2019年4月14日(日)、大田区産業プラザPiOにおいておこなわれた第10回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションの企画のひとつとして、「出版社対抗イチ推し本バトル」が今年も開催されました。

 その模様を出場者でもある東京創元社の宮澤がお伝えします。

 今年2019年で7回目となるこの企画は、海外翻訳出版社の担当編集者がイチ推しの自社刊行作品をおすすめするプレゼン大会です。一部ルールが異なりますが、いわゆるビブリオバトルのようなものだとお考えください。
 
 今回のルールは以下のとおり。一昨年からの共通ルールです。

・プレゼンの持ち時間はひとり3分
・質疑応答はなし
・観客はいちばん読みたくなったプレゼン1つだけに挙手

 出場者は、翻訳ミステリを刊行している6つの出版社からひとりずつ6名。発表の順番はジャンケンで決まりました(敬称略)。

 ハーパーコリンズ・ジャパン 小野寺志穂
 小学館 皆川裕子
 早川書房 堀川夢
 集英社 佐藤香
 東京創元社 宮澤正之
 文藝春秋 永嶋俊一郎→杉江松恋(エキシビション)

 文春の永嶋氏は当日欠席のため、ピンチヒッターで杉江松恋氏が登壇。代理なので投票の対象にはならず、エキシビション扱いで最後におこなうこととなりました。

 全員がステージ脇に並んだ椅子に座り、準備がととのったところでひとりずつ壇上でプレゼンを始めます。何度やっても出番を待つあいだは緊張しますね。

1冊め『ザ・ボーダー(仮)』ドン・ウィンズロウ 田口俊樹・訳
ハーパーコリンズ・ジャパン 小野寺志穂

2019ハーパーコリンズ・ジャパンのイチ推し本
2019ハーパーコリンズ・ジャパンの隠し玉

 トップバッターのハーパーコリンズ小野寺さんが持ってきたのは、ドン・ウィンズロウの最新作。著者の説明は不要ですね。作品の魅力を端的に知ってもらうため「冒頭の朗読」という手段を取ります。『犬の力』『ザ・カルテル』に続く三部作の完結編となる大作ということで、力のこもった書き出しでした。

2冊め『1793』ニコラス・ナット・オ・ターグ/ヘレンハルメ美穂訳
小学館 皆川裕子

2019 小学館のイチ推し本
2019 小学館の隠し玉

 主役の男性ふたりの関係性がとにかくいい!――と、キャラクターに重点を置いたプレゼン。18世紀末のスウェーデン・ストックホルムを舞台にした歴史ミステリですが、当時は不治の病だった結核に冒されたインテリ法律家と、戦場帰りの隻腕の荒くれ者がタッグを組んで事件に挑む姿が「いい」のだそうで、お好きなかたにはぜひ読んでいただきたいと思います。

3冊め『ロング・ウェイ・ダウン(仮)』ジェイソン・レナルズ/青木千鶴訳
早川書房 堀川夢

2019 早川書房のイチ推し本
2019 早川書房の隠し玉

「殺された兄の復讐に向かう弟」というシンプルなシチュエーションを、ポエトリー(詩)の形式を取ったり、タイポグラフィを駆使してみたりと、多種多彩な凝った記述で語っていく作品だそうで、プレゼンを聞き、資料に載った原書のページを見るだに、編集するの大変そう……と思ってしまいました。自分はあとの集計の際、この作品に一票投じました。

4冊め『国語教師』ユーディト・W・タシュラー/浅井晶子訳
集英社 佐藤香

2019 集英社のイチ推し本
2019 集英社の隠し玉

 国語教師と作家、男女それぞれが語る「物語」が、やがて十数年前の児童行方不明事件につながっていく……という、一筋縄ではいかない作品だそうです。ドイツ発の文芸ミステリということですと、フォン・シーラッハやベルンハルト・シュリンクを連想しますが、それらとはまた違った作風のようですね。

5冊め『ロイスと歌うパン種』ロビン・スローン/島村浩子訳
東京創元社 宮澤正之

2019 東京創元社のイチ推し本
2019 東京創元社の隠し玉

 自分以外すべて女性、ビジュアル面での不利はいなめないと、弊社の公式キャラクター「くらり」のぬいぐるみと登壇。かわいさでは負けていなかったと思います。ヒロインのパン作りを中心に次々不思議なできごとが起きる小説で、ミステリではありませんがきっと気に入っていただけるはず。読むと無性にパンが食べたくなるのでご注意ください。

6冊め『イヴリン嬢は七回殺される』スチュアート・タートン/三角和代訳
文藝春秋 永嶋俊一郎→杉江松恋(エキシビション)

2019 文藝春秋のイチ推し本
2019 文藝春秋の隠し玉

 急遽ピンチヒッターとして登壇した杉江さん。当然、配布資料に書いてある以上の情報を持っていないわけで、勢いと話術のパワープレイで乗り切りました。英国のカントリーハウスで起こる殺人に、人格転移というネタを組み合わせた作品で、日本の新本格にあってもおかしくないような内容。

 こうしてすべてのプレゼンが終わり、観客の挙手タイムになります(得票数は例年どおり事務局メンバーが数えます)。集計の結果、今回の勝者は……

20140923091320.pngジェイソン・レナルズ『ロング・ウェイ・ダウン(仮)』を紹介した早川書房・堀川夢氏!!

 優勝者である早川書房の堀川さんには事務局より賞状が送られ、大きな拍手とともに企画は無事終了となりました。紹介された6冊の中には、すでに発売中のものもあれば、これから刊行されるものもあります。気になった作品は積極的にチェックしていただけるとさいわいです。

■おまけ■


 第十回を迎えた今回の翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションでも名物企画「七福神でふりかえる・翻訳ミステリーこの一年」がおこなわれました。
 当サイトでおなじみの書評七福神のうち北上次郎氏と吉野仁氏が登壇、当シンジケート事務局の一員でもある川出正樹、杉江松恋(司会)とともに、例年どおりときには真剣に、ときには軽妙洒脱に、ときには暴走しつつ、一年間の翻訳ミステリー・シーンをふりかえりました。

 以下は当日配布された書評七福神の年間セレクトの一覧表PDFです。既読・未読のチェックに、購入本リスト作成のおともにご活用ください。
20140423120552.png第十回大会「七福神パネル」資料

 さらに第四回大会から今年の第十回大会まで計七回おこなわれた七福神パネルの会場配布資料をまとめたPDFもご用意しました。こちらもご活用ください。
20140423120552.png第四回~第十回大会「七福神パネル」資料

(事務局)   

●第一回大賞受賞作


●第二回大賞受賞作

●第三回大賞受賞作

●第四回大賞受賞作

●第五回大賞受賞作

●第六回大賞受賞作

●第七回大賞受賞作

第八回大賞受賞作

第九回大賞受賞作

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