(承前)

 最後にお届けするのは、唯一3人のリストに重複した作品。そして、作品名は違うものの4人が名前を挙げた作家です。何を措いても最初に手に取るべき作品・作家ということができるでしょう。

【3人が選んだ作品】

105『クリスマス・プレゼント』ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子・他訳(文春文庫)2003年刊行

 リンカーン・ライム・シリーズの書き下ろし表題作をはじめ、粒揃いの16作を集めたオールタイム・ベスト級の短篇集。どんでん返しを愛する者にとっては狂喜乱舞の一冊だ。(千街)

 驚異の逆転劇16連発。中でも「ジョナサンがいない」と「三角関係」は、ミステリ史に遺る不朽の名作だ。騙されることに快感を覚えつつも騙されまいと身構える因果な読み手を綺麗に欺し、至福の時を与えてくれる珠玉の短編集。(川出)

 twistedという原題が示すとおり、ひねりの効いた作品がてんこ盛りの一冊。どんでん返しで知られるディーヴァー自らがtwistedというだけあって、それはもうとことんひねりが効いている。(村上)

【4人が選んだ作家】

106『ホット・ロック』ドナルド・E・ウェストレイク/平井イサク(角川文庫)1970年刊行

 大エメラルドを盗み出せ! 怪盗ドートマンダーと仲間たちが繰り広げる珍騒動が愉しい一冊。本書の先には、リチャード・スタークやタッカー・コウといった豊穣な世界が待っているので、そちらもどうぞ。(村上)

107『斧』ドナルド・E・ウェストレイク/木村二郎訳(文春文庫)1997年刊行☆

 リストラされた主人公が、再就職のため、他の有力なライバルたちを次々に殺害していく。絵空事とは思えないリアリティと強烈なブラック・ユーモアを感じさせる一作。これこそ今読まれるべきサスペンスではないか。(吉野)

108『悪党パーカー/人狩り』リチャード・スターク(ドナルド・E・ウェストレイク)/小鷹信光訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1962年刊行

 すべての感情を削り落とせ。ハメットの非情の流儀を極限までに高めた孤高の暗黒小説シリーズ第一作。最終作『殺戮の月』まで、史上最高のノワール・ヒーロー「悪党パーカー」の活劇を追うべし。(霜月)

 何もかも失った男が裏切った妻と仲間に復讐するために戻ってくる。たったそれだけの物語だが、十分すぎるほどに内容が詰っている。中盤以降の加速の掛かり方を思い出すたびに脳が痺れる。こんな読書体験はもう二度とないだろうと思うのだ。(杉江)

 いかがでしょうか。108作の中に、あなたの好きな作品・作家は上がっていましたか? 2010年にも優れた作品がたくさん翻訳されることを祈って、今回の企画を終わりにしたいと思います。本年もよろしくお願い申し上げます。

 杉江松恋拝

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