡直子訳/小学館文庫)の解説を担当しました。 Twitterアカウントは @suttokobucho 。 |