ドン・ブライン、誰それ? とつぶやいたそこのきみ、早口にて10回連続で唱えてみましょう。原書レビュー枠は、これおもしろいんだけどなぁという作品を真剣に真摯に力説モードで紹介していますが、連日の猛暑につき今回は夏休みモードをチョイス。日頃がんばっているみなさん、ここらでちょっと肩の力は抜いて、腹筋に力を込めてみませんか。たるたるの腰まわりに今年の夏もダメだったとため息をついている人も(含自分)これで引き締まるかも? 大丈夫まだ間に合う、幸いにして猛暑だし、サマー・オヴ・ラヴはまだまだ続く。そしてガリガリ君もいいけれど、笑いで暑さを吹き飛ばそう!

 書名はThe Da Vinci Cod: A Fishy Parody(2005年作品)。そそ、ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』のパロディ本なのです。本家はパリのルーヴル美術館で事件が始まりましたが、こちらはロンドンのナショナル・ギャラリーからスタート。血まみれで発見された学芸員、直接の死因は窒息死でした。タラ(cod)をまるごと喉に突っこまれていたのです。現場にはダイイング・メッセージも残されていました。そこで捜査の協力を要請されたのが、ロンドン大学の?アナグラム学者?で、暗号はお手の物のはずのロバート・ラングドンならぬドングラン教授。なんだこれ……な幕開けに怯むのはまだ早い。ここから怒濤のパロディとへなちょこ脱線が展開されるのです。

 こんな本を書いてしまったドン・ブライン(すごくよくできている筆名です)は本名Adam Roberts。オリジナルの著書もありますが、A.R.R.R. Robertsという筆名ではThe Soddit(『ホビットの冒険』のパロディ)を、A3r Robertsという筆名ではStar Warped(『スター・ウォーズ』映画をもとにしたパロディ)を書いている、ロンドン大学の19世紀英文学と創作の教授なんだそうです。去年、ディケンズのパロディでI Am Scrooge: A Zombie Story For Christmasというのを書いているそうで、こちらも気になっていたり。

 ?ダ・ヴィンチのタラ?は美術館で殺人事件、わけあって主人公が美女と謎を解き明かしながら逃避行、殺人事件の裏には巨大組織を根底から揺るがす秘密が隠されていた——という本家のあらすじの忠実なパロディですが、なぜに魚? から始まってじつに笑かしてくれる本です。わかりきったことをことごとく勘違いして捜査を進める主人公を始めとして、ドタバタな笑い満載。時々、皮肉もあったり。たとえば主人公を俳優になぞらえるならばという話であれこれ名前があがるのですが、最終的には?トム・ハンクスでなかったら誰でもいい?とか。脱線が多いから、目的地に直行しないと気が済まない人よりも、寄り道好きな人にお薦めです。

 脱力系ユーモアなんですが、笑いっぱなしで読んでいると、意外や意外、最後の謎解きのあまりにも壮大な大風呂敷に感動すら覚えてしまうというふしぎな作品です。本家は読んでおいたほうが楽しめます。イギリスだったらタラでしょ! という着眼点にもニヤリ。あとね、ターミネーターを意識した謎の暗殺者?エクスターミネーター?の正体も……ああ、もっと話したいネタがたくさんあるけれど、あまりネタばれはいけません。ペイパーバックで200ページ足らず、字数も詰まっていない読みやすい本だと思うのでご興味があれば。そうだ、この原書を読むさいは、とくにうしろのほうをちらりとでも見てしまうとネタばれになるのでパラパラ禁止で。きみもタラで笑ってみタラ?

(三角和代)