『億万長者の殺し方教えます』

ナンシー・マーティン/戸田早紀訳

ハヤカワ・イソラ文庫

 女きょうだいがいないので、三姉妹のまんなかになりたかった。姉と妹がいて、自分も姉と妹で、なんか楽しそうだなあ、と。親からは適度に放任されて、上と下からおいしいところを盗んで、要領よく生きられそうじゃない? まあ、現実はそんなに甘くはないと思うけど、そういう立ち位置にちょっと憧れた。三姉妹のまんなかってなんとなくしっかり者が多い気がするけど、それはいろいろと苦労が多いからかも。そんなまんなか次女の苦労がよくわかるのが、ナンシー・マーティンの『億万長者の殺し方教えます』だ。

 ヒロインのノラ・ブラックバードはフィラデルフィアの名家に生まれたセレブ三姉妹の次女で三十一歳。自由な精神の持ち主の姉リビーと、セクシーで活動的な妹のエマにはさまれたノラは、やっぱり責任感の強いしっかり者だ。しかしセレブとはいえ、事情はちょっと切実。三姉妹の両親は財産を使い果たし、滞納した固定資産税二百万ドルを(いちばん責任感が強いという理由で)ノラに押しつけて、ハイ、さよならとばかりに海外リゾート地に旅立ってしまい、三姉妹は金銭的に苦しい状況に追い込まれているのだ。このあたりはジル・チャーチルのグレイス&フェイヴァー・シリーズ(『風の向くまま』ほか)に似てるかも。そのうえ、ノラとエマはともに夫を亡くしていて(リビーは再婚しているが、最初の夫は死亡)、「ブラックバート家の女たちは夫運がない」とまで言われている。生活費を切り詰めてなんとかしのいできたものの、いよいよお金に困ったノラは、友人である老富豪のローリー・ペンダーガストが所有する新聞社で記者として働かせてもらうことに。担当は社交欄。フィラデルフィアのあらゆるパーティーに出席し、「人びとが何を着て何を食べ、何を言ったかをこと細かに記事にする」のがお仕事で、(元)セレブの彼女にはうってつけだ。

 ところが、社主であるローリー主催のパーティーで、ローリー本人が殺されてしまう。死体のそばに散らばっていた錠剤はなんとバイアグラだった。ローリーの長年の愛人と言われているピーチ・トリーズが第一容疑者にされると、フィラデルフィア社交界の主要人物をほとんど知っているノラは、友人のピーチを救うべく調査に乗り出す。セレブ探偵の誕生だ。祖母のお古のジバンシーに身を包み、いざ出陣! パーティーの取材ついでにききこみができちゃうので一石二鳥だけど、パニックに陥ると気を失っちゃうところはやっぱりお嬢さま。だれか、助けてあげて〜!

 そこでメンズの登場だ。セレブ女子にはメンズがつきものだが、ロマンティック・タイムズ賞受賞の本書はその方面ももちろんぬかりがない。輝く鎧の騎士は、黒い巻き毛と見事な肉体を持つワイルドな肉食系男子、マイケル・アブルッゾ。自動車販売チェーン〈ミックのマッスルカー〉経営者だけど、ニュージャージーのギャングの出で、今もなお暗黒街とつながりがあるといううわさどおり、ちょい悪な魅力全開でノラに迫る。おっかなそうな人がやさしくしてくれたりすると、そのギャップにくらっとくることがあるけど、案の定アブルッゾもたよりになるうえ意外に好青年で、ついにはノラもくらくらと……。お嬢さまと元ギャング。そのギャップも気になるところだけど、ブラックバード家の女たちの夫運の悪さを思うと、今後の展開が激しく気になってしまう。

 もちろんロマンスだけではない。アガサ賞最優秀新人賞ノミネート作だけあって、謎解きもしっかり楽しめるし、それぞれまるで性格がちがう三姉妹をはじめ、キャラクターも実にユニーク。地方都市のセレブたちの暮らしぶりがユーモラスに生き生きと描かれているのも特徴で、ノラが幼いころから知っている同年代の友人たちは事業を起こしたり家業を継いだりして、みんなせっせと働いている。この時代、セレブも遊んではいられないみたい。豪遊するとノラたちの両親みたいなことになっちゃうもんね。

 ナンシー・マーティンはジャネット・イヴァノヴィッチなどと同じくロマンスからの転向組で、本書がミステリ・デビュー作。セレブ三姉妹のシリーズは現在七作目まで書かれているそうだ。今からチェックしておくべし!

 ちなみに、セレブ探偵もののコージーでは、マーガレット・デュマスの『何か文句があるかしら』もお薦め。なんでケイトスペードはホルスターを作ってないの? みたいなセレブならではの悩みが笑えます。ヒロインはタイトルほどタカビーじゃないし、新婚のダーリンも謎めいててかっこいいの!

上條ひろみ