今月はスコット・ローリング・サンダーズの短編集 “Shooting Creek and Other Stories”(2017)を紹介します。この作家の名前を知ったのは、 “The Lemonade Stand” という短編が2022年に国際スリラー賞の最優秀短編賞を受賞したとき。《エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン》などの雑誌に短編を発表しているほか、2014年と2018年の “The Best American Mystery Stories” にも掲載されているのを知り、なにか読んでみたいと思って手に取った(実際には電子書籍をダウンロードしたので現物を手にしてはいないけれど)のが、この短編集でした。

 どの短編もダークな雰囲気に満ちていて、しかも冒頭から不穏な空気がただよっています。思ったとおりには絶対に進まないだろうと思わせる感じ、とでもいいましょうか。たとえば、ビーチでダイヤの指輪を見つけた男を描いた “Frank’s Beach” は、スーパーでレジ打ちをするかたわら、ビーチで宝探しにいそしむフランクが主人公です。宝探しといっても、実際に見つかるのは小銭やアクセサリーのたぐいで、一度、タグ・ホイヤーの時計を見つけたことがある程度。ところがある日、いつものビーチを探索していると、大ぶりのダイヤがついた指輪が見つかります。ただ、ひとつ問題があって、指輪は持ち主の指にはまった状態でした。掘り返してみると、女性の死体が……。フランクは指輪を盗み、死体をもとどおり埋めてしまうのです。この愚かな行動がどんな結果につながるのか、だけでなく、彼のどんな過去に起因しているのかも読みどころになっています。

 “The Best American Mystery Stories 2014” に掲載された “Pleasant Grove” は、雪が激しく降るなか、ジョニーという若者が母親の命令で買い物に行かされる場面から始まります。その帰り道、見かけない車が事故を起こすのを目撃するのですが、運転手は顔面を激しく損傷し、呼びかけにも応じません。警察に通報するため電話があるところまで戻ろうとしたそのとき、二十ドル札が詰まったバッグに目がとまります。ジョニーはそれを盗んで、家まで逃げ帰るのです。その後、事故を起こしたのは盗難車で、前日に近くの町で発生した銀行強盗で使われたことがわかります。運転していた人物は車を捨てて、行方をくらましているとのこと。しかもその人物というのが……。ここから先は息をするのもはばかられるほどの緊迫感に満ちた展開がつづきます。お金は人の心をここまで黒くするのかと暗澹たる気持ちにさせるラストが印象的です。

 切断された人間の足を犬がくわえている場面から始まる “Waiting on Joe” もなかなか怖い作品です。なぜ主人公のスティーヴンは警察に通報せず、足を新聞でくるんで森のなかに埋めたのか。いろいろ想像しながら読んでいくのですが、これも展開がすごい。まったく関係のない話をしているようでいて、ちゃんとラストに向かって集束していくのです。やはりお金は人の心をここまで……(以下同文)という気持ちです。ついでながらこれは、 “The Best American Mystery Stories 2018” に掲載されています。

 とても気に入ったので、次はあのルー・バーニーが賛辞を寄せている長編 “Right Between the Eyes”(2023)を読もうと思っています。1981年の少女誘拐事件が30年後にまで影響をおよぼし、あらたな事件を引き起こすという話のようで、控え目に言っても、好みのにおいしかしません。

東野さやか(ひがしの さやか)

最新訳書はローラ・チャイルズ『ブレンド・ティーは死を占う』。その他、クレイヴン『デスチェアの殺人』、テイラー『ボニーとクライドにはなれないけれど』、ヴァン・ペルト『親愛なる八本脚の友だち 』、スロウカム『バイオリン狂騒曲』など。埼玉読書会と沖縄読書会の世話人業はただいまお休み中。ツイッターアカウントは @andrea2121

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