六月は、新入社員が会社を辞めたくなる時期と言われている。入社して三ヶ月が経ち、最初に行き詰まりを感じるからだという。先輩の側としても、新人への評価が決まる時期かもしれない。皆様の職場の新人さんたちの様子はいかがですか?

 扱いづらい新人、というのは、どこの職場でも浮いた存在になるだろう。チームワークを是とするような職場なら尚更だ。本作の主人公、シンディ・デッカー巡査は、そういう困った新人である。

 ある日、シンディは謎の車に追いかけられる。ムシャクシャしていた彼女は反撃を試みるが失敗、相手に逃げられてしまう。そこへ突然現れたのは先輩女性巡査のヘイリーだった。名門大学卒で生意気、父親が市警の警部補だというのを鼻にかけているとの評判のシンディには、親しい友人はいない。そんなシンディに急速に接近してきたのがヘイリーだが、その真意は今ひとつ掴めない。

 一方、ロスでは女性ばかりを狙ったカージャック事件が続いていた。捜査の過程で、パターンから外れている事件があることが判明する。関係者といい手口といい、未解決の誘拐殺人事件に似ているのだ。そして、誘拐殺人事件の関係者とシンディの間には意外な繋がりがあることが明らかになる。

 謎の車に追いかけられた日の深夜、帰宅したシンディは自宅が徹底的に汚損されているのを発見し、激しく動揺する。この破壊行為は警告が目的なのだろうか。それとも、先輩であるヘイリーが言うように、女性警察官への嫌がらせなのか。シンディが生意気な態度をとってきたのは事実だが、これほどの被害を受ける理由になるとは思えない。署の警察官を密かに調べ始めたシンディは、またしても危機に見舞われるが……。

 シリーズ第1作『水の戒律』から19年、<ピーター・デッカー&リナ・ラザラスシリーズ>第12作目がこの『新人警官の掟』である。本作では、シリーズ主人公のピーター・デッカーの長女シンディが新人巡査となり活躍する。これまでの作品中のシンディは、主にピーターの目を通じて可愛く優秀な娘として描かれてきた。ところが、この作品序盤のシンディはインテリ気取りで周囲を見下し、二言目には「パパは…」と口にする困った新人である。そんな彼女がどう危機を乗り越え、父離れして成長するのかが、いちばんの読みどころだろう。

 長く続いている本シリーズだが、シンディが主人公になっている作品は初めてなので、初めて読むという人でも取っ付きやすいのではないだろうか。初期の『水の戒律』『聖と俗と』ほどではないにしろ、この数年に邦訳されたフェイ・ケラーマン作品のなかでは前作『木星の骨』と並び、十分に楽しめる完成度である。

 このシリーズには作者フェイ・ケラーマンの夫、ジョナサン・ケラーマンの小説のキャラクターが度々カメオ出演しているのをご存知の方も多いだろう。本作にも意外なようで意外ではない”あの人”が顔を出し、シンディにアドバイスを授ける。誰がいつ登場するのか、そちらも楽しみにして欲しい。

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