刊行からちょっと時間がたってしまったので、今さらかもしれませんが、家事アドバイザーの事件簿シリーズ第一作『感謝祭は邪魔だらけ』はおもしろいですよ、奥さん!

 古く美しい家並みが残る町とおいしい家庭料理の数々、感謝祭を祝うため集まった面々の裏の顔、元気なわんちゃんにかわいい仔猫ちゃん。もちろんイケメンも宿命のライバルもうるさいママも登場して、コージーの王道まっしぐら。おまけに家事の秘訣まで教えてくれるという親切設計。なんといっても「家事アドバイザーの事件簿」ですからね。まあ、お国のちがいもあるので役に立つかどうかは別にして、なるほどね! とメモしたり、こんなことする主婦がいるのかよ! と半分キレたりしながら読むのもまた楽し。

 主人公のソフィ・ウィンストンは四十四歳、バツイチ。意外にも主婦じゃないんですよ。しかも本職はイベントプランナーで、感謝祭のごちそう用にスーパーで七面鳥その他を買っているとき、新聞に家事のコラムを書いてほしいとスカウトされるのです。家事アドバイザーになれるなんて夢みたい、お金はもらえなくてもいいくらい、と舞い上がるソフィ。なぜかというと、子供のころから目の上のたんこぶ的存在のナターシャが、売れっ子家事アドバイザーとして、ライフスタイル・アドバイスのコラムを書き、ケーブルテレビでライフスタイル提案番組を持っていたから。

 ナターシャが提案するのはやたらと気取っていておしゃれだけど、とにかく手間と時間とお金がかかることばかり。こんなの参考にする人がいるの?と思うけど、セレブなにおいはたしかにするので、必死にまねする人も多い。ここらでひとつ、ほんとうに役に立つアドバイスをして、ナターシャの鼻を明かしてやろうじゃないの! とソフィは奮起するわけです。おまけにナターシャの現在の恋人は、ソフィの元夫マース。マースとは二年まえに円満に離婚しており、その原因もナターシャではないけれど、ソフィとしてはなんかいろいろおもしろくないわけで。

 で、感謝祭。アメリカの感謝祭といえば、家族が集まって七面鳥料理などを食します。

 マースがおばさんから相続して夫婦でリフォームし、離婚時にマースの持ち分を買い取って自分のものにしたという、すてきな古い家に住んでいるソフィは、両親と妹のハンナ(バツ二でもうすぐ四十歳)とその婚約者クレイグを招待し、感謝祭のごちそうをふるまうことになっているのですが、お客(といっても家族だけど)は宿泊もするので朝昼晩と食事の世話をしなければならず、感謝祭の前日には〈びっくり詰めもの料理大賞〉という料理コンテストに参加することになっていて、その準備やら何やらで目が回るような忙しさ。

 そのうえ仔猫の里親になり、ついでにその仔猫の里親さがしをしていた男性の死体を発見して、その男性がソフィの写真を持っていたことからソフィは容疑者扱いされてしまいます。おかげでイケメンのウルフ刑事と出会えるわけなんですけど。

 料理コンテストのほうも波乱含みで、コンテスト主催者で審査員でもある実業家サイモン・グリアの死体をまたもや発見、しかも凶器らしきものをつかんじゃって、指紋べったり。これはもうやばいんじゃないの、と思いきや、動機がないので案外あっさり話を信じてもらえて逮捕にはいたらず、ほっ。

 としたのもつかの間、今度は感謝祭のディナーに元夫、その母、元夫の友人、元夫の弟夫婦、あとはもちろんナターシャ、母が勝手に呼んだソフィに首ったけの旧友、ついでにご近所さんまで招待することになってしまうのです。それも土壇場になって。わたしなら家出したくなるわ。まあ家は広そうだけど、材料やら手間やらを考えたら、物理的に無理だと思うんですけど。でもソフィは内心うんざりしながらも、てきぱきと準備をこなしちゃうんですね。母親もちょっとは手伝ってくれるけど、実質ほとんどひとりで。しかも料理は全部手作り。なんなのこの人! そもそも元夫の家族全員を受け入れちゃうってどういうこと? 

 それにはもちろん、イギリスからアメリカに入植した人たちが、トウモロコシなどの作物の栽培法を伝授してくれた先住民族たちを招いて、最初の収穫を祝ったという感謝祭の起源にも関係してくるのでしょうが、それにしたってこの心の広さ。この博愛精神。すごいよ、ソフィさん。それともアメリカの主婦ってみんなそうなのかしら(ソフィは主婦じゃないけど)。いや、それはないよね。だって、単に料理が好きというだけじゃできませんよ。料理はもちろん掃除や洗濯もして(ちなみに掃除は嫌いらしい)、犬猫の世話もして、たのまれた家事コラムも書いて、そのうえ素人探偵もやっちゃうんだから。

 あ、肝心の素人探偵のことを忘れてました。もちろんコージーミステリですから、ちゃんと事件についてかぎまわりますし、謎解きもありますよ。ご近所の友人といっしょに関係者の周辺を調査したり、あやしい人びとの行動に目を光らせたり。何気ない会話や行動や現象、日々のあれこれのなかも謎解きの鍵がひそんでいて気を抜けません。しかし、オーバー40でこのバイタリティ、見習いたいです。猫の手も借りたいほど忙しいだろうに、大量の家事を難なくこなしての余裕の行動。かなり手際がいいんだろうな。さすが家事アドバイザー。

 家事アドバイザーとしてのソフィとナターシャのちがいは、さっきもちょっと触れましたが、ソフィは実用系、ナターシャはセレブ系。ソフィのアドバイスは、市販品を使ったり、代用したりして、手間ひまかけずに楽して楽しくがモットーの人向けで、ナターシャのほうは、オーガニックやエコにこだわって、手作り感を大切にする人向け。でも手間のかかることをやりながら、ミスコン体型を維持してヘアスタイルもメイクも完璧なナターシャもすごいと思うわ。そっちもちょっと見習いたいかも。

 ちなみに今月二作目が出るということなので、まだ読んでないという方、読むなら今でしょ!

上條 ひろみ(かみじょう ひろみ)

英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&B〉シリーズなど。最新訳書はリンゼイ・サンズ『ハイランドの戦士に導かれて』(二見文庫)。趣味は読書とお菓子作りと宝塚観劇。

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