5月18日(土)に第4回弘前読書会を開催いたしました。 世話人の本木さんに代わりまして、レポートを執筆いたします。

 課題書は『あなたは誰?』ヘレン・マクロイ著/渕上痩平訳(ちくま文庫)。

 ゲストに、課題書をはじめ数多くの翻訳ミステリを手がけられてきた藤原編集室の藤原義也さんをお迎えしました。 参加者はゲストを含め7名。地元からの参加は4名でした。

 会場の机には世話人と参加者の皆さんが持ち寄ったマクロイ作品がずらっと並べられ、皆さんの関心を引いていました。 いますぐ手を伸ばして読みたい気持ちを抑えつつ……自己紹介と簡単な感想から読書会が始まりました。

意見の一部を紹介します。

・何度読み返しても面白い
・登場人物が少なく読みやすい
・息子が気になる……
・ウィリング博士は影が薄い
・影が薄い割に知りすぎでは?

  たしかにフリーダやイヴといった女性キャラクターの主張が強くて、探偵役のウィリング博士は霞んで見えます。なかには「実はイヴの書いた小説だった、という読み方もできるのでは?」と大胆な説を唱える方もいました。

 心理学の要素を取り除いてみれば実はとてもシンプルな骨格を持ったストーリー、という意見には皆さん深くうなずいていました。

 参加者の一人からは「事件の発端から各登場人物の行動を追ってみると不自然な点がある」との指摘も。時系列順に行動を並べたレジュメを作成してきてくださいました。

 凶器はどう用意したのか、手紙はなぜそこにあったのか、といった数々の鋭い指摘に唸る一同。

 レジュメを片手にもう一度はじめから読み返したい!

 いくつかの疑問点はあるものの、それ以上に心理要素と謎解きを巧みに組み合わせたプロットはほかにはない魅力があり、また読みたいと思わせてくれる傑作だと再確認しました。 (弘前読書会にぴったりの作品じゃないですか!)

 途中、藤原さんが作中に登場するジェームズ・フレイザー著『金枝篇』を解説してくださり、皆さん興味深く聞き入っていました。

 人類学・民族誌の集成である『金枝篇』は世界じゅうの(特にアメリカの)心理学者におおいに影響を与え、ひいてはミステリ作家の想像を刺激することになったそう。マクロイも刺激を受けた作家のひとりだったのかもしれません。

 マークが若いころから積み続けているこの本は「いつかは読破したい作品」の代表というだけではなく、実はとっても重要なモチーフだったのかも。

 話は進み、一同の関心はとある登場人物のその後の境遇に向けられます。「幸せそう」と伝聞で語られるこの人物、何らかの施設にいるのか? 事件についてどこまで覚えているのか? 覚えていないほうが幸せなのか?  幸福って一体……と神妙な気持ちになったところで会はお開きに。

 7名という少人数での開催でしたので、自論をたっぷりと語り合えたのではないでしょうか。

 マクロイ初心者の私が他のお勧めを教えてほしい、とお願いしたところ、挙げていただいたのが以下の作品。

 ウィリング博士ものだと『二人のウィリング』『幽霊の2/3』、ノンシリーズでは『殺す者と殺される者』が傑作とのこと。 短編集『歌うダイアモンド』も面白そうだなぁ。

 また、翻訳者の渕上痩平さんからの弘前読書会に向けたメッセージを藤原さんが届けてくださいました。温かいメッセージをどうもありがとうございました。

 世話人は今回の課題書をマクロイにするかフリーマンにするかで迷っていたようです。いつかフリーマンで開催の際は、ぜひゲストとして参加していただきたいです。

 次回開催は8月、課題書はピエール・ルメートルを予定しております。 これまで古典が続いていた弘前読書会、初の現代作家です! ぜひお越しください。