みなさま、あけましておめでとうございます。韓国ジャンル小説愛好家のフジハラです。今年もほそぼそとではありますが、韓国ジャンル小説をご紹介していければと思っておりますので、お付き合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、先日こちらでもご紹介した韓国女流ミステリー作家の女王、ソ・ミエによる『おやすみ、ママ』が、世界各国で出版目前。


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 アメリカの書籍サイトでも「2020年に読みたいミステリー」の1冊として紹介されました。3部作の1作目となる『おやすみ、ママ』ですが、2作目が今年の上半期にも出版されるという噂。英語版は、日本はもちろんノルウェーやデンマークなどのオンラインショップでも予約受付中とあり、女王のミステリーが世界を駆け巡る兆し! 電子書籍版も同時発売! さあ、どうした日本! まだなのか日本!

 ……というわけで、今年最初にご紹介する作品は、『おやすみ、ママ』の作者、ソ・ミエも審査委員を務めた韓国最大手書店「教保文庫」が主催する「教保文庫ストーリー公募展」の第6回(2018年)大賞受賞作品『殺した男、また現る』(作 / ファン・セヨン)。「犯罪のない村」を誇る小さな村に出現した一つの死体が巻き起こすドタバタミステリーとなっております。


 数年前に幼い姪と共に村に移住してきた未亡人パルヒはある夜、庭先に侵入してきた男を撲殺してしまう。正当防衛を主張できなくもない出来事ではあったが、レッキとした殺人。もし自分が監獄行きになったら、幼い姪はどうなるのか? それを心配したパルヒは、男の死を事故死に見せるべく偽装工作を施そうと決意する……が、庭先から運び出すつもりだった死体が、忽然と姿を消してしまう。
 それから数時間後。今度は村長宅の庭で事件が発生。村長のトラックと庭の柿の木に挟まれるようにして息絶えている男の死体が見つかった。一見、トラックの誤発進による事故に見えたため、これは犯罪ではない! 「犯罪のない村」の選定においても問題にはならない! と思ったものの、警察にでも連絡をすれば村長が連行され、過失致死罪くらいかぶるハメになるかもしれない。それならいっそ、普通の交通事故に見せかけるべく、死体を道路沿いに捨ててこよう! ……などなど、「犯罪のない村」受賞回数新記録を樹立することに躍起になってる村人たちは、口裏合わせ、知恵を出し合い、手に手を携えて一致団結、小さな村ならではのチームワークを発動し速やかに動き出す。ところがところが。今度はその死体が遺体安置所で発見されるという摩可不思議な事態に。タイトルから推測されるように、死んだはずの一人の男があちらこちらに出現し始めるのだ。

 小さな村ならではの連帯感、そして小さな村ならではの密で繊細な人間関係が生んだ事件。山肌に投げつけた一つの小さな石ころが、転がり落ちながらあちらの石ころ、こちらの石ころを跳ね飛ばし、いつのまにやら収拾がつかないほどの小石があちらこちらへ広範囲に転がり落ちてしまってた、という過程をシリアスかつユーモラスに描き出した作品。受賞から書籍化されるまでの間に映画化の版権契約が成立したというだけあって、怖いシーンも笑えるシーンもサクサクと勝手に脳内再生される描写と吸引力。正直、謎ときのシーンなどは「そんなんアリか!」と思わないでもなく、一瞬ガックリきたのですが、それにもかかわらず最後まで読んでみると「なるほど! いいのか。いいんだな、アレはアレでいいんだ!」と思わされる軽妙なオチ。映画になったらここはこんなカメラワークのはず…と映像が目の前に自然に浮かび上がってくる後味スッキリなライトミステリーです。

 さてお次は「教保文庫ストーリー公募展」からもう1冊、第4回(2016)の受賞作品、オカルトミステリーの『シフト』(作/チョ・イェウン)をご紹介しましょう。


 冒頭のシーンは海辺の殺人現場。被害者は中年男性。現場で見つかった凶器と思われるナイフのグリップからは被害者の指紋が、刃からは被害者のものではない血液が検出される。被害者のポケットには現場近くの地下室の鍵が入っており、その地下室からは血痕や消息不明児童の写真、そして「何か」が入れられていた痕跡のある大きな檻が発見された。
 事件を担当するイ刑事にはかつて、遺伝性の難病で半ば寝たきりの姉がいたが、信じられないことに、当時流行していた新興宗教の儀式により健康を取り戻した。その後、姉は事故で亡くなり、姉の忘れ形見である姪のチェリンが姉と同じ病気を発症。なんとかアノ宗教団体を探し出し、チェリンを助けてもらおうと考えるイ刑事は、仕事そっちのけで教団関係者の行方を探すが捜査は難航。当時、教主と共に儀式を執り行っていた少年がアノ超常現象を解くカギのようだが……。あのとき、姉の病はいかにして消えたのか……消えたのか?その答えは表紙に……参考までにこちらの作品、サブタイトルは「痛みを移す者」。

 何が善で何が悪なのか。愛する者を助けたいという思いは、どこまでが正常なのか。悪魔に魂を売ってはいけない。でも、愛する者は助けたい。そんな葛藤や、傲慢で強欲な権力者たちへのイラだちなど、いろいろな意味で胸が焦げつきそうな作品。こちらも映画化の版権が売却済みとのこと。原作どおりにいくと痛いシーンもかなり多そうですが、そこさえお手柔らかにしていただければ、家族愛と生の尊さをじっくり味わえる作品になるのではないでしょうか。

 昨年末から年頭にかけても、すでに読みたい新刊続出で苦しんでいます。1冊でも多くのオイシイ韓国ジャンル小説をお届けすべく、今年も……今年こそ? 読みあさってまいる所存でございますので、2020年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。

藤原 友代(ふじはら ともよ)
 北海道在住、韓国(ジャンル)小説愛好家ときどき翻訳者。
 児童書やドラマの原作本、映画のノベライズ本、社会学関係の書籍など、いろいろなジャンルの翻訳をしています。
 ウギャ――――!!ゲローーーー!!という小説が三度のメシより好きなのですが、ひたすら残虐!ただ残忍!!というのは苦手です。
 3匹の人間の子どもと百匹ほどのメダカを飼育中。













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