『アイスクリームの受難』

J・B・スタンリー/武藤崇恵訳

ランダムハウス講談社文庫

 コージー・ミステリにはおいしい料理や甘いお菓子がつきもの。読んでいるうちに食欲を刺激され、ついついお菓子をつまんだり、レシピを参考にいつになく熱心に料理に励んでみたりして、気づけば体重計に乗るのが怖くなる、なんてこと、ありますよね。そんな コージー・ファンの悩みを解消してくれる(?)シリーズがあります。J・B・スタンリーのダイエット・クラブ・シリーズです。ヴァージニア州ののどかな町を舞台に、ちょっぴり、というかかなり太めの面々がダイエットと犯罪捜査に挑戦する愉快なシリーズで、毎回それなりにダイエットの効果も出ているのがうれしいところ。でも一作目でやせたぶん、二作目の冒頭ではリバウンドしているのですが……。

 一作目の『ベーカリーは罪深い』は、妻に離婚された三十五歳のジェイムズ・ヘンリーが、大学教授の職を辞して故郷のクィンシーズ・ギャップに戻り、郡図書館の分館長として第二の人生を歩みはじめたところからはじまります。母親が亡くなって、気むずかしい父親の面倒を見なければならなくなったのです。三十五歳にして父親と一緒に暮らしている、バツイチの負け犬。おまけに体重百二十五キロのデブ。そんな自分に自信をもてず、「まずはダイエットしなくちゃ」と一念発起したジェイムズは、ダイエットを目的にしたサパー・クラブのメンバーになります。同じ悩みをもつ仲間たちが、毎週日曜の夜にメンバーのひとりの家に集まってダイエット・メニューの料理を囲み、楽しく語り合い、励まし合いながら減量を目指す会です。メンバーは五人で、その名も〈デブ・ファイブ〉! メンバーのひとりである保安官事務所の事務員ルーシーに思いを寄せるジェイムズは、保安官代理になりたいという彼女の夢をかなえるため、町いちばんのベーカリー〈甘い天国〉で起こった殺人事件を解決しようと仲間たちと知恵をしぼります。

 前作ではめでたく事件を解決し、それなりに体重も減ったけど、半年後の第二作『アイスクリームの受難』ではお約束のリバウンド。試食をめあてに大型ディスカウント・ストアまで遠征し、いじきたなく食べまくるジェイムズの姿は、読んでいてちょっと引いてしまうほどです。あーあ、せっかくの苦労が水の泡だよ……。そんなとき、クィンシーズ・ギャップのショッピング・モールにダイエット教室〈みんなでフィットネス!〉ができ、〈デブ・ファイブ〉の面々も参加することになります。でも、ジェイムズはやたらとハイテンションで押しの強いダイエット教室オーナーのヴェロニカが気に入らず、バカ高い料金を払って、ビリーズ・ブートキャンプなみのハードなエクササイズとまずいダイエット食に耐えなければならないのにもうんざり。どちらかといえば同じモール内にあるアイスクリーム・ショップ〈輝くパゴダ〉のほうが気に入っていたりします。だからそれじゃダイエットの意味ないって!

 ところが、その〈輝くパゴダ〉で火災が起き、夜間従業員のピートが焼死。ウィスキーの瓶とタバコの吸い殻があったことから、火災はピートの不注意によるものとされますが、ピートがかみタバコ派で好みのウィスキーの銘柄も現場にあったものとはちがうことに気づいたジェイムズは、火災原因に疑念を抱きます。

 のんびりおっとりタイプで、いらいらするほど優柔不断で、自分に自信のないジェイムズが、仲間とダイエットに励み、犯罪捜査に関わるうちに、ちょっぴりイケてる男に見えてくる、かどうかは読者の判断にまかせますが、推理のほうはなかなかさえてます。ダイエットのほうはぼちぼちだけど、重量級の〈デブ・ファイブ〉の面々を見ていたら、体重計に乗るのが怖くなくなるでしょ? というわけで、コージー・ファンの悩みを解消してくれるシリーズなのです。ちょっと苦しいかな。

 図書館長のジェイムズ、保安官事務所事務員のルーシー、高校の美術教師のリンディ、トリマーのジリアン、郵便配達員のベネットと、〈デブ・ファイブ〉のメンバーは、みんな職業も性格もちがって個性豊か。気むずかし屋の父ジャクソンにも何か隠された思いがありそうだし、図書館で働くSFとファンタジイ好きの有能な双子、スコットとフランシスのフィッツジェラルド兄弟には驚かされてばかりだし、ルーシーをいびってばかりの保安官代理キースは大人げないほど意地悪だし。個性的な登場人物がにぎやかに町を彩り、カフェやダイナーやベーカリーではおいしい料理やお菓子の誘惑も。ジェイムズとルーシーの恋の行方も気になるところです。

 それにしても〈デブ・ファイブ〉! なんてストレートで自虐的なネーミングなの! 五人ともイエローの戦隊ヒーローものみたい(たいていイエローってデブだよね。これってわたしの思いこみ?)。減量戦隊デブ・ファイブ! そのイメージだけで充分笑えます。

 上條ひろみ