全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは! あの待ちに待ったシリーズの続編が出ましたよ、やったー! というわけで今回は、『容疑者』『約束』に続く第三弾、ロバート・クレイス『指名手配』(高橋恭美子訳/創元推理文庫)をご紹介します。


 ロサンゼルスで私立探偵を営むエルヴィス・コールの今回の依頼人は、法律事務所で業務部長をしているシングルマザー。最近息子のタイソンが分不相応な高級品を持っていることに気がつき、なにか犯罪に巻き込まれていないか調査してほしいと頼んできたのです。早速彼の部屋を調べてみると、高級な服飾品に多額の現金が隠されていました。その品物に窃盗の被害届が出ていたことがわかり、コールは警察から逮捕状が出る前にタイソンに自首させて刑を軽くさせようとしたのですが、動揺したタイソンは行方をくらましてしまいます。ずっと引きこもりで孤独に過ごしてきたタイソンにやっと出来た友人は、なんと共犯者でもあったのです。父親に捨てられるという悲しい過去を持った少年を、コールはなんとかして救おうと探し回りますが、タイソンと共犯の友人を追っているのはコールと母親だけではなかったのです。

 『容疑者』では戦場で傷ついた巡査と警察犬の心温まるストーリーに胸が熱くなり、『約束』では爆破事件の犯人として疑われたコールを救うための鮮やかなチームプレイに手に汗握りましたが、本書は私立探偵小説の原点に立ち戻るかのような人探しの物語を存分に楽しめます。この人に聞いたらあの人が浮上し、ここを訪ねたらあそこに誘導され……と多くの情報から真偽を見極めながら失踪した未成年を探すという地道な捜査には助っ人は不要と思ったのも束の間、素性のわからない不気味な二人組がタイソンの命を狙っていることが判明。犯人逮捕に動き出した警察を出し抜き、さらに凶悪な暗殺者よりも早くタイソンを見つけなければならなくなったコールは、ついに“いつでもどこでもパイク”を召喚! あうんの呼吸の頼れる相棒とともに命がけで事件解決に挑みます。

 じゃあ今回の萌えカップリングはコール&パイクなのか? と思うでしょ? ところが本書で最も要チェックなのは、なんと二人組の殺し屋、ハーヴェイとステムズなんです! 

 パイクいわく“両方でかい、片方はばかでかい”。若い女性に言わせると、“どっちも三十代。まあまあかっこいい、でもおっかない。どっちも大柄で、がっしりしてて、毎日身体を鍛えてる感じ、髪は短い”という二人組には、いい会話がたくさんあるのですよ。たとえば――

ハーヴェイ「なんで途中でとめてくれなかったのかってことだよ、おれが言いたいのは。どう考えても食いすぎた」
ステムズ「とめる間もなくがつがつ食ってたくせに」

 このあと二人はちょっと言い合いをするのですが――

ステムズ「そんな険のある言い方をしなくてもいいだろう」
ハーヴェイ「腹具合のせいだ。ごめん」

 ……って、冷酷な殺し屋にしては妙に素直。やることはかなり残酷なこの二人、ある点では意外にもちゃんとした倫理観を持っているのです。二人が許せない対象は違うのですが、相手がおかしい、不快だと思ったらはっきり言うし、そのどこが悪いのかもきちんと説明する。これってかなり信頼関係がないとできないやりとりだと思うのですが、それらのエピソードを覚えておくと、最後の方で「ああそうだったのか!(やっぱり)」という場面がばっちり出てきますので、どうぞご期待ください! 訳者あとがきにあるように、私もぜひこの二人のスピンオフが読みたいものです。そうそう、もちろんコールとパイクにも大変嬉しい場面がありますので、どうか楽しみに最後まで読んでくださいね! 

 それにしてもほんとコールっていい奴ですよね。依頼人の母親の気持ちも考慮した上で、逃走する少年には厳しくも温かい視線を忘れない。このシリーズが毎回ベストセラーになる理由は、ストーリーの面白さもさることながら、コールというキャラクターに再会したい読者が多いからではないでしょうか。そして相変わらずコールの作るお料理の数々はどれもこれも美味しそうで、しかも簡単。本書に出てくる茄子のグリルを作ってみましたがとてもおいしかったです! 料理好きな方はぜひ一度試してみてはいかがでしょう。


 さて、まだ5月だというのに北海道でも記録的な暑さが更新されました。せめて気分だけでも涼しくなりたいという方にうってつけな一作、6月7日(金)公開の面白犯罪映画『スノー・ロワイヤル』をご紹介します。



 あたり一面雪で覆い尽くされるコロラド州キーホー。町民が安全に移動できるように毎日まじめに仕事をし、模範市民賞まで受賞した除雪作業員ネルズ・コックスマン(リーアム・ニーソン)を、ある日突然不幸が襲います。一人息子が麻薬の過剰摂取で死んでしまったのです。警察は事故と決めつけますが、ネルズは息子がヤク中だと信じられず夫婦の仲も気まずくなり、絶望した彼の前に残酷な真相が明らかに。息子を殺した麻薬組織に復讐を誓ったネルズは、単身戦いを挑みます。



 監督は『特捜部Q Pからのメッセージ』のハンス・ペテル・モランド。この作品、2014年のノルウェー映画『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』をモランド監督本人がリメイクしたものなのです。オリジナルではステラン・スカルスガルド(『ドラゴン・タトゥーの女』)が主役を演じていました。リメイク版を観る前にそっちを観たところ、これがもう未体験の斬新なテイストの映画で、人が大量に死ぬにもかかわらずなんともいえない可笑しみがあるという、不思議な魅力にあふれた犯罪映画でした。今回のリメイクは見事なまでにオリジナルを細部にわたってほぼそのまんま作り直しているのですが(犯罪組織の設定がセルビア人からネイティブ・アメリカンに変わったのは大きな変更ですが、なぜか主人公の名前のみわざわざディックマンからコックスマンに変えたというこだわりは一体……)、舞台が北欧から北米に移っただけでも結構雰囲気が変わるものだなと感心しました。  



 次から次へと続く超展開にポカーンとなりながらも、いつのまにかハマっている自分に気がつくはず。そういえばジョー・ネスボ『その雪と血を』や続編の『真夜中の太陽』も、哀愁の中にもふっと可笑しさが見え隠れするような不思議な魅力のあるノワールでした。これはノルウェーならではのユーモアセンスなのか気になるところです。あと忘れてはならないのは、この映画、重機というか大型特殊車両が大活躍するんですよ! 除雪車のパワーがすごい迫力で、これだけずっと見ていてもいいぐらい楽しいです。ちなみにリーアム・ニーソンはかつてギネス社に勤めていた時にフォークリフトやトラックの運転手をしていて、今回かなり喜んで操縦していたそうですよ! 


 この連載では何かしら共通点のあるミステリと新作映画をご紹介しているわけですが、このあらすじを読むかぎりその要素がわからないですよねえ。でも実はこの2作品、すっごく大事な共通点があるんですよ!! ただしそれは映画の結末につながるかなり重要な要素なので、何なのかはここでは書けないんです……。ぜひ劇場で確認してみてくださいね!

怒りの除雪車、発進!映画『スノー・ロワイヤル』予告編

怒りの除雪車発進!映画『スノー・ロワイヤル』30秒予告編


作品タイトル:スノー・ロワイヤル
公開表記:6月7日(金)全国ロードショー
配給:KADOKAWA
コピーライト:© 2019 STUDIOCANAL SAS ALL RIGHTS RESERVED.

監督:ハンス・ペテル・モランド(『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』)
出演:リーアム・ニーソン、ローラ・ダーン、トム・ベイトマン、エミー・ロッサム、ジュリア・ジョーンズ、ウィリアム・フォーサイス
原案:『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』 原題:Cold Pursuit
2019年/アメリカ映画/シネスコ/119分/PG12

公式サイトhttps://snowroyale.jp/

   

♪akira
  「本の雑誌」新刊めったくたガイドで翻訳ミステリーの欄を2年間担当。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、月刊誌「映画秘宝」、ガジェット通信の映画レビュー等執筆しています。サンドラ・ブラウン『赤い衝動』(林啓江訳/集英社文庫)で、初の文庫解説を担当しました。
 Twitterアカウントは @suttokobucho







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