書評七福神とは!?

3月20日の大会に向けてますます意気軒昂の執筆陣が、今月も「書評七福神」のコーナーをお届けします。七福神の一人、村上貴史さんが海外出張中のため、まずは他の六人のお薦めをお届けします。→村上さんの原稿をアップしました!

(ルール)

  1. この一ヶ月で読んだ中でいちばんおもしろかった/胸に迫った/爆笑した/虚をつかれた/この作者の作品をもっと読みたいと思った作品を事前相談なしに各自が挙げる。
  2. 挙げた作品の重複は気にしない。
  3. 挙げる作品は必ずしもその月のものとは限らず、同年度の刊行であれば、何月に出た作品を挙げても構わない。
  4. 要するに、本の選択に関しては各人のプライドだけで決定すること。
  5. 掲載は原稿の到着順。

北上次郎

『最後の吐息』

ジョージ・D・シューマン/上野元美訳

ヴィレッジブックス)

 死者の手をとると、死の直前18秒間の記憶が見える盲目の超能力者シェリーを主人公とするシリーズ第2弾。だんだんよくなっているので、この次が傑作かも。

千街晶之

『ベヴァリー・クラブ』

ピーター・アントニイ/横山啓明訳

原書房

 なにこの定石通りの話、『スルース』の原作者が書いたにしては素直すぎるだろう、と思いつつ読み進めたところ……なるほど、そういうことをやりたかったのか。私はまんまと作者(たち)の思うつぼにはまっていたわけだ。

川出正樹

『ベヴァリー・クラブ』

ピーター・アントニイ/横山啓明訳

原書房

 密室ミステリ史上屈指の”開いた口がふさがらない本”、『衣装戸棚の女』の作者がまたまたやってくれました。ハイテンション・コメディから英国流黒笑小説へと衣装は替われども、人を食った度合いでは甲乙つけがたい真相に、思わずニヤリと笑いがこぼれてしまう。小味のきいた逸品です。

霜月蒼

『ベルリン・コンスピラシー』

マイケル・バー=ゾウハー/横山啓明訳

ハヤカワ文庫NV

 開巻1行目で没入→読了。傑作。贅肉ゼロだが台詞や文体に手抜きなし。脇役も敵も魅力的。陰謀は二重底三重底。だが本質はそこじゃない。「暴力の連鎖」への熱い熱い怒りこそが著者の伝えたいことであり、読者の土手っ腹に余韻深く重いパンチを喰らわすのはそいつなのだ。読め。

吉野仁

『T・S・スピヴェット君傑作集』

ライフ・ラーセン/佐々田雅子訳

早川書房

 楽しく美しいビジュアルの妙、奇抜な発想やセンスのみならず、スピヴェット君のたどる文字通りの時空をこえた大冒険と意外性に満ちた展開に胸をおどらせた。手にとるだけでわくわくするような造本だが、中身はさらにその期待をうわまわる面白さ。とっても素敵。

杉江松恋

『T・S・スピヴェット君傑作集』

ライフ・ラーセン/佐々田雅子訳

早川書房

 定価五千円弱は高いと思われるかもしれないが、並の本の五冊分は楽しめた。安い。ふんだんに入った註釈と図解が楽しいし、少年の冒険小説という内容も大いに好みだ。自分だけで独占せず、いずれ子供にも読ませようと思う。代々読み継がれる家宝のような一冊だ。やはり安い。

村上貴史

『ベヴァリー・クラブ』

ピーター・アントニイ/横山啓明訳

原書房

 殺人容疑者となるも裁判で無罪を勝ち取った仲間が事故死した。彼が死の直前に見抜いたという真相を探るべく、名探偵が出馬する……。事件の構造、物語の構造、容疑者の設定、それらが実に巧みに編み上げられた逸品。一九五二年の作品故にテンポはいささかゆるいが、そのゆるさがもたらす饒舌さもまた心地よい。(他の六福神のセレクションや評を見る前に書いたんですよ、ホントに)

 以上、今月の結果でした。村上さんの原稿が到着したら、再度アップしますから読んでくださいね。それにしても横山啓明率高し。来月も、この欄を楽しみにしていてください。ではでは。