書評七福神とは!?

「書評七福神」とは、翻訳ミステリーが好きで好きでたまらない書評家七人のことである。

日々貪るように翻訳ミステリーを読んでいる七人に、この一ヶ月で読んだ中でいちばんおもしろかった/胸に迫った/爆笑した/虚をつかれた/この作者の作品をもっと読みたいと思った作品を挙げてもらった。当然事前相談なし、挙げた作品の重複ももちろん調整なし。挙げられる作品は必ずしも今月のものとは限らない。今年度の刊行であれば、何月に出た作品を挙げても構わないというルールだからだ。

 先月は七人中五人と、マット・ラフ『バッド・モンキーズ』が圧倒的な支持を集めたが、果たして今月は……。

霜月蒼

『洋梨形の男』ジョージ・R・R・マーティン/中村融編訳(河出書房新社)

 非ミステリ攻略月間たる11月に読んだなかで断然ベスト。SF系の叢書だけどミステリ・ファンでも全然OKっす。マーティンて短篇もうまいなあ。どれもパキっと見事にクリスピー。もうおれのゴタクとかどうでもいいから即読むといいよ!

北上次郎

『ソウル・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子訳(文藝春秋)

 昨年のディーヴァーには留保をつけたけれど、今年は面白い。斧を持った殺人者よりもこっちのほうがオレは怖い。その意味で「最強」だ。

杉江松恋

『世界名探偵倶楽部』パブロ・デ・サンティス/宮崎真紀訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 パリ万国博に世界の名探偵が揃いぶみするという、舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』を彷彿とさせる設定の物語だが、内容も一昔前の新本格ミステリー顔負けのひねくれぶり。きちんと本格で、しかも上質の教養小説だ。アルゼンチン・ミステリーすげえ。

村上貴史

『ソウル・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子訳(文藝春秋)

 今回の敵役は、個人情報を駆使する殺人鬼だ。その力の根源であるデータの存在に関する説得力は抜群であり、また、その力の応用力も抜群。それ故に、読者は極めて身近な恐怖のなかで、本書のスリリングな展開を味わうことになるのである。満足満足。

吉野仁

アンドリュー・ウィルソン『嘘をつく舌』高山祥子訳(ランダムハウス講談社文庫)

 ハイスミスの伝記でMWA賞を受賞した作者が、今度は創作でオマージュを捧げた。青年がヴェネチアの館で暮らす老作家の世話をすることになり、密かに彼の自伝を書こうと企む。まさにハイスミスの十八番〈他人の人生を我がものにする〉心理サスペンスなのだ。

川出正樹

『リヴァトン館』ケイト・モートン/栗原百代訳(ランダムハウス講談社)

 黄昏ゆく貴族社会を舞台に、時代の変化に翻弄される人々の悲劇を描いたゴシック風味豊かな悠久たるサスペンス。装画や帯の惹句に臆して、黄金期本格ミステリの世界と表裏一体を成す、この美しくも哀しいされど読後感爽やかな物語を読み逃す事なかれ。

池上冬樹

『ロンドン・ブールヴァード』ケン・ブルーエン/鈴木恵訳(新潮文庫)

 ハリウッド映画の名作『サンセット大通り』を下敷きにしたコミック・ノワール。夥しい引用、改行過多の文章を駆使して破れかぶれのギャング哲学をうたいきる。

すっとぼけた笑いがおかしい。

 以上、今月の結果でした。結構ばらけましたね。みなさんのベストはこの中に入っていたでしょうか。来月も、おもしろいミステリーが読めますように。