書評七福神とは!?

今月もやってきました「書評七福神」のコーナー。2010年も毎月一押しの翻訳ミステリーをお届けしてまいりますので、どうぞお楽しみに。さて、気になる今年最初の一冊ですが……。

(ルール)

  1. この一ヶ月で読んだ中でいちばんおもしろかった/胸に迫った/爆笑した/虚をつかれた/この作者の作品をもっと読みたいと思った作品を事前相談なしに各自が挙げる。
  2. 挙げた作品の重複は気にしない。
  3. 挙げる作品は必ずしもその月のものとは限らず、同年度の刊行であれば、何月に出た作品を挙げても構わない。
  4. 要するに、本の選択に関しては各人のプライドだけで決定すること。
  5. 掲載は原稿の到着順。

北上次郎

『絵画鑑定家』

マルティン・ズーター/シドラ房子訳(ランダムハウス講談社)

 自殺を止めたんだからあたしの人生責任取って、と言われた男の話。で、その女にふりまわされるんだろうと思っていると、微妙に違った道を進んでいく。そのヘンな感じが妙に新鮮だ。

千街晶之

『古書の来歴』

ジェラルディン・ブルックス/森嶋マリ訳(ランダムハウス講談社)

 一冊の美しい稀覯本にまつわる数々の秘史を、五百年の時を遡行しながら繙いてゆく大河小説。民族や宗教といった争いの火種の前で、人類はいかに変わらず愚かであり続けることか。それだけに、古書に託された幾人もの人びとの思いや祈りが、こよなく貴重なものに思えるのだ。

川出正樹

『暁に消えた微笑み』

ルース・フランシスコ/芹澤恵訳(ヴィレッジブックス)

 表紙と題名から、ロマンチック・サスペンスか、と思ってページを開くといきなり裏切られます。何せ冒頭の一行が、「あの腕は、ほんとはおれが見つけた」なのだから。徐々に浮き彫りにされていく不在のヒロインが圧倒的な存在感を放つ、ハイテンションのサスペンス。

霜月蒼

『湿地帯』

シャーロット・ローテ(二見文庫)

 ミステリでも文学でもロマンスでもないんだけど、こういう「何だこりゃ??」系の異常小説は胃袋が無節操なミステリ読みならばニュートラルに玩味できるはず。気持ち悪いもの読ませやがって!って非難はナシで夜露死苦。怪作です。

村上貴史

『一年でいちばん暗い夕暮に』

ディーン・クーンツ/松本依子・佐藤由樹子訳(ハヤカワ文庫NV)

 愛犬家であるクーンツが犬好き魂を全開にした一冊。特別な能力(?)を持つ犬の静かな活躍が、クーンツ一流のサスペンスとブレンドされたファンタジーとして読ませる。人と犬、男と女、親と子。愛情と憎悪の様々なかたちが詰め込まれている点や、個性的な殺し屋像にも注目したい。

吉野仁

『占領都市ベルリン、生贄たちも夢を見る』

ピエール・フライ/浅井晶子訳(長崎出版)

 終戦直後のベルリンで起きた連続美女殺人事件。幸せを求めながらも時代と運命に翻弄されていく被害者女性五人の人生をそれぞれを陰翳深くたどったドイツミステリ大作だ。占領時代の日常をくっきりと描写しているなど、英米の作品ではお目にかかれない凄みがある。

杉江松恋

『エスプレッソと不機嫌な花嫁』

クレオ・コイル/小川敏子訳(ランダムハウス講談社)

 コージー・ミステリには珍しい六百ページ近い大作。この分量には理由があり、女性同士の友情物語、別れた夫との訣別、新しい家族関係の構築といった、主人公を巡るさまざまなドラマが綺麗な形で完結する話だからだ。シリーズ初見の読者でも楽しめるが、第1作と直前の第6作ぐらいは読んでおくとなお良し。

 以上、今月の結果でした。英語圏以外の作品が大健闘した観があります。おもしろいミステリーって世界中にあるんですね。来月も、この欄を楽しみにしていてください。ではでは。