レギュラー陣のみなさんに混じっておじゃま虫します。よろしゅうに。
夏だからというわけでもありませんが、幽霊もののコージーを紹介したいと思います。幽霊の登場するコージーって別に珍しくもなんともないんですけど、Sue Ann Jaffarian の〈A Ghost of Granny Apples Mystery〉シリーズに登場するグラニー(おばあちゃん)の幽霊がもんのすごくパワフルでいいんですよ〜。地縛霊じゃないのでどこにでも姿を現わして、ひいひいひい孫のエマと大活躍します。幽霊なのに(笑)。
せっかくの機会なので、これまで出ている三作を一気に紹介しちゃいましょう!
まずは、2009年に出たシリーズ一作めの “GHOST A LA MODE“。
親友トレイシーのリサーチにつき合って出かけた降霊会(!)がきっかけで、エマは何代も前の母方の祖母の幽霊が見えるようになってしまう。アップルパイ作りの名人だったことからグラニー・アップルズと呼ばれていたイッシュ・レイノルズだ。グラニーは夫殺しのかどでリンチを受け吊し首になったが、夫を殺してなどいない、自分と夫を殺した犯人を見つけて濡れ衣を晴らしてほしいとエマに頼む。
ちょ、ちょっと待って! だいたい、急に幽霊が見えるようになっただけでも信じがたいのに、会話してるなんてとても現実とは思えない! なんなのよ! と驚愕し、とまどうエマがじつにリアリスティック。おまけに解決すべき事件は100年も前のもの。当時の人間が生存しているはずもない。どうする、エマ!?
いや、どうするったって、事件に取り組まなけりゃ話が終わっちゃいますって。ということで、取り組みますよ、エマは。そして、苦心の末に真犯人を見つけ……というか突き止め、グラニーの無実を証明してみせます。
で、その過程ですてきな男性フィルと知り合います。彼は、週末はおばさんの牧場を手伝っている、50代前半の弁護士さん。あ、言い忘れましたが、エマは44歳で、夫のグラントとは彼の浮気が原因で離婚調停中。フィルも離婚調停中。ちょっとおとなのロマンスですね。
そして、二作めが2011年に刊行された “GHOST IN THE POLKA DOT BIKINI“。
グラントとの離婚も成立し、感謝祭をフィルとふたりでカタリナ島で過ごしていたエマは、そこで波とたわむれる幽霊を見かける。水玉模様の水着といい髪型といい、1960年代に死亡したと思われた。テッサという名のその幽霊は、自分が死んだことを認識していないようで、カーティスを待っていなくてはいけない、と「あちらの世界」に行くことを頑なに拒む。
行きがかり上、エマはグラニーやほかの幽霊の協力を得てテッサが死んだときの事情を探っていくのだが……。
どちらも意地っ張りのグラニーとエマのかけ合いにニマニマすること請け合い。そんなかけ合いのとちゅう、グラニーが見えない人たちが周囲にいるのにはっと気づいて慌てふためいてごまかすエマとか、エマとなにもない空間をテニス観戦のように交互に見る(事情を知っている)友人たちとか、ほかにも、人間の前に姿を現わすにはかなりのエネルギーが必要となるため、幽霊の出現時には周囲の温度が下がるとか、もういちいちツボです。
この二作めでは、エマの元義父となった映画プロデューサーのジョージとそのグループの若かりしころがからんできて、テッサが待ち人と再会して「成仏」する結末はもの哀しくほろ苦いけれど、こういうハッピー(?)・エンドもあるのねとしんみり&ホロリ。
三作めは今年2012年に出た “GEM OF A GHOST“。
エマは知人のジョアンナから5年ぶりに連絡を受け、自動車事故で亡くなった夫のマックスの霊につきまとわれて困っているので追い払ってくれと頼まれる。マックスの存命中は家族ぐるみのつき合いをしていたものの、いまはすっかり疎遠になっていたので、エマにとっては青天の霹靂。
その直後、エマは娘のケリーから、ジョアンナとマックスの娘のレイニーが何度も自殺を試みてクリニックに入っていると聞く。
調べを進めるうち、レイニーの指輪に霊が取り憑いていることがわかる。その指輪はジョアンナがマックスに贈ったもので、マックスの死後、女物にリフォームしたものだった。
前二作にくらべて、この三作めはちと重いです。エマが問題の指輪をはめて霊体験をしたりとゴシックな雰囲気もあり。指輪に取り憑いた女の霊にも哀しい物語がありますが、すべてがその幽霊のせいにされるわけではなく、ちゃんと(?)生きている人間の悪人も用意されています。もちろん本作でもグラニーは大活躍。マックスの幽霊も娘のレイニーを守ろうと奮闘します。
白状すると、じつは最初に読んだのはシリーズ二作め。ポップでキュートな表紙とタイトルに惹かれ(カバーってだいじ!)、どういうわけかシリーズの第一作だと思いこんで読みはじめたのですが、どうも前作があるっぽい。読み進めるうちに疑念は確信へと変わり……。プチ失敗。やっぱりシリーズは頭から読みたいですからね。でも、おもしろかったから結果オーライと自分を慰め、順番が逆になったけど一作めを読み、それから三作めへと進んだ次第。
一作ごとに話は完結しているので、シリーズのどこから読んでも問題はないわけですが、人間関係の変化はね、やっぱり順に読み進めていくのがベストです。人間関係といえば、フィルといい感じにつき合っているエマですが、第三作で新たな男性が登場します。この先波乱が巻き起こるのでしょうか? 次作に期待♪ でもその前に、グラニーとエマの娘ケリーをフィーチャーした短編が来年出るようなので、そちらにも注目ですね。
著者のSue Ann Jaffarian は、ほかに〈The Odelia Grey Mystery〉シリーズ、〈The Madison Rose Vampire Mystery〉シリーズも書いていて、とくに前者の表紙のイラストと題字がまたレトロな感じで、ただいま激しくそそられているところです。やっぱりカバーってだいじ!
●Sue Ann Jaffarian の公式サイト→http://sueannjaffarian.com/
辻 早苗 (つじ さなえ) |
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東京生まれ→関西育ち→横浜在住。サスペンスとロマンスを主食とするホンヤクモンスキー。最新訳書はパトリシア・ワデル『淑女からの求婚』(竹書房 ラズベリーブックス)。 |